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ドキュメンタリー好き・中村佑子(映像作家)、忘れられないあのシーン。『工事中』

  • 2022.5.4
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『工事中』イメージイラスト

若い街娼の女の子を足をケガしている恋人がおぶうシーン

ヒモ同然で仕事がない男の子は、娼婦として働く恋人に頼って生きています。でもその職業柄、彼が嫉妬心から苦しむ様子も垣間見える。このカップルはお互い身動きが取れないほどに、どん詰まりの状況なのです。

だからこそ、終盤のこのシーンで、女の子をおぶい、そしておぶわれる、というなにげないけれど軽快な2人の姿に大きな解放感を感じるんです。
その破滅的な状態はレオス・カラックスが描く、ドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュのようであり、2人が心を交わすさまはまるで映画『夫婦善哉』の人情喜劇のよう。

本作にとって、人情味を感じられることは大切なポイント。孤独なレンガ職人たちの会話の中にも、“クリスマスにはワインを2本開けて一日中起きていられないようにするんだ”と語る、切ない場面があったり。すべての映像がみずみずしく、血が通っているんです。

『工事中』イメージイラスト

また、監督は明言していませんが、作品の中にはところどころにフィクションがある。カメラワークをとっても、被写体を追いかけていく画は少なく、話者の顔を正面で抜いたカットの連続で会話を見せたりする。物語が先行し、手法から自由なこのスタイルには憧れを抱きます。

Information

『工事中』DVD

『工事中』

『シルビアのいる街で』などで知られる、スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督作。監督の地元、バルセロナにある、麻薬密売人や売春婦が集まるスラム地区ラバルの大規模再開発を記録した。1988年に行われた集合住宅の解体と高級住宅の建設を中心に、そこで暮らすカップルやレンガ職人、工事現場の作業員や廃品回収業に携わる老人などの日常生活や、失われていく風景を定点観測。DVDレンタルなどで利用可。

profile

中村佑子(映像作家)

なかむら・ゆうこ/映像作品にAR映画『サスペンデッド』など。著書に『マザリング 現代の母なる場所』(集英社)がある。

twitter:@yukonakamura108

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