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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.52 アイスクリームとダンデライオン

  • 2022.4.15

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。27歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.51 歌い手のすゝめ

vol.52アイスクリームとダンデライオン

その朝ベッドで目覚めた瞬間どうしてだか彼女の顔が浮かんだ。スローな瞬きを繰り返している間に思考をまとめ、窓際まで歩いて行きカーテンを開けサッシを引くと網戸も連動してカラカラと二重に楽しげな音がした。スリッパを履きベランダから見上げた空は高く、大きく息を吸い込むと鼻腔の奥で青に混じったピンクが春の花を咲かせた。それでも電気ケトルに水を注ぎスイッチを入れに行ったキッチンの床のタイルは素足に冷たく、捻った洗面台の蛇口からお湯が出るまでAviciiの「Heaven」のイントロを4回は歌って待った。

午前中のTo Doリストを完了させ今家にいるのか尋ねるテキストを彼女に送ると、今からお昼作るけど食べに来れば?との事だったのでお言葉に甘えることにした。お土産のリクエストを募ると、和菓子が食べたいのメッセージに桜の絵文字が添えられていた。駅近パン屋に売っているフランスパンの中に桜餅が入っているやつを買っていこう、と家を出て、その店が定休日だったことを思い出し、結局ストレートに和菓子屋さんに寄って行くことにした。

彼女の家のインターホンを鳴らし、到着が思ったより遅くなってしまったことを申し訳なく思っていると、開いた扉の向こうにあっけらかんとした笑顔で出迎えてくれている彼女がいて、やっぱり私は彼女に今日、会いたかったんだと思った。ランチのメニューは野菜スティックにフムスにローストビーフ。赤身のこちらがメインじゃないの?と台所の方に視線を移すと、「さぁ食べよー!」と具沢山なフォーがお目見え。魚介からの出汁とナンプラー塩味が絶妙なスープ。美味い!お店で食べるより私は彼女が作るフォーの方が好きだ。夢中で食べ進め、話も進め、つくづく友達っていいなぁと思い、そう思いながら麺を啜るのは最高だった。

後片付けを申し出た私が食器を洗っている間に彼女はお茶を淹れてくれ、ひと息つきながら、先日の夜中、悪夢を繰り返し見て眠れなくなってしまった時のことを話してくれた。 時差があるからまだ起きてるはず、とアメリカの友達にメッセージを送ったらしい彼女。すると「Just think about ice cream and dandelions!(ただアイスクリームとダンデライオンのことだけ考えてみて!)」と返信が。私は頭の中でその夜彼女が暗闇で光るスマホ画面を見つめながら「ice cream ,dandelions! ice cream ,dandelions!ice cream ,dandelions!」と唱えている画を想像しながら尋ねた。「それで、おまじないは効いた?」彼女は「朝までぐっすり眠れたわ!」と嬉しそうに。私はそれがまた嬉しくて「えーなんでアイスクリームとたんぽぽなんだろうねー!」と笑った。多分この先ちょっと元気が欲しくなった時、もう一回あの話をして、と私は彼女にねだるだろう。そのくらいこのエピソードが大好きになった。そして悪夢にうなされる友達がいたら私もこの不思議なおまじないを教えてあげようと思った。

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