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上野樹里×田中圭×松重豊『持続可能な恋ですか?』結婚が幸せの条件ではない時代の恋愛ドラマの新しい地平

  • 2022.4.26
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上野樹里主演『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS系)が4月19日に放送スタート。脚本は『あなたのことはそれほど』(2017年)『きみが心に棲みついた』(18年)などの吉澤智子、演出陣には『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)『カルテット』(2017年)『凪のお暇』(19年)などで、新しい家族の姿、男女の関係性を描いてきた土井裕泰の名前があります(すべてTBS系)。「恋」と「結婚」の意味を改めて問うドラマとなりそうな1話を振り返ります(ネタバレを含みます)。

結婚している暇はない時代の恋愛ドラマ

主人公の沢田杏花(さわだ・きょうか/上野樹里)は、ヨガインストラクターの仕事をしながら父・林太郎(りんたろう/松重豊)とふたりで暮らしている。2年前に母の陽子(ようこ/八木亜希子)を亡くし、落ち込んでいた一人暮らしの林太郎の元に戻ってきたのだ。

ヨガの生徒たちに穏やかに声を掛けていく姿から、落ち着いた仕事ぶりがうかがえる。一方で、スタッフルームや家などでは、トレーナーを後ろ前に着たり、毎朝スマホを家のなかで失くしたりと、ずぼらで雑だと言われる面も持っている。

林太郎は、フリーで辞書の編纂をしている日本語学者だ。仕事に没頭すると周りのことが見えなくなるタイプ。家事などは妻の陽子に任せきりだったようで、生活能力はあまりない。だが、杏花のする家事に対しては「陽子さんはこうしていた」と妻と比較してダメ出しをしてしまう。そのため、杏花を不機嫌にさせてしまうこともある。

会社から独立して自分の理想のヨガスタジオを開きたいと思っている杏花は、起業セミナーでバツイチでシングルファザーの東村晴太(ひがしむら・せいた/田中圭)と出会う。小学二年生になる息子・虹朗(にじろう/鈴木楽)が一番大切で、もう結婚をするつもりはないという晴太。

「わたしはいま、この身体、頭、気持ち、わたしの全部をやりたいことのために使いたい。結婚している暇はない」

そう考えている杏花は、晴太に「結婚を前提としない交際」を申し出るのだった。

「わたしと、結婚を前提にせず、お付き合いしてもらえませんか」

互いの「優しさ」に気付ける相手

「普通に恋をして、普通に優しいひとを好きになりたいよー!」

「優しい」という言葉が頻繁に出てくる第1話だった。杏花は前職の会社員時代に、無理をして頑張る生き方をしていた。理不尽に客に怒鳴られて頭を下げても、多過ぎる仕事を任されても「頑張ろう」と自分や後輩に言い聞かせる。その結果、後輩から「頑張って沢田さんみたいになるなら、頑張りたくないです」と言われてしまう。

過去に受けたヨガのレッスンで、講師のヴァネッサ(柚希礼音)から「ひとに優しく、という言葉の『ひと』には、自分も含まれている」と教えられた杏花。会社員時代のように無理をしたくなくてヨガインストラクターになったはずなのに、いつの間にかまた「頑張って」働くようになっていた。

一人暮らしをしていた林太郎のいる実家に戻ったのも、林太郎を心配してのことではない。独立資金を貯めるためには実家にいるほうが都合がいいと、自分のメリットを優先させてしまった。だから自分は優しくない、と杏花は自分を責める。そんな杏花に、晴太は笑って言う。

「杏花さん優しいですよ。だって、お父さんにご飯作ってるじゃないですか。毎日家族にご飯作るのって、大変です」

シングルファザーの晴太が言うからこそ説得力のある励ましの言葉だ。会社員として働いていると、十分に虹朗と一緒にいられないことに悩んでいる晴太。ひとにも自分にも優しくなりたいと自分を省みる杏花と同じように、晴太もまた、家族、とりわけ虹朗のために優しい働き方をしたいと考えていた。

そんな晴太は、杏花から見ればとても優しい男性だ。かつて陽子がそうであったように、家族のことを一番に考え、神社のお参りでは自分のことよりも家族の健康と幸せを願う。杏花がつらくて連絡をしたときには、心配してすぐに駆けつけてくれた。

「晴太といると優しくなれる」と杏花は言うが、それは晴太も同じなのではないか。結婚できない自分、バツイチの自分、自分の欠点や落ち度ばかりを見つめてしまうふたりでも、一緒にいれば、お互いの良いところや優しさに気づき合える。すでにふたりの未来に優しいあかりが灯ったように感じられた第1話であった。

こだわり抜かれた名前と言葉の数々

杏花の名前は「杏花雨(きょうかう)」という言葉から付けられたという。杏花雨とは、春先にあんずの花に降るような優しい雨のこと。4月スタートのドラマにもぴったりの名前だ。この名前は、1日中言葉のことを考えている林太郎が付けた。

ドラマの主要な登場人物の名前を見てみる。優しい雨を表す名前を持った杏花に対して、晴太の名前はシンプルに晴天を想起させる。木々を意味する漢字が含まれた林太郎の人生には、陽子の日の光が注がれていたのだろう。雨上がりを思わせる虹朗。そして、陽子の遺品の中から妻の欄が記入済みの離婚届を見つけ、婚活をはじめた林太郎の前に現れたのは、整形外科医の日向明里(ひなた・あかり/井川遥)である。人生の優しいあかりとなる人物なのではないか。名前からそう想像してしまう。

言葉について深く考えられたドラマだ。

「ねえ、結婚ってなに? 辞書には何て書いてあるの」
「そりゃ辞書には、そうだな……男女が夫婦になる」
「馬鹿って引いたらアホって書いてある辞書みたい。お父さんなら、結婚の意味、どう説明すんの」
「まだわからん」

杏花と林太郎は「結婚」の意味をまだ理解できないでいる。しかし、離婚届とともにあった陽子からの手紙には「林太郎さんのおかげで、結婚という言葉の意味を知りました」と記されていた。このドラマで結婚の意味を知っているのは、亡くなった陽子だけだ。生きている杏花たちは、自分なりの結婚の意味を探し求めていかなければいけない。

自分が気持ち良いと思うところって?

「無理はせず、自分が気持ち良いと思うところまで」

ドラマのなかで杏花がヨガの生徒たちに言っていたセリフだ。このレビューを書いているわたしは今年からヨガをはじめたのだが、実際のレッスンでもインストラクターの方がこの言葉をよく言ってくれる。そう言われて初めて、自分が気持ち良いと思うところって一体どこなのだろうと、自分の身体を探りはじめる。仕事や家庭、何か他のことに一生懸命になっていると、案外自分自身のことを知らないで生きてしまう。

杏花は、多くの女性たちに自分の生き方に通じる部分を感じさせる主人公なのではないか。SDGsや多様性という言葉をよく耳にするようになり、生き方やその意味を考えさせられる機会が多いこの時代。「無理をしない」つまり「持続可能な」恋愛や結婚、働き方は可能なのだろうか。彼女や林太郎、晴太たちと一緒に、自分なりの未来が見える結婚の意味を考えていく。そんな、わたしたちとともに在ってくれそうな本作のこれからが楽しみである。

■むらたえりかのプロフィール
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。

■pon3のプロフィール
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。

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