1. トップ
  2. ファッション
  3. 俳優・黒羽麻璃央さんインタビュー「言霊はあると思うし、言葉は重い。だからこそいい言葉に出合いたい」

俳優・黒羽麻璃央さんインタビュー「言霊はあると思うし、言葉は重い。だからこそいい言葉に出合いたい」

  • 2022.6.9
  • 799 views

「詩集を読むのは生まれて初めて」という、俳優・黒羽麻璃央さん。そんな黒羽さんが、詩人による佳作を集めた「にほんの詩集」シリーズに触れ、心に刺さった一篇とは? 〝詩の初心者〟ならではの視点で、詩集との上手な触れ合い方もレクチャーしてくれました。

自分の無知をチクチクと、でも深いところまで刺された気した

出典: 美人百花.com

Tシャツ¥25,300/ato(ato AOYAMA) パンツ¥28,600/HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE (ISSEY MIYAKE INC.) 他スタイリスト私物

「言葉って改めて『文字』として読むと刺さってくる部分が違いますよね。特に中島みゆきさんの詩は『歌』として知っていたし、メロディーラインと一緒に耳に届いていたけど、文字だけで読むとまたちょっと捉え方が変わって、より沁みやすくなる。曲の歌詞として聞いていた言葉の情報を耳ではなく目で得るような、不思議な感覚がありました。そんな中島さんの詩の中でも印象に残ったのは『顔のない街の中で』。〈見知らぬ人〉ならば何が起こっても何を失っても、自分にとってはなんでもない。〈見知らぬ人〉が増えていくとだんだん物と物に見えてくる……っていう描写は、これまでそんなこと考えたこともなかったけど、確かになって思いました。今この瞬間も知らないところで争いが起こり、見知らぬ人たちが殺し合っているけど、僕らは今日もおいしいごはんを食べているわけで……。もし身内の誰かひとりでも争いの場にいたらそんな気分にはなれないはずなのに、顔も知らない人たちだからこそ、僕らはこうして普通に過ごしてる。そんな一種の残酷性にハッとしたというか、無知って怖いなと。知識もそうだけど、人のことを『知らない』自分の無知をチクチクと、でも深いところまで刺された気がしました」

好きな詩を見つけてから街や人の見え方が変わった

出典: 美人百花.com

「僕は言霊っていうのを信じていて。目標にしていることは口に出すようにしています。口に出さない方が美しくてカッコいいっていう意見もあるけど、僕は『こんなことやってみたい』って思ったらささいなことでも口にする。自分が投げかけた言葉によって誰かが反応してくれたり、救いの手を差し伸べてくれた経験があるから、言葉の力を信じているんですよね。

人からの言葉で救われたこともあって。いちばんよく覚えていてこれからも残っていくだろうなと思うのは、母の言葉。僕、20代の頃、今後どうするか悩んでいた時期があったんです。ジュノンボーイに選ばれてこの世界に入ってきたけど、僕自身は舞台が好きだったので舞台の仕事を増やしていって。でも、ドラマとかに出ないと僕がどんな仕事をしているのか、身近な人にいまいちわからないのが精神的にキツかった。地方出身なので、応援してくれる地元の友達や親の期待を背負っていたつもりだったけど、みんなのイメージどおりになっていないのかもって勝手にプレッシャーを感じて苦しくなっていたんです。そんなときに『(役者を)やめようかな』って親に連絡したんですよね。『まだがんばりなよ』って引き止めてもらうことを心のどっかで期待しながら(笑)。だけど母から出たのは『イヤなら早く帰ってきなさい』って言葉。それを聞いたとき『あ、この仕事をしてなくても自分を受け入れてくれる場所があるんだ』って思ったんです。さらに『あなたが芸能の仕事をしてなくても私たちは別に困らない』って言われて、その瞬間、売れなきゃ、成功しなきゃって思い込んでいた重荷がふっと軽くなった。母は何も考えず本当に『帰ってくれば』って思って言っただけだと思うけど(笑)、僕の中では『いつでも帰れるなら、もう少しがんばろう』っていうふうに気持ちが切り替わって、すごく救いになりました。今でも母の言葉を思い出すと『最悪、なんとかなる』って思える。それが心の支えです」

出典: 美人百花.com

スーツ¥132,000、シャツ¥19,800、ネクタイ¥16,500/以上GOTAIRIKU(オンワード樫山 お客様相談室) シューズ¥35,200、バッグ¥31,900/ともにムッシュ ニコル(ニコル プレスルーム) 他スタイリスト私物

「そんなプラスの言霊もあるけど、もちろんマイナスの言霊もあって。SNSとかでも好意的な意見がたくさんあるのに、否定的な意見をひとつ見つけただけで不安になってしまう。賛否両論あるのは当たり前だし、完璧を求めているわけじゃないけど、それぐらい言葉って重いんですよね。だからこそいい言葉との出合いはすごく大事だと思っています。実は僕、今回詩集を読むのは初めてだったんです。台本以外、文字を読むのがあまり得意じゃないので(笑)。でも、そんな僕でも読みやすくて、さっき言った『顔のない街の中で』は特に頭に残っている。これまで(詩集に)触れてこなかったから、逆に新鮮だったんでしょうね。しかも小説と違って詩は一篇が短いから次々と読めて、好きなとこでやめられるのがいい。僕は寝る前に読んでみたけれど、朝、仕事の前とかも時間があるなら、読んでみるといいかもしれないですね。印象に残った詩を見つけて、それをその日のテーマにすれば何か変わる気がする。僕も中島さんの詩を読んでから、人が多い場所に行くたび街や人の見え方が変わりました。わずか数十行なのに、言葉の力ってすごいなって思います」

黒羽さんが出演&名作を朗読するスペシャル動画を美人百花公式YouTubeで公開中!

なんと黒羽さんには、谷川俊太郎さんの名作「朝のリレー」をイメージした動画にもご出演いただきました♡ 今の時代だからこそ考えさせられる詩が、より心に迫って感じるはず。

動画はここからチェック!

Profile

黒羽麻璃央(くろばまりお)

1993年7月6日生まれ。2012年俳優デビュー。舞台を中心に映画、ドラマと幅広く活動。5月からはミュージカル「るろうに剣心 京都編」が開幕、秋には映画「野球部に花束を」が待機中。自身がプロデュースする「ACTORS★LEAGUE in Baseball 2022」が8月22日に東京ドームにて開催予定。

Information

出典: 美人百花.com

ハルキ文庫の詩集シリーズよりもさらに厳選した名詩を、人気装丁家・鈴木久美氏とイラストレーターの西淑氏による美しい造本にて、角川春樹がプロデュースしてお届け。

にほんの詩集 谷川俊太郎詩集、にほんの詩集 長田弘詩集、にほんの詩集 中島みゆき詩集 各¥1,980/角川春樹事務所 他、同シリーズ 吉野弘詩集、金子みすゞ詩集、萩原朔太郎詩集が発売中。6月15日には、中原中也詩集、石垣りん詩集、まど・みちお詩集も発売予定。

掲載:美人百花2022年5月号「1日の〝始まり〟と〝終わり〟は、心に寄り添う「詩」と一緒に」

撮影/中村和孝[人物]、坂口トモユキ[静物] スタイリング/ホカリキュウ ヘアメイク/Erika(lomalia) 取材・文/若松正子

元記事で読む
の記事をもっとみる