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私たちはなぜ、いつもこんなに苦しいのか? 大木亜希子が描く、2つの「生きづらさ」

  • 2022.4.7

元アイドルグループSDN48のメンバーで、作家として活躍する大木亜希子さんの新刊『シナプス』(講談社)が発売された。本作は、女性の生きづらさについて、女性ならではの踏み込んだ表現で綴った4つの短編が収められている。

収録作品は「シナプス」、「風俗嬢A」、「MILK」、「海の見えるコールセンター」の4作品で、それぞれ「小説現代」に掲載されたものをさらに練り込んでいる。

大木さんの作品は、目を閉じると情景が浮かぶような生々しい男女の触れ合いを、絶妙なセリフを織り交ぜて臨場感をもたせながら展開していく筆運びが特徴だ。最低な男の表現も、セリフだけでなく、臭いまで含めて伝わってくるようなタッチで描かれ、いやがおうでも主人公に感情移入してしまいそうになる。

ある日、それではダメだと思いました

今回、かなり重いテーマに取り組んだ大木さんに、本作に込めた想いを聞いてみたところ、次のように語ってくれた。熱量をそのままにお伝えしたい。

「アラサー」と括られてしまう私たち女性は、なぜ、いつもこんなに苦しいのか? ずっと考えていたことでした。
私はSDN48アイドルグループ出身で、解散後、ひとりの会社員としてずっと働いてきました。
普通の女の子になった後も、いつも周囲からは「可愛くて気の利いた女の子」として振る舞うよう求められてきた気がします。
そこにはある種のジェンダーバイアスが発生していましたが、私はまるで何事も感じていないかのように笑顔を振りまき続けました。
ある日、それではダメだと思いました。もう限界でした。
そこで小説を書いて、この思いを成仏させようと思いました。
そこからは得体の知れない大きな力に動かされ、『シナプス』という小説が生まれました。
この物語を書いたのは私ですが、書かせてくれたのは、この世界で懸命に生きる私と同世代の女性達の悲痛な魂の叫びです。
雨の日も、雪の日も、男にふられた日も、辛くて逃げ出したい日も、泣き叫びながら机に張り付いて書きました。
もう無理、逃げたい、これだけ曝け出して良いのだろうか。何度も自問自答しました。答えはまだ出ていません。
しかし、人生を賭けて書きました。あなたの人生に私の思いが届きますように。

大木さんの文章に魅せられ、本作の刊行を目指してきた講談社の編集担当者は、次のように本作の魅力を語っている。

大木さんのデビュー作『アイドルやめました。』(宝島社)の序文に衝撃を受けて、気づいたら小説のオファーをしていました。
本作は4編からなる30歳前後のセカンドステージに向かう女性たちの短編集で、異なる3つの物語が、意外な展開の末に一つにまとまるという構成になっていて、各短編の切れ味のみならず一冊としての読みごたえもばっちり。
すでに俳優の池松壮亮さんや、アーティストのセントチヒロ・チッチさん(BiSH)、小説家のカツセマサヒコさん、モデルの有村藍里さんなど各方面から絶賛の声が寄せられています。
性別、世代を問わず、読む人すべての背中を押してくれる、エンターテインメント性とメッセージに満ちた一冊です。

本作を読み返すと、女性の生きづらさに加え、もう一つの生きづらさが描かれていることに気づく。それは、切り離すことのできない過去とどう向き合うか、というテーマだ。

当人の記憶とはお構いなしに残り、評価され続ける「情報としての過去」については、ぜひ、本書収録の「海の見えるコールセンター」(p.215)をご覧いただきたい。

SNS社会の生きづらさの一面を知る上でも、深く考えさせられる作品だ。

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