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EXIT兼近大樹さんインタビュー「批判も含めてお笑い芸人だから、ふざけるしかないんですよね」

  • 2022.6.3

お笑いコンビ・EXITの兼近大樹さんが、そのユニークな文学論、芸人ならではの言葉へのこだわりをもって、詩人による佳作を集めた「にほんの詩集」シリーズを読み解きます。「そんな読み方もあったのか!」と、すべてが目からウロコの解釈は、なじみのなかった詩の世界をより味わい深く、無限に広げてくれそうです。

言葉を発信するときはふざけるようにしてる

出典: 美人百花.com

「オレ、文学とかよくわかんないから短編小説みたいな感覚で詩集を読んだんだけど、どれもめちゃめちゃ文体が自由なんですよね。特に中島さんは最初、歌手の中島みゆきさんと同じ人だってつながってなくて、この人の作品だけ一篇の中に同じフレーズがいっぱい出てきて、書き方が特殊だなと。いろんな人が共感するためには言葉を繰り返すことも必要なんだな〜って思っていたら、歌詞だったっていう。『銀の龍の背に乗って』とか、後半に知っている曲がどんどん出てきて気づきました(笑)。あと谷川俊太郎さんの『ぼく』、マジでよかった。全部平仮名で書いてあるんだけど、それって子供の目線でいるってことだと思うんですよ。僕も小説を書いたとき子供パートは平仮名にしたから、自分と同じだ!って思って、それがすごくうれしかった。内容は『ぼく』が生まれたとこから『しぬ』までの一生を描いていて。オレはセミの1週間みたいのを思い浮かべていたんだけど、よく読むと実際に死ぬってことじゃなく、自分の中にある子供の感覚が死んだのかなって。大人になっていく過程で『子供の自分』を殺したのかもって感じた。めっちゃ適当で勝手な解釈ですけど(笑)。そういう自由さがおもしろいっていうか。オレも言葉を発信するときは自分の中にチャンネルがいくつもあって。テレビは番組によって『おもしろい』ことのルールが違うからそれに沿ってしゃべるし、インスタとかは観る層に向けたキャラにしてる。さらにYouTubeに行けばまたそこでの『あるある』に合わせるみたく、場所によって全部変えているんですよ。ただ、どこでも『ふざける』のは同じで、真面目にしゃべるのはこういう雑誌のインタビューだけ。なかには怒っちゃう人もいるけど、それはそれ。批判も含めてお笑い芸人だから、ふざけるしかないんですよね」

言葉って捉える人によって重量が変わる「自由」もある。だからこそ重い

出典: 美人百花.com

「でも言葉とか文字の影響の大きさっていうのは実感しています。SNSなんていいことを書いても、それをひっくり返した解釈されて『最低だ』とか言われちゃうし。言葉って捉える人によって重量が変わっちゃう『自由』もあって、だからこそ重い。僕自身、この世界に入ったのは又吉さんの小説(『火花』)を読んで『オレも小説を書きたい、だったら芸人になろう』って思ったのがきっかけで。今こうしてお笑い芸人として生きていられるのは、それこそ文字の力のおかげ。言葉はオレのすべてと言ってもいいんです。だから、逆に詩とかは職業的に書けないと思う。だってこんだけ毎日ふざけて誰かをいじったり、いじられてる芸人が急に感動する詩とか書いても、はぁ?って。オレが読む側だったら納得いかないですもん(笑)」

なんなら「…」だけで、1日中考えてヒマをつぶせるんです

出典: 美人百花.com

「ただ『日常で感じる文学』みたいのはあるんじゃないですかね。例えば飲食店の裏の汚い喫煙所で料理人の人がタバコを吸っているのをたまたま目にしたとき、その場面を言葉にしたらおもしろいなとか。1冊の本にするほど厚くないけど、一瞬を切り取るのが詩なのかなって思ったりもして。そう考えると詩ってソーラーパネルみたいなものかもしれない。太陽を直接的に使えないように、詩も読んだからといってすぐ自分に生かすことはできないけど、それを電力にして自分を動かしてくれるというか。詩という太陽光を吸収して発電して、エネルギーとして還元するみたいな。今回読んだ詩集も、そうやっていろんなことに生かしてもらえそうなものが多かった。だから、読み方はほんとそれぞれでいいんじゃないかな。ちなみにオレは1行読むごとにあえて作者の意図とは違うことを妄想しながら読んでいました。『多分こういうことを言いたいんだろうけど、オレはこう捉える』ってあれこれ考える方が楽しく読める。昔から妄想癖がすごくて、なんでも角度を変えて見るっていうのがオレの生き方なので、それが詩を読むときも出ちゃうのかもしれない。そもそも人の感情とか感覚とか『これこれこうです』って説明しないし、自分でも正解なんてわかってなかったりするじゃないですか。なのでオレは人によっては邪魔だと感じる余白や余韻みたいなものがすごく好き。なんなら『…』だけで、それが何かを見つけたあとの『…』なのか、後悔してる『…』なのか、1日中考えてヒマをつぶせるんです。ま、そんなこと考えるよりシャネルのバッグが欲しいとか思ってる人の方が多いんだろうけど(笑)、オレは『…』を喜べる人生は素敵だなって思いますよ」

Profile

兼近大樹(かねちかだいき)

1991年5月11日生まれ。お笑いコンビEXITのボケ担当。「EXITV」「ホンマでっか!?TV」など数々のレギュラー番組を抱える他、ライブ活動も精力的にこなす。昨年発売した初の小説「むき出し」も大きな話題に。

Information

『にほんの詩集』

出典: 美人百花.com

ハルキ文庫の詩集シリーズよりもさらに厳選した名詩を、人気装丁家・鈴木久美氏とイラストレーターの西淑氏による美しい造本にて、角川春樹がプロデュースしてお届け。

にほんの詩集 谷川俊太郎詩集、にほんの詩集 長田弘詩集、にほんの詩集 中島みゆき詩集 各¥1,980/角川春樹事務所 他、同シリーズ 吉野弘詩集、金子みすゞ詩集、萩原朔太郎詩集が発売中。6月15日には、中原中也詩集、石垣りん詩集、まど・みちお詩集も発売予定。

掲載:美人百花2022年5月号「1日の〝始まり〟と〝終わり〟は、心に寄り添う「詩」と一緒に」

撮影/中村完(f-me) スタイリング/ホカリキュウ ヘアメイク/中込奈々(Octobre) 取材・文/若松正子

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