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ゼロ・ウェイストタウン「徳島県上勝町」に学ぶ、厳しさを豊かさに変えるヒント

  • 2022.5.14
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徳島県・勝浦川の上流に位置する山間の静かな町「上勝町」。この地域は、2003年に自治体として日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、現在は80%以上のリサイクル率を達成している。人口は約1,450人と小さな町だけれど、移住者も増え続けている未来のある場所だ。

今回は、そんなゼロ・ウェイストタウン「徳島県上勝町」について、徳島県上勝町役場 企画環境課の菅 翠さん、合同会社RDNDの東 輝実さん、ゼロ・ウェイストセンター「HOTEL WHY」の大塚 桃奈さんにお話を伺った。

ごみが多い町だった? ゼロ・ウェイストタウンができるまで

Women's Health

上勝町はゼロ・ウェイストを推進せざるをえなかった歴史があるのだとか。

「この地域では、元々自宅の庭先でごみを燃やす『野焼き』で、それぞれの家庭のごみを処理していました。経済成長と共にごみの質は自然素材からプラスチックへ、量は増加の一途を辿りました。大量のごみを焼くために野焼き場ができ、住民がそこにごみを放り込んで焼いていたんです。しかし、法規制が進んだこともあって、野焼きは次第にできなくなり、そのあとに導入した焼却炉もダイオキシン法の影響を受けて3年足らずで閉鎖。野焼き場も焼却炉も使えなくなり、上勝町はごみの多分別という独自の道を歩み始めました。そして、上勝町は日本初のゼロ・ウェイスト宣言をしました。ごみ収集車が一度も走ったことがなかったため自ら持ち込むスタイルはそのままに、住民の方に協力してもらい、みなさまと話し合いながらごみの資源化を進めてきた結果が現在の取り組みに繋がっています」と話す菅さん。

このような背景があり、ごみの45 分別でリサイクル率80%を達成した上勝町。これからの目標はそもそもごみになる物を減らすこと。そのために町内の事業所や大手メーカーとも連携し、様々な取り組みを始めている。

上勝町ゼロ・ウェイスト宣言って?2003年のゼロ・ウェイスト宣言から17年、上勝町では町民一人一人がごみ削減に努め、リサイクル率80%以上を達成。上勝町はゼロ・ウェイストの先駆者として、2030年に向けて新たなゼロ・ウェイスト宣言を採択。宣言では、2030年までの重点目標として「未来のこどもたちの暮らす環境を自分の事として考え、行動できる人づくり」を掲げている。そのために下の3項目を柱としてプロジェクトを進めていく予定。1.ゼロ・ウェイストで、私たちの暮らしを豊かにします。2.町でできるあらゆる実験やチャレンジを行い、ごみになるものをゼロにします。 3.ゼロ・ウェイストや環境問題について学べる仕組みをつくり、新しい時代のリーダーを輩出します。

女性が牽引する、「暮らしの町」

話を聞いていくと、この町の注目すべきポイントはごみ処理の話だけでなく、住んでいる人たちの生きる力であることが分かってくる。今回の取材者が偶然にもすべて女性だったように、女性が活躍している町という印象が強い。それはなぜだろうか。

「ほかの町に比べると、女性が表に出ていると思います。おそらくそれは昔からで、ゼロ・ウェイストを始めるときの町民の代表のような人も女性だったし、塾がないから塾をやろうと言って活動し始めたのも女性でした」と東さん。

「上勝町のゼロ・ウェイスト運動で女性がリーダーシップをとっている理由は、未来に向けた柔らかいコミュニケーションかなと思っています。いままでのゼロ・ウェイストアカデミーのリーダーたちをみていると、住民に対してはもちろん、町外から訪れる様々な人に対して、真摯に向き合う姿勢が感じられます。とくに住民にとってごみってすごくプライバシーに関わるものなので、45分別にするというのは簡単なことではありません。でも暮らしやすい環境をつくるために、意見を伝えていく必要もあります。もしかすると、上勝町は女性が担いがちな『食』や『ごみ』など“暮らし”に近いことが産業になっているから、女性が多く活躍している地域なのかもしれません。」と大塚さん。

自分で何でもできないと「暮らし」が守れない

3年前に神奈川から上勝町に移住した大塚さんは、「自分の暮らしをどう築きたいか」を考えたとき、上勝町には、その理想の「暮らし」があったという。

「大学3年生のときに、上勝の‟仙人”と呼ばれている住民のお家を訪ねて衝撃をうけました。お金やモノに依存しない暮らしをしていたり、誰かに媚びて、自分の暮らしを作ってるわけでもなく……。自分が心から楽しいことを選択する。そういう暮らしができる環境が上勝にあるんだっていうことに驚きました。便利な暮らしはとても楽ですが、思考を停止することにもつながります。大量にモノにあふれ、瞬時に対応することが求められる社会のなかで当たり前のように生きているけれど、自ら暮らしに時間をかけて身体性をもって育むことで、暮らしの手触り感を味わい、ごみに対しても自分事として感じるようになるのではないでしょうか」と話す大塚さん。

「田舎なので、自分で何でもできないと、自分の暮らしが守れないんですよね。畑や田んぼはもちろん、水も自分で引いてくるし、電気製品をちょっと直してとか、なんでもできます。この知恵や技術に興味を持ってくれている若い世代の子たちも多いので、伝えていく必要があると考えています」と菅さん。

自分たちの暮らしを自分たちが作ることで、無駄なごみを減らすことにもつながるのだ。

日本人は、貧しさを豊かさに変えることができる

上勝町では副業をしている人も多く、仲間内でプロジェクトを立ち上げたり、働き方も面白い。東さんは、この上勝町の働き方は「田舎の生活の厳しさ」から生まれたのではないかと話してくれた。

「フレキシブルさがあると同時に、いろんな仕事をしないと、まとまったお金にならないっていうところはあると思うんですよ。例えば一つの仕事で30万稼ぐのは、この田舎においては難しいかもしれない。でも、5万の仕事を6つ持っていれば、結果的に同じなので、そういう働き方をせざるを得ないとのだと思います。今はだいぶ交通の便も良くなりましたけど、隔絶されているぐらいの山間の町なので、自分で何かできないと本当に困るっていうのもあるし、お金がかかる。おそらく、貧しさみたいなものが根底にはあるんじゃないかと思うんですね。ただそれは、日本ってそもそも貧しさを豊かさに変えられる文化を持ってると思っていて、だからこそ『わびさび』の価値観が生まれたはず。自分の持ち得るリソースのなかでどう頑張るかみたいなことは、鍛えられていそう。根本にそういった貧しさとか、田舎の生活の厳しさがあったからこそ、この町には、何でもできるスーパーマンのような人たちがいるんだろうなと思っています」

人材育成に力を入れたい。これからの課題と全国に発信していきたいこと

最後に、これからの課題と全国に発信していきたいことについて教えてもらった。

「分別に関しては、住民はもう十分頑張っているので、今後はもう少し楽なフローを考えていきたいですね。製造者と連携をとって、買い物する段階でごみを減らせないか、消費活動にフォーカスを当てていきたいです。あとは、仲間作りです。小さな町内でいくら頑張っても限界があるので、共感してくれる人やごみを生み出さない行動をしてくれる人を増やしていきたいです。上勝町を拠点に広げていって、全国に仲間が増えていったらいいなと思いますね。一番の重点目標は人材育成なので、そういった教育プログラムや場所の提供に力をいれていきたいです」と菅さん。

美しい山々に囲まれ、鳥や虫の鳴き声が聞こえる「上勝町」に住むみなさんは、明日のために今日も暮らしを作っている。次回は、上勝町のごみの捨て方と消費行動のポイントについてご紹介。

□お話を伺ったのは……
Women's Health

菅 翠(すが みどり)さん(中央)上勝町役場企画環境課。1999年に役場に就職。老人ホーム、産業課、出納室を経て現職。企画環境課では環境業務全般を担当。

東 輝実(あずま てるみ)さん(右)合同会社RDND 代表社員徳島県上勝町出身。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや、東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。大学卒業後、上勝町へ戻り仲間と共にRDNDを起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年ゼロ・ウェイストをベースとした上勝町滞在型プログラム「INOW(イノウ)プログラム」を共同創業者としてスタートさせる。2021年上勝町よりゼロ・ウェイスト計画策定事業を受託し、計画書の策定に携わる。

大塚桃奈(おおつか ももな)さん(左)株式会社BIG EYE COMPANY・Chief Environmental Officer1997年生まれ。「トビタテ!留学JAPAN」のファッション留学で渡英したことをきっかけに、服を取り巻く社会問題に疑問を持ち、長くつづく服作りとは何か見つめ直すようになる。国際基督教大学卒業後、徳島県上勝町へ移住し、2020年5月にオープンした「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」に就職。山あいにある人口1,500人ほどの小さな町に暮らしながら、ごみを切り口に循環型社会の実現に向けて伴走中。

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