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文科省がひた走る”教育のデジタル化” 教科書でも…課題は?

  • 2022.5.17
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デジタル教科書の課題は?
デジタル教科書の課題は?

文部科学省は、国公私立の全小中学校で「学習者用デジタル教科書」を試してもらおうと、国の予算で導入の促進を図っています。一方で、読売新聞が連載「デジタル教科書を問う」(4月18~21日、全4回)などのキャンペーンを張っていることに象徴される通り、デジタル教科書の本格導入について、慎重な対応を求める声も根強くあります。しかし、文科省側が導入にブレーキをかける可能性は低そうです。どんな課題があるのか、見ていきましょう。

国負担で全小中学校、普及促進

教科書は「主たる教材」として、学校に使用義務が課せられています。2019年度からは、紙の教科書をPDF化したデジタル教科書も正式な教科書と認め、必要に応じて紙とデジタル、両者を併用できることにしました。PDFに限ったのは、教科書検定の際、音声や動画などの検定まで行うことが難しかったからです。

この時点では、児童・生徒が使う端末の方が、目標としていた3クラスに1クラス分さえ整備が遅れていたような状況で、実際にデジタル教科書が普及するのは、もっと先だと見なされていました。

それが2020年2月、新型コロナウイルス感染症の拡大防止で政府から全国一斉の臨時休校が求められ、オンライン授業を行う必要に迫られたことから、全小中学校に1人1台端末を整備することなどを柱とした「GIGAスクール構想」が一気に実現しました。

これを契機に、2021年度補正予算で「実証事業」、2022年度当初予算で「普及促進事業」と銘打って、小学校5・6年生と中学生に、付属教材を含むデジタル教科書1教科分を提供し、国が全額負担することにしました

「学習指導要領の全面実施にも必要」との前提

デジタル教科書を巡っては、目の疲れや姿勢の乱れなど健康面への不安をはじめ、本当に学力を向上させる効果があるのか、疑問視する向きも依然あります。

しかし文科省は、そもそも新しい学習指導要領(2022年度は高校の新入生も全面実施)が目指す「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング=AL)には、デジタル教科書が必要だという立場です。新指導要領では「情報活用能力」を、言語能力と並ぶ学習の基盤と位置付け、全教科を通して育成することにしました。

これからの時代は情報通信技術(ICT)を使って仕事や生活を行うことが当たり前だとして、学校時代からICTを普段使いさせる狙いがあります。電子黒板に提示できる「教師用デジタル教科書」は広く普及していますから、学習者用デジタル教科書が普及すれば、児童・生徒の書き込みなどが、即時に電子黒板で共有できるなどのメリットもあります。

政府全体の方針も反映しています。医療分野に続き、教育分野でもビッグデータを利活用しようという流れです。デジタル教科書やデジタル教材を使えば使うほど、学習履歴が自然と蓄積できます。それを個人の学習改善に生かすとともに、匿名化された2次情報を、政策の検証や研究に生かすこともできるからです。

教員に「授業研究の余裕」不可欠

ただし、デジタル教科書を授業で普段使いするには、まだまだ課題が山積していることも確かです。

ICTといえば若い人の方が得意だと思われがちですが、学校では、むしろ授業方法が確立している中堅クラスの教師の方が、デジタル教科書を含むICTをよく活用していることが、各種調査から明らかになっています。一方で、教員の多忙が深刻化しており、現場経験の浅い若手教師を含めて、効果的に使うための授業研究の時間が十分に取れないのが悩みです。

また、文科省が委託調査で小中学生に尋ねても、紙よりもデジタルの教科書がいい点として半数を超えたのは「図や写真が見やすい」「いろいろな情報を集めやすい」ぐらいでした。一方で、「デジタル教科書を使うようになって勉強が楽しいと感じるようになった」との回答は、幅広い教科で多数派を占めています。

同調査では、教員の半数以上が「使わない週もある」と答えています。学校現場に余裕がなければ、たとえデジタル教科書が本格的に整備されても、効果的な使い方が実践されるまでには、程遠いのが現状なのです。

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

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