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50年以上のキャリアの末に辿り着いた場所。2つの新作映画に表れた、バンド〈スパークス〉のすべて

  • 2022.4.30
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スパークス/キーボードのロン(左)とボーカルのラッセル(右)

『スパークス・ブラザーズ』を観てまず驚かされるのは、彼らがこれまで出した25枚のアルバムすべてについて詳細な紹介があることだ。

これは、もともとスパークスの大ファンでもある監督のアイデアだったそうだが、「僕らもそれを全面的に支持しました。僕らのキャリアパスは、ほかの同等のキャリアを誇るバンドとは異なり、過去に現在進行中で生み出しているものを凌駕するような、ある種の黄金期があるわけではありません。だから、25枚のアルバムすべてを扱うことが重要だったのです」(ロン)。

確かにスパークスは、時にファンを当惑させるほど、常に新しいことにチャレンジしてきた。それはサウンドだけでなくビジュアルにも及ぶ。

「僕らはずっと音楽的な感覚だけでなく、歌詞やイメージ、個性、スタイルがしっかりしているバンドが好きでした。そのバンドが表現するものを伝えるうえで、アルバムジャケットのアートワークやMVも同じくらい重要だと感じています」(ラッセル)

そして、そのインスピレーション源は、彼らが若い頃から影響を受けているヌーベルバーグやイングマール・ベルイマンのようなヨーロッパ映画にあった。

そのせいか、ラッセルが「そうした要素はアメリカ的な感覚ではしばしば見過ごされてきた」と言うように、彼らは母国アメリカでもヨーロッパのバンドだと勘違いされるような倒錯的な事態さえ起こったほどだ。

ついに実を結んだ、映画愛

そして、彼らの映画好きは、いつかミュージカル映画を作りたいという思いにつながっていった。「ミュージカル映画は、人が話す代わりに歌うという人工的な演出が魅力です。私たちは、台詞があってところどころに歌が入るようなミュージカルよりも、『シェルブールの雨傘』のような、すべてが歌で構成されたものの方が好きなのです」(ロン)

その思いが、ついに形となったのが『アネット』である。「レオスは70年代から我々の大ファンで、若い頃にレコード屋で『恋の自己顕示』というアルバムを盗んできたと語っていました(笑)」(ロン)。

『アネット』は、長くスパークスが温めていた企画だったが、カラックスが彼らのファンだったことで、監督に名乗りを上げたのだ。それは、結果的に全編が歌で紡がれる映画にはならなかったものの、書き下ろしだけではなく、カラックスの希望から既存曲の断片もちりばめられた、まさにスパークスならではのロック・オペラになっている。

そして、『アネット』は、フランスのアカデミー賞に当たるセザール賞で5冠を獲得しただけでなく、スパークスに最優秀オリジナル音楽賞をもたらした。「フランス映画のファンとして育ってきたアメリカ人として、フランス映画におけるこの上ない栄誉を手にすることは格別なことでした。C'est magnifique(素晴らしい)です!」(ラッセル)

スパークス/キーボードのロン(左)とボーカルのラッセル(右)
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スパークス

キーボードのロン(左)とボーカルのラッセル(右)のメイル兄弟からなるアメリカのロックバンド。1971年にデビュー後、現在まで25枚のアルバムを制作してきた。

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『スパークス・ブラザーズ』

『スパークス・ブラザーズ』

エドガー・ライトが、ベックやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーをはじめ豪華アーティストたちの証言とともに送る、謎多きロックバンド、スパークスのすべてがわかる音楽ファン必見のドキュメンタリー映画。4月8日、全国公開。
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『アネット』

『アネット』

フランスの鬼才レオス・カラックスの9年ぶりの待望の新作は、スパークスが原案・音楽を担当した、アダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールによる、ダークファンタジー・ロック・オペラ。セザール賞5部門受賞。全国公開中。
©2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / EUROSPACE / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

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