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サステナビリティという言葉はもう使わない。 環境活動50年のパタゴニアが描く未来とは

  • 2022.5.7
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2022年で環境課題の解決に取り組み始めて50年を迎えるというパタゴニア。実はその前身となるブランドスタート時は、“機能的で高品質なクライミングギアの開発・製作”をしていたに過ぎなかった。パタゴニアが「環境主義」の道を歩み始めたのは、今からちょうど50年前の1972年のことだった。

創業者のイヴォン・シュイナードは元々クライマーで、岩に打ち込むピトン(鉤状の登山道具)などを販売していた。ただアウトドアで遊ぶことが好きで自然をフィールドにしていた彼は、ある時自分たちがクライミングを楽しむことで、大好きな自然が破壊されていくことに気がついた。そして、その事実にひどく傷ついた。そこから、環境に配慮したピトン作りを始めたという。

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1990年代初期には、アメリカの店舗の倉庫に保管されていたコットン製品から揮発した有害物質により、スタッフが体調を崩したことがきっかけで、コットンの害に気づいた。それをきっかけに、オーガニックコットンへの転換を決定する。1996年春には、100%オーガニック農法で栽培されたコットンの使用を決めた。その後もコットンは“進化”し、2020年からはリジェネラティブ(環境再生型)オーガニック認証の移行段階のコットンを加えたという。

90年代当時、オーガニックコットンに転換することはコストも上がり、素材の供給量も不安定で、容易なことではなかったはずだ。多少ビジネスにリスクがあったとしても中長期的に物事を見て、その時、正しいと思う選択をする。ただ楽しむための道具を作るだけではなく、いま楽しんでいることの将来を見据え、どう向き合い、アクションを起こすか? 遊びながら、モノを作りながら、気がつき、気がつけば行動する。50年間そんな気づきを繰り返してきた結果、今のパタゴニアがある。

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2022年4月現在、すでに製品の原材料の89%にリサイクル素材を使用しており、2025年までには100%リサイクル素材を達成する。彼らはモノを作ること、売ることの枠を超え、地球の気候危機を救うため、できうるすべてのアクションを起こしている。

その一例が、韓国の家電メーカー「サムスン」に働きかけ、マイクロプラスチックを濾過して排水に流出させない、新しい洗濯機の開発に共同で取り組んでいるというニュースだ。マイクロプラスチック問題に自社の製品作りを通して向き合うだけでなく、問題の根本から改善するためのアクションを起こしているところに、企業としての本気度がうかがえる。

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洗濯機の排水と同様に、海のマイクロプラスチックの原因として知られる魚網についても、回収して新しい製品の原料として再利用を進めている。この、魚網から作られた「ネットプラス」という新素材は年々進化を遂げ、2021年秋には柔らかな繊維としてパンツやジャケットといったアパレルとしても登場。

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2021年秋冬シーズンだけでも104トンの遺棄された魚網が海から回収され、衣類として生まれ変わったという。ちなみに、この魚網をアップサイクルするというアイディアは、海を愛するサーファー2人が海の異変に気がつき、「海洋ゴミを何かに変えることで海を救えないか」と考えたことが開発のきっかけだったそう。

新しい資源を使わず、いまあるものを修理しながら長く使う

「これまで私たちは“プロダクト・サーキュラリティ(製品の循環性)”が重要と考え、製品全ての寿命をのばすことを目標にしてきました。また、サステナブルな製品はアパレル産業においてはありえないと認識しており、“サステナブルカンパニーではなくレスポンシブルカンパニーであること”を念頭において事業を行ってきました」

そう語るのは、パタゴニア日本支社でコミュニケーション&PRを担当するロジャース通子さんだ。

アパレルビジネスは、季節ごとに新しい服を作り、買ってもらうことで成立しているのはご存知の通り。しかしパタゴニアは、「必要ないモノは買わないで」とメッセージを出している。

ショップのスタッフたちは、買い物にきた客に対して「本当に必要ですか?」と問いかける。そして使っていて破損した製品があれば、リペアして長く使うサポートをする。

長く使える丈夫なものを作るのは、メーカーとしての責任。そして製品のフットプリントを意識しながら、モノを選び、購入するのは消費者の責任。

最近では大手メーカーが店頭に衣類の回収ボックスを設置するケースも増えているが、手持ちの衣類を気軽に手放す仕組みは、新しいものを購入させる促進剤になっている可能性がある。それよりは、最初に買う時点で長く使えるいいものを作ろうというのが、パタゴニアの考え方だ。

大量生産・大量消費をやめ、今あるものを最大限使い、モノとの関係性をもっと深いものにしていく。パタゴニアは今の経済の仕組みにも疑問を投げかけ、多くの人たちがそれに気が付くきっかけを提供してきた。そのひとつが、「Worn Wear」というプロジェクト。

パタゴニア製品の修理に留まらず、各地のアウトドアフィールドや大学にリペアトラックで訪れ、学生たちの衣類やユニフォームなどを無料で修理するサービスを行なっている。アパレル企業でありながら、新品への安易な買い替えを推奨しないパタゴニア。修理することで長く着られるのだ、ということを伝えているのだ。

10代、20代の若者の意識と行動が、未来を変えていく

原宿にあるパタゴニア サーフ東京では最近、リサイクル素材の水着を探し求めてやってくる若い人が最近増えているという。

「これまでもそういった意識を持ってパタゴニアを訪れてくれる方は多かったと思いますが、最近は私たちスタッフに直接、想いを伝えてくれる人が多いと感じます。意思を持って買い物しようとする人が10代、20代で増えているし、彼らは気候変動の問題などに対して未来を見据えて冷静に判断し、行動しているように見えます」

そう教えてくれたのは、パタゴニア サーフ東京のスタッフの横溝結女さん。

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水着にリサイクル素材を使用しているブランドはまだ少なく、デザイン性の高さ、サーフィンをしてもずれたりしない機能性の高さ、そして上下を別々に購入できる利便性などからも、パタゴニアの水着のファンは多いという。

ショップのスタッフ一人一人が、自然を愛し、アウトドアスポーツを楽しんでいるからこそ実感する環境問題。それを接客の中で対話するだけでなく、店舗での写真展を企画したり、福岡の店舗では九州の美しい自然や各地域で起こっている課題、アウトドアアクティビティをこよなく愛する人々のストーリーを店内に掲示したりもしている。

パタゴニアのミッションは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」

ここで言う「私たち」は、地球上に住む人間すべてだ。だから自社の取り組みだけでなく、実際に影響を受けることになる若い世代によるFRIDAYS FOR FUTURE、NO YOUTH NO JAPAN、などの活動にも注目しサポートをしているという。

「自分たちがどのような未来を描きたいのか、考え行動すること。私たちはミッションを追求し続け、ただブランドストーリーを語るのではなく、製品やサービスを提供するコミュニティーに好ましい真の変化をもたらすことが、重要だと思っています」(ロジャースさん)

今ではグリーンビジネスのリーディングカンパニーであるパタゴニアだって、最初から優等生だったわけではない。今、SDGsの達成のために多くの企業が少しずつ行動を始めている。どんな企業のどんな製品を買うのか、買わないのか、私たちの消費行動は、そのまま未来を作る投票行動になる。

私たちにとってかけがえのない地球。その未来を守るため、一度立ち止まって、モノとの付き合い方を考えてみてはどうだろうか。

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