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「手書きだからこそ気持ちが伝わる」小学校が非効率で危険な"紙の連絡帳"をやめられない本当の理由

  • 2022.4.19
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保育や教育の場で、教員と保護者のやりとりに使われる「連絡帳」。近年、保育園や幼稚園ではデジタル化が進みつつあるが、小学校はまだ紙ベースのところがほとんどだという。家庭にICT機器が普及しているにもかかわらず、学校と家庭の情報共有は紙の連絡帳やプリントだ。そんな非効率なやり方を小学校が固持する本質的な理由とは何なのか。デジタルツール「コドモン」を運営する小池義則さんに聞いた――。

明日の準備でランドセルの中身を出し入れする小学生
※写真はイメージです
連絡手段のデジタル化、小学校は1割未満

連絡帳は、子どもの様子や園・学校からのお知らせなどを、教員と保護者が共有するための連絡ツールです。保育園では、保護者が子どもの体調や家庭での様子を書き込み、保育士が園での様子を報告するとうやり取りが、ほぼ毎日されています。

幼稚園や小学校でも、先生と保護者が子どもの状況を共有するという面では同じです。ただ、こうした連絡手段は保育園や幼稚園でデジタル化が進んでいるのに対し、小学校ではまだ紙ベースのところが少なくありません。現状のデジタル化率は、保育園で5割程度、幼稚園で2割程度、小学校で1割未満(※)となっています。

※保育園 保育施設向けICTツールを開発している各社が公表している導入施設数を集計し算出(2022年1月コドモン調べ)
※幼稚園 コドモンの幼稚園導入比率を他社のICT導入施設数に掛けて算出(2022年1月コドモン調べ)
※小学校 東洋経済education×ICT「教育現場の連絡手段は令和時代でもやはり…ICT教育の情報収集は意欲的だが環境は未整備」(2021年1月10日)

補助金が保育園のデジタル化を後押し

保育園が最もデジタル化している理由としては、2016年に厚生労働省が保育施設に対して、デジタル連絡帳などを含む業務支援ツール導入のための補助金交付を始めたことが大きいと思います。待機児童の問題を解消するには、保育園の増設や保育士の確保、さらには保育業務の省力化も欠かせないという考えに基づいたものでした。

保育施設は預かり時間が長く、その間、保育士さんは子どもたちから目を離せません。そのため、事務処理作業や書類業務は子どもたちが帰った後、残業として行うケースも少なくありませんでした。

こうした働き方が退職につながってしまう場合もあり、現場では以前から書類業務の省力化が求められていました。もともとこうしたニーズがあったところに、補助金の開始で予算的な問題が解決できたため、デジタル化が進んだわけです。一方、小学校では、国は保護者との連絡のデジタル化を推進しているものの、現場では依然として進んでいません。先生たちの負担がかなり大きいのは周知の事実で、それはコロナ禍でさらに高まっているのに、どうしてなのでしょうか。

ICT導入を阻む3つのハードルとは

ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)システムは、先生の負担を減らすうえで大きく役立つものです。例えばコドモンは、入退室や勤怠時刻の管理、保護者との連絡、帳票書類の管理などをネットワーク上で行うことができ、作業時間の削減やスピーディーなやりとりを可能にするツールです。しかし、小学校への導入にはやはり高いハードルがあります。

導入のハードルは、多くの小学校にICT導入を提案させていただいた経験から、主に次の3つに集約されると思います。

1つめは予算の問題です。私たちの提案に対して、多くの学校関係者が悩まれるのが「予算をどこから出すか」ということです。小学校にはICT導入の補助金は出ませんから、負担するのは学校か教育委員会かPTA(保護者と先生の集まり)ということになりますが、現実的にはそれぞれに壁があります。

公立小学校は1校あたり、校長が自由裁量で使える年間の予算総額が10万円程度のところが多く、他に優先すべき使い道があってICT導入にまで回せないというケースが少なくありません。コドモンの例で言えば、導入費用は初期費用ゼロで月額5000円からと決して高額ではありませんが、それでも予算が回せないという学校は少なくないのです。

次に教育委員会ですが、こちらは保護者や学校職員等の地域住民の要望に基づき、検討して予算を出すことができます。それでも、教育委員会の事業として予算化まで持っていくには、年単位の時間も労力もかかるのに加え、他の事業との優先順位も考慮しなければいけないため、なかなか検討が進まないという現状があります。

これに対して、PTAは予算の面でも比較的融通が利きます。実際、保護者の提案でPTA予算を使ってICTを導入した学校もありますが、PTAの中で意見がまとまらなかったり、学校側が難色を示したりする場合もあります。

娘からスマホを取り上げようとしている母親の手元
※写真はイメージです
「手書きだからこそ気持ちが伝わる」という反対意見

2つめのハードルは、ICTを導入したときのメリットについて、関係者の中に共通の認識が出来上がっていないことです。連絡帳のデジタル化については、「かえって教員の負担が増えるのでは」「デジタルに不慣れな教員や保護者もいる」「手書きだからこそ気持ちが伝わる」といった意見も根強くあります。

そうした反対意見が出た場合、メリットを挙げて説得したり、不安を払拭ふっしょくしたりするのは簡単ではありません。反対者が組織の長だった場合はなおさらで、結果として意見がまとまらず、導入を見送る学校も多々見られます。

「校長は3年程で異動が多くなるべく在校時にはトラブルになりそうな案件を避けたい」「システムを使用して、外部に連絡できる権限を持つのは教頭先生のみで、クラス単位の連絡をシステム化するのは現実的でない」などの学校側の事情は私たちも理解しています。

ただ、最近は保育園でデジタル連絡帳を経験した保護者も増えており、「小学校に上がったらもっと便利になると思っていたのになぜ紙に戻るのか」といった声も上がっています。こうした保護者がさらに増えていけば、メリットへの共通認識も自然と出来上がっていくのではないでしょうか。

PTA主導でデジタル化した事例も

3つめは、個人情報に関するセキュリティーへの不安と、クラウドサービスへの不慣れです。文部科学省は学校向けに最新のセキュリティーポリシーやクラウドのメリットなどを発表していますが、まだ各校の担当者レベルまで浸透しているとは言えません。そのため、学校で検討はしても「何となく不安だから、よくわからないからやめておこう」という結論になりやすいのではと思います。

こうしたハードルはあるものの、近年ではICTを導入する小学校も少しずつ増えてきました。福島県磐梯町では、以前から保育園や幼稚園などにコドモンを導入していただいていましたが、2022年2月には小・中学校でも運用が始まりました。また今春には、奈良県橿原市や広島県尾道市でも、保育園や幼稚園、小中学校にコドモンが一斉導入されます。

上記の市町村で導入が進んだ理由としては、行政が子育て支援に力を入れており、かつDX(デジタルトランスフォーメーション)への感度が高かったこと、教育委員会との連携が強かったことなどが挙げられると思います。

また、PTA主導でコドモンの全校導入を実現した事例も増えてきています。広島県のある小学校では、PTA役員の主導で、PTA予算での導入が決まりました。こうした例はほかにもあり、これまでにコドモンを導入していただいた小学校のうち2割がPTA主導となっています。

デジタルよりも危険な「紙の連絡帳を友達に預けること」

しかし、冒頭にお話しした通り、小学校の連絡帳のデジタル化率はまだ1割未満にすぎません。デジタル化していない学校の中には、先生と保護者の連絡手段が紙の連絡帳のみというところもあります。

今は個人情報保護の観点から、クラス全員の電話番号を載せる連絡網のようなものはほとんどなくなっています。そのため、台風などで突然休校する場合には、前日の夜中に、先生が生徒の自宅にお知らせを投函して回るという学校もあります。

連絡手段が紙の連絡帳のみだと、保護者にとっても不便です。子どもが欠席する際には担任の先生に電話をする人も多いと思いますが、1回で本人につながるとは限りません。出勤時間が迫っているのに何度も電話をしなければならない、これにストレスを感じたことのある人は多いのではないでしょうか。

学校によっては、欠席するときはクラスメートに連絡帳を渡して持っていってもらう、と決まっているところもあります。連絡帳には人間関係や健康状態などセンシティブな情報も含まれますから、それをクラスメートに見られてしまうリスクもないとは言えません。

「小学校のアナログさ」を解消するには

紙の連絡帳は温かみがあるなどのメリットもありますが、手間やリスクも伴います。この点に不満を感じる保護者も多いようで、毎年、小学校の入学シーズンになると、SNSには「小学校のアナログさ」に対する不満の声がたくさん投稿されます。

連絡帳のデジタル化をはじめとするICTの導入は、先生はもちろん保護者の負担減にもつながるものだと思います。どうしたらハードルを乗り越えて導入を進められるのか、私自身も解決策を模索しているところです。

まずは、最大のハードルである「予算」の問題を解決することが重要です。行政や教育委員会には、連絡帳が紙ベースであることでどんな問題が起こっているかを認識したうえで、先生の業務負荷の軽減も見据えて、ICT導入の予算確保や補助金交付を実施していただきたいと思います。

また、保育園などでデジタル連絡帳のメリットを体感した保護者に、PTAでICT導入を主導していただくことも解決につながるのではと考えています。そのためには、デジタル化に時間のかかる小学校より先に学童施設に導入していただき、小学校の保護者の中にICT体験者を増やしていく必要もあるでしょう。

現在、当社では全国およそ1200件の学童施設にコドモンを導入していただいており、今期はさらなる需要の拡大を見込んでいます。最近は、子どもが学校から学童へきちんと移動したかどうか確認したい、しっかり安全管理をしたいというニーズも生まれています。学童施設、小学校、保護者がシステムを通して連携できれば、三者による見守りが可能になります。

デジタル化で先生が子どもに向き合う時間を増やせる

ICT導入に対しては、「アナログvsデジタル」という構図で考える人も少なくありませんが、僕は両方を活用しながら、それぞれのメリットを生かして補い合っていくことが大事ではないかと思っています。

人手や時間には限りがありますから、単純作業はできる限り省力化して、そのぶん手をかけるべきところにしっかり手をかける。デジタル技術はそのためにあります。保育や教育の場に導入すれば、先生の事務作業の時間を減らし、子どもたちと向き合う時間や心のゆとりを増やすことにもつながります。

どんなにデジタル化が進んでも、教育のラストワンマイルは先生たちの手によるものです。先生がハッピーでなければ、子どもたちと向き合ううえでも影響が出てしまうでしょう。これは保護者も同じではないでしょうか。学校でのデジタル活用が「普通」になる日が来るよう、今後も取り組んでいきたいと思います。

構成=辻村洋子

小池 義則(こいけ・よしのり)
コドモン 代表取締役
2002年、横浜国立大学経済学部卒業。ベンチャー・リンク入社後、社内でWeb推進室を立ち上げ2009年に起業。2015年に自社プロダクトとして、幼保施設向けICTシステム「コドモン」をリリース。 お問い合わせ:コドモン

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