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「文庫は単行本の廉価版であってはならない」。又吉直樹『人間』が、3つの仕掛けとともに文庫化

  • 2022.4.23
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又吉直樹さん初の長編小説『人間』(KADOKAWA)が文庫化した。何者かになることを夢見た青春と、何者にもなれずに迎えた20年後の、人間誰もが経験する痛みを描いた本作。「文庫は単行本の廉価版ではあってはならない」という又吉さんの信念のもと、文庫化にあたって3つの変更・仕掛けがおこなわれた。

1.カバーを変更
『火花』(文藝春秋)の装画で鮮烈な印象を残した、現代美術家の西川美穂さんが、7年ぶりに又吉作品の表紙にカムバック。

2.新たなエピソードを加筆
第3章「影島道生」内に、単行本では描かれなかったエピソードが約1万2000字加筆された。

3.『人間』テーマソングを制作
又吉さんがファンを公言している、「きのこ帝国」(活動休止中)のボーカルで、ソロのミュージシャンとしても活動している佐藤千亜妃さんが、文庫『人間』を起点とする新たな作品作りに参加。歌詞を又吉さん、作曲・歌唱を佐藤さんが担当して、『人間』のテーマソングを制作する。4月20日から、YouTubeの「ピース又吉直樹【渦】公式チャンネル」で楽曲制作の道のりを配信中だ。小説とあわせて楽しみたい。

〈佐藤千亜妃さんコメント〉
又吉さんが私の楽曲を聴いてくださっているのを知っていたので、今回のお話をいただいてとても光栄でした。また私も又吉さんの作品をすべて読んできました。なかでも『人間』は私が一番好きな作品で、人間同士の生々しい軋轢が描かれていて、どの視点で読もうか少し混乱する感じがとても新鮮でした。 ビターでリアルで、でも出口は閉ざされていない、そんな『人間』を楽曲に落とし込んでいくという試みを、作家とミュージシャン、それぞれの良い部分を反映させて物作りができるかな、と楽しみな気持ちで臨んでいます。

38歳の誕生日、「踏むことのなかった犬のクソみたいな人生(笑)」という件名のメールが届いた。まるで自分に言われているようだと思いながらメールを開くと、学生時代に知り合った仲野という男について書かれていた。「もう知っているかもしれないけど、その仲野がとんでもないことになっています(笑)。〈ナカノタイチ 犬のクソ〉で検索したらでてくるとおもいます!」

仲野太一のことは思い出したくなかった。あなどっていた仲野に言われた、「おまえは絶対になにも成し遂げられない」という言葉。仲野や他の学生たちと住んだ共同住宅・通称「ハウス」での、青くて痛々しい記憶......。漫画家を目指して上京した僕は、結局本当になにも成し遂げられなかった。「何者かになりたい」と思ったことのあるすべての人が、きっとこの痛みに共感する。単行本とはまた違った、文庫『人間』の魅力を味わおう。

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