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ハードリカーがある風景:小説家・滝口悠生が語る酒のリアリティ

  • 2022.4.11
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Hiroki Muraoka イラスト

人のありようと酒の席

もともと居酒屋でも家でも、つまみを食べながらダラダラ長く飲むのが好きでした。強いお酒だと長く飲めないから、焼酎を割って、ちびちびやるのが楽しくて。

でも数年前、アイオワ大学に滞在するレジデンシープログラムに参加したときは、ウイスキーを飲むのが日課になりました。

日本酒も焼酎も手に入りにくいので、それならばと、ホテルの廊下にあるアイスマシンで氷をガーッと出して、備え付けのデュラレックスのグラスに買い置きのウイスキーを注いで。

別に飲まなくてもいいんですけど、毎日飲むと、それによってその日のコンディションがわかるんですよね。おいしいし、楽しいし、オフモードに切り替えられる。一日の終わりに、「今日はおしまい」ってお酒を飲むのがリズムになっているというか。

アイオワから帰った頃から少し飲み方が変わって、前ほどダラダラ飲まなくなりました。量とか時間より、短時間でおいしく飲みたいなと。

最近はおつまみを作って、新聞や本を読みながら焼酎を2、3杯飲んでいます。エスニック系のおつまみに合わせるならラム。スパイス料理や中華の羊料理にぴったりです。

Hiroki Muraoka イラスト

小説を書いていると、無意識のうちに親戚の集まりや葬式でワイワイ飲んでいる宴会風景を書いていることがあります。宴会の、弱い酒を和やかに飲む、あの空気感が好きなんでしょうね。

それに、酒の場って人のありようが変わるじゃないですか。同時に周囲との関係性も変わる。ぐっと距離が縮まることもあれば、ケンカすることだってある。お酒がその契機になることも多い。

とはいえ、体験を伴わないとリアリティを持って書けません。僕は居酒屋でホッピーと厚揚げを頼む人のことはわりとわかるけど、バーでウイスキーを飲む人を書くのは、バーで飲むことが少なくて難しい。

色々と飲み比べて勉強したいけど、本気度が問われるというか……。多分途中で酔っ払って、味がわからなくなる気がします。

profile

滝口悠生(小説家)

たきぐち・ゆうしょう/1982年東京都生まれ。2011年「楽器」で新潮新人賞を受賞しデビュー。16年『死んでいない者』(文藝春秋)で芥川賞受賞。4年ぶりの長編小説『長い一日』(講談社)が発売中。

twitter:@takoguchiyusho

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