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新川帆立さん 「女性ならではの生きづらさ」弁護士の時も、作家になってからも

  • 2022.5.19
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元弁護士で元プロ雀士。異色の経歴を持つ作家・新川帆立さん。現在フジテレビ系の月9で放送中のドラマの原作となった小説『元彼の遺言状』に続き、5月11日には最新刊『競争の番人』(講談社)が発売され、これも7月からの月9ドラマに決まるなど、話題作を次々発表しています。31歳となり、これまで男性優位の社会でもがいてきたこと、出産や結婚について思うことなど、心の内を語っていただきました。

出産のタイムリミットを刻む針の音が響いている

――新川さんは作家デビューまでに何度か転職されているそうですね。

新川帆立さん(以下、新川): 弁護士になってから今まで、3回の転職で“キャリアダウン”を繰り返し、勤務時間を減らして小説に充てられる時間を徐々に増やしていきました。

最初に弁護士事務所で働いていたときはすごく忙しくて、仕事以外のことがまったくできない状況でした。その後、一般企業に転職して、インハウスロイヤーになりました。会社の中で法務部員として働く弁護士です。ようやく時間ができて、小説を書けるようになりました。ただ30歳までにデビューしたいと思っていたので、もっと小説を書く時間がほしくなり、さらに自由な時間が持てる企業へ転職しました。

朝日新聞telling,(テリング)

――どうして30歳までにデビューしたいと思っていたのですか。

新川: 出産のタイムリミットを感じていたからです。「小説を書く」のと「会社で働く」のは両立できても、そこにプラス出産や子育てが入ると「もう同時進行は無理だな」って思って。だから出産や子育てをする時期までに専業作家になりたい気持ちがありました。それでざっくり逆算して、30歳までに作家デビューしたいと思っていたんですよ。デビューしてからも子どもがすぐにできるとは限らない。だから余計に「30歳までに」と焦っていました。

そうしたら、29歳のときに『元彼の遺言状』で『このミステリーがすごい!』大賞を頂いたので、もうギリギリ間に合ったというか。今は昼間の仕事を辞めて小説だけに専念しているので、たとえ今子どもができたとしても、「子育て」と「小説」の2つならどうにか両立できそうと思っています。

――30歳を前に結婚やキャリアなどに悩む「29歳問題」は、tellingでも特集してきていますが、新川さんも同じように悩みを抱えていたのですね。

新川: 「仕事をしたい」と「結婚したい」と「子どもがほしい」は、本当は全部違う話なんですけどね。30歳が近づいてくるとコンボで一体となって襲ってきますよね。

20代のときは、タイムリミットをカウントする時計が頭の中でチクタクチクタク……と針を刻んでいた感覚がありました。telling,の読者さんたちと私も、同じ状況なのだと思いますね。たとえ30歳の問題をやり過ごしたとしても、5年後には確実に不妊、妊活問題が待っています。自分ではどうすることもできない環境要因が大き過ぎますよね。

朝日新聞telling,(テリング)

弁護士事務所でも、働きづらさがあった

――以前、働いていたときのご経験で、女性も男性も成果を平等に見る弁護士事務所に入ったはずなのに、働いてみるとかなり大変だったとか。

新川: たしかに女性弁護士だから成果を低く見られるということはありませんでした。でも、男性と同等程度の成果を出すための環境が女性側には整っていなかったんです。家庭の事情で長時間労働ができない女性弁護士が多いのに、長時間労働をしないことには成果が出せない仕組みになっていました。そのほかにも、細かな働きづらさがありました。

事務所には時短勤務制度があったものの、制度の案内が女性弁護士にしか送られていないこともありました。もちろん制度上は男性弁護士も時短勤務が可能なのですが、まるで「子育ては女の仕事だ」と宣言しているような印象を与えますよね。

そのほか案件が片付いて打ち上げに行くと、2次会はキャバクラということもありました。男性側はあまり考えて場所を決めていないと思いますが、働く女性からするとチリチリとストレスが募る状況でしたね。

――弁護士時代に「女性ならではのお仕事」を振られることはありましたか?

新川: 私は企業案件ばかりでしたので、そういった仕事は少なかったのですが、“町弁”と言われる一般民事に携わる女性弁護士には、依頼者に寄り添ってお話を伺う“ケア系のお仕事”が振られやすいと聞きます。

そういった案件は時間がかかる割に報酬が低いので、統計上、女性弁護士はフルタイムで働いても男性弁護士の約6割程度の収入と言われています。実際には様々な要因で男性ほどフルタイムでは働けていない女性も多いかもしれないですね。

朝日新聞telling,(テリング)

この「女性ならでは」の問題は、作家になってからも感じることが多いです。小説の紹介よりも先に、外見をまず話題にされたりする違和感は常にあります。SNSでも荒し的な書き込みが多かったり、容姿について書かれたり。ほかにも「あなたは女性だから、女性キャラクターをうまく書けるんでしょう?」と言われると、男性作家さんでも女性を書くのがうまい方もいらっしゃいますし、女性を書けない女性作家さんもいるのにと思ってしまう。小説のおもしろさは、作家の想像力が属性を超えてくるところにあると思うんですけどね。

女性は評価軸がたくさんある。だからこそ生きづらい

――新川さんは、もっと男女平等に扱ってもらえるだろうと期待して、上京したとも伺いました。

新川: 比較的男性優位なカルチャーが強い宮崎市で育ったからだと思います。そもそも「女性は大学に行く必要があるの?」という雰囲気もありましたから。都会に出て、洗練された世界に入って専門職に就けば、男女平等に扱ってもらえると期待していました。

でも結局は、どこまでいっても「女性であること」は付いて回ります。さらに弁護士などのバリバリと働く環境に身を置くと、男性同士の競争も激しい分、女性というだけで排除されがちになる。よって、より厳しい状況下に置かれてしまう。

これは自己責任じゃないと思うんです。頑張ってみても私は女性であることから逃れられない。そういう意味で、女性の生きづらさは切実な問題なので、今後も書いていきたいのです。小説とは「嘘」でできているものですが、作者が切実だと感じている問題しか書けないと私は思うのです。作家は自分の心情には嘘がつけません。だから真に問題意識がないと、いいものが書けないなと思っているんですよね。

朝日新聞telling,(テリング)

――「やりたいことがあってもなかなか踏み出せない」というtelling,読者も多いです。ぜひメッセージをお願いします。

新川: 男性の場合は仕事を懸命にしていれば、社会的な信用などが付いてくるので、人生の優先順位がすごくはっきりしているんですね。

でも女性の場合は評価軸がたくさんある。結婚や子育て、家事、外見など、それぞれ評価がついて回る。仕事だけ頑張っても、周りからいろいろ言われてしまうし、子育てだけに専念しても、社会から疎外されてしまいかねない。

何かと難しいんですよね、女性は。すべてを完璧にやれるのはごく限られた特殊なスーパーウーマンで、普通の人からしたら“無理ゲー”でしかない。

だから今、踏み出せなくても、ご自身を責めないでほしいです。踏み出せないのは、踏み出せないなりの環境の問題があるのだと思います。嵐が過ぎ去るのを待つしかない。でもなかなか嵐は去ってくれないですね。

私の場合はフィクションの世界から、そういう環境を変えていきたいと思っています。女性が生きづらくならないように。いろんな人がいろんな分野で、ちょっとずつ女性の環境を変えようとしてくれています。それで少しずつ何かが変わるといいな。

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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