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左ききは天才が多い? 実は科学的に説明されているんです

  • 2022.5.28
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左ききは天才が多いって本当? スポーツ選手は左ききが有利なの? そもそもなぜ右ききが多くて左ききが少ないの? よく考えてみれば謎が多い、「きき手」の世界。きき手の謎は、古今東西さまざまな研究者が解明しようとしてきた。神経心理学教授の八田武志さんも、きき手研究者の一人だ。

八田さんの著書『左対右 きき手大研究』(化学同人)は、八田さんが集めてきた膨大なきき手研究資料のなかから、左ききに関する俗説は正しいのか、きき手はどう決まるのか、動物にもきき手はあるのかなど、特に興味深い研究をまとめた一冊だ。気になる話題を一部ご紹介しよう。

左ききはスポーツで有利?

「左ききは天才肌」というイメージをもっている人もいるかもしれない。スポーツや勉強で、実際左ききはどれほどの才能を発揮しているのだろうか?

スポーツをみてみよう。まずはテニスだ。プロテニス選手として登録されている全選手では、左ききの割合は男子5.1%、女子7.7%と、一般的な割合と変わらない。一方、世界大会上位者やランキング上位者をみると、男子はいずれのデータでも左ききが20%を超えており、女子でも左ききの割合が有意に高かった。

続いて野球だが、一般的にもレジェンド選手は左打ちというイメージがあるだろう。日本の「名球会」(2000本安打、200勝、250セーブのいずれかを達成した選手のみが入会)をみると、2021年12月時点の会員のうち、左投手は22人中6人とそれほど多くないが、打者は約半数近くが左打ちだそうだ。

テニス、野球のいずれも左ききが活躍していることがわかる。左ききには、テニスの場合は相手の慣れない球筋で打つ、野球の場合は左打ちのバッターのほうが一塁に近いという利点がある。加えて、左ききならではのスポーツの才能の理由があるのだが、それはのちほど解説しよう。

左ききは勉強ができる?

勉強ではどうだろうか。知能の発達が極端に早い子ども、いわゆる「英才児」ときき手の関係を調べた研究がある。アメリカの研究で、大学入試の参考となる学力試験システム「SAT」を、通常高校生が受けるところ、12~13歳で受けた子どもが対象だ。結果、英才児の左きき率は、高校生でSATを受けた学生よりも有意に高かった。

またイランの研究でも、左ききが学業優秀であるとする結果が出ている。イランでは大学の統一試験があり、合格率が約30%と狭き門なのだが、この試験において、左ききは右ききよりも合格率が高いことがわかったのだ。特に芸術系の合格者は、左ききと右ききの合格率の差が大きいそうだ。

実は脳に秘密があった

なぜ、左ききはスポーツや勉強で才能を発揮するのだろうか。それには、左ききが生まれる理由として現在もっとも有力視されている、ゲシュヴィンドという神経学者の説が関係してくる。

ゲシュウィンドの説はこうだ。胎児期に男性ホルモンが過剰に分泌されると、左脳の発達が遅れ、右脳の発達が促進される。左脳は右半身を、右脳は左半身をつかさどっているという事実はご存じだろう。左脳よりも右脳が発達した結果、右脳がつかさどる左手がきき手になるのだという説だ。

それがなぜスポーツや勉強に影響するのか。左脳は主に言語関連(文字や文章の読み、文法などの処理)をつかさどり、右脳は非言語的な分野(画像や空間、時間などの処理)をつかさどっている。左ききは左脳の発達が遅いため、言語能力の発達は遅れるが、右脳が発達して、非言語的な運動能力・数学・芸術に優れる可能性があるのだ。

「左ききは天才肌」というイメージが、ただの迷信ではなさそうだということがわかった。ただし、必ずしもゲシュウィンドの説が正しいと決まったわけではなく、きき手に関する謎にはどんなものにも諸説がある。本書はその膨大な諸説を、研究者の視点から選りすぐって紹介している。きき手研究の奥深い世界へ、左ききのあなたも右ききのあなたも両ききのあなたも、ぜひ足を踏み入れてみてはどうだろう。

■八田武志さんプロフィール
1945年、滋賀県生まれ。68年、大阪市立大学文学部心理学科卒業。大阪教育大学心理学教室教授、名古屋大学大学院環境学研究科心理学講座などを経て、名古屋大学名誉教授、現在、関西福祉科学大学学長。文学博士。専門は神経心理学。著書に『「左脳・右脳神話」の誤解を解く』、『脳のはたらきと行動のしくみ』など多数。

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