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2000連休を与えられたら、人間はどうなってしまうのか。

  • 2022.5.2
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多くの人がゴールデンウィークの真っ最中。中には、2日と6日に休みを取って10連休! という人もいるだろう。普段、通勤・通学をしている人にとっては、「連休」は夢のような言葉だ。

でも、もし「2000連休」あったら......?

上田啓太さんは、2010年から2015年まで、まるごと6年間の2000連休(厳密には2190連休)を過ごしたという。仕事を辞め、人の家に転がり込み、一畳半の物置に住みついた上田さん。長すぎる"連休"のあいだ、いったいどう生活し、どんな感情を抱いたのか。『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』(河出書房新社)に、そのすべてが書いてある。

連休中に「もう一生休みがいい!」と思ったことがある人は、ぜひ一度本書を手に取ってみてほしい。そこに広がるのは果てしない天国......ではないので、くれぐれもご注意を。2000連休が人間にもたらすものの正体とは......?

仕事を辞めた。素晴らしい解放感に包まれている。翌日の予定を考える必要がない。二度寝したければ二度寝する。夜更かししたければ夜更かしする。決まった時間に無理をして起きる必要がない。これこそが人間のあるべき姿だと感じる。

"連休"1日目は、こんなふうに始まる。なにも2000連休の初日でなくても、ごく普通のゴールデンウィークの初日も(「仕事を辞めた」以外は)みな同じ気分だろう。そして、この気分がずっと続けばいいと思う。たいていの人は、そんな夢もつかの間、数日後すぐに現実へと引き戻される。

その現実が、いつまで経ってもやってこなかったら。

上田さんは先ほど、「素晴らしい解放感」と書いていた。「解放感」は、文字通り何かから解き放たれたときに感じるもの。解き放たれっぱなしでは、解放感の「カ」の字もなくなっていく。

10連休くらいまでは最高の気持ちでいた上田さんも、それを過ぎると「退屈」に支配されるようになった。3ヶ月ほどダラダラして、ネットを見たりマンガを読んだり。それでもまだ1900連休も残っている。

退屈の次に不安、そして......

100連休を過ぎたあたりから、不安が強まってくる。「これまでの人生は何だったんだ......?」「これからの人生はどうなるんだ......?」頭の中は過去と未来のはさみうちに。毎日に刺激がないので、人は自分の内側から刺激を見出そうとし、その結果、昔のことをやたらと思い出すようになる。昔好きだった女の子、嫌いだった友人、叶わなかった夢。記憶が溢れて止まらなくなる。その状態におちいった上田さんは、しばらくはその記憶から逃げようと、ゲームなどの逃避に走っていた。

300連休頃、上田さんは腹を括った。逃げるのをやめ、「自分の中にある問題を解決しよう」と、さまざまな本を読んだ。と同時に、自分の記憶をひたすら書き出していった。記憶や問題と向き合ううち、そこにあるさまざまな感情を再体験し、上田さんはどんどん感情的に不安定になっていく。

1000連休を過ぎた頃から、今まで記憶によって構成されていた「自分らしさ」との間に距離を感じ始めた。「自分」がしっくりこない。今ここにある「意識」は何なのだろう。なぜここに「肉体」はあるのか。なぜ「右手や左手を動かせる」のか。1500連休から残り半分の間、彼は底なしの哲学的不安へおちいっていく......。

そうやって2000連休が過ぎた頃、記事執筆の声がかかり、上田さんはようやく少しずつ社会へと戻ってきた。社会における「自分」をひとまず取り戻し、しかしもう二度と"連休前"の彼には戻れない上田さんが、この本を書いている。

これでもうおわかりだろう。連休! やったね! と思って読み始めると、とんでもないところへ連れて行かれる本だ。「2000連休」の本当の姿と向き合う覚悟がある人だけ......いや、その覚悟がある人と、そういうのはいまいち想像つかないからやっぱり一生休みがいい! と思っている人に、この本を読んでほしい。

■上田啓太 (うえだ・けいた)さんプロフィール
文筆業。1984年生まれ。石川県出身。京都大学工学部卒。2010年、ブログ『真顔日記』開設。累計1000万PVを超す人気ブログに。オモコロ、ジモコロ、文春オンライン、cakes、GINZA等、多媒体で執筆。

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