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K-POP、韓ドラの次はコレ!初めての人のための韓国文学「K文学」入門

  • 2022.4.6

ストレートな感情表現に心を揺さぶられる。それがK文学の魅力

日本でブームとなっている韓国文学「K文学」(以下、K文学)。モデル・前田エマさんはその魅力を「今まで向き合ってこなかった社会問題や歴史に触れられること」や「真摯で真っ直ぐな感情の表現に心が揺さぶられるところ」と語ります。そんなK文学の世界を上手に楽しむためには? 初めての人でも読みやすいおすすめの本や、本の選び方などをうかがいました。

K文学、今なぜブームなの?

「ふらっと本屋さんに入っても、韓国文学のコーナーを普通に目にするようになりましたよね」と語る前田さん。そのブームの裏側、きっかけは日本で2018年に出版された『82年生まれ、キム・ジヨン』(韓国では2016年)。韓国映画『パラサイト』やBTSの世界的な活躍により、「韓国のエンタメってすごいよね」という空気がより加速し、K文学のブームを後押ししたとされています。

笑顔の前田さん
写真の『少年が来る』は、韓国書籍の専門出版社クオンが、2000年以降に登場した韓国文学の中から、現代作家のよりすぐりの作品を紹介する「新しい韓国の文学」シリーズのひとつ。「新しい韓国の文学シリーズは、どれもおしゃれな装丁で内容も素晴らしい。このシリーズから読んでいくのもおすすめ」と前田さん

日本で受け入れられているのはどうしてなのか。前田さんに意見を聞いてみると「韓国文学を読んでいると、悲しみや怒りが温度を持って伝わってくる。空気を読む文化や、遠回しに表現することが尊重される日本では、もしかしたら新鮮に映るのかもしれません。そして社会問題や歴史的な事柄を物語に入れることも魅力のひとつだと思っています」という答えが返ってきました。

「“こんなに怒っていいんだ”とか“心の痛みを真正面から叫んでいいんだ”とか、心の中にある感情にちゃんと向き合って大切にしていいのだと感じられる。そんなところが好きです」

前田さん自身はBTSのファン。BTSの楽曲の中で「光州民主化運動」に関する歌詞があり、そこに関心をもったのが始まり。友達にすすめられて「光州民主化運動」を題材にした『少年が来る』という1冊の本に出合います。それがK文学にのめり込むきっかけとなりました。

前田さん
「『少年が来る』は韓国全羅南道の光州を中心として起きた民主化抗争「光州事件」を題材にした作品。描写はとても生々しく、現実から目を背けたくなるような場面もあります。でも文章はとても美しくて、体験したことのない痛みを読み手にこんなにもリアルに伝える技量の高さに驚きました」

文章の新鮮さと自分が知らなかった韓国の歴史、社会的な問題に興味をもった前田さん。「今まで他人事だった世の中で起きている問題が、文学を通すとパァーっと色を持ち始めたんです。その体験が衝撃的でした。知れば知るほど、自分が無知だということがわかる。無知な自分を受け入れることが、なんだか楽しかったんです。そうして、自分なりに社会の問題と対峙(たいじ)していく方法を模索したくなったんです」

映画化された作品も! 前田エマさん推薦のK文学4冊

K文学にハマってからまだ1年と少し。それでもすでに40冊以上の本を読んでいる前田さんに推薦図書をご紹介いただきました。「これまであまり本を読む習慣がなかった人でも、読みやすいものを」というリクエストのもと、計4冊をピックアップ。

(1)映画化された2作品!『菜食主義者』と『82年生まれ、キム・ジヨン』
菜食主義者
(写真左)ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日を境に肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を夫が語る「菜食主義者」から始まり、姉の夫が語る「蒙古斑」、姉が語る「木の花火」と3人の目を通して語られる連作小説。(写真右)1982年生まれの33歳のキム・ジヨンが、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を克明に回顧していき、女性の人生に当たり前のようにひそむ困難や差別が淡々と描かれている作品

『菜食主義者』の著者ハン・ガンさんは前田さんも大好きな韓国を代表する現代作家のひとり。「突拍子もない話と感じる人もいるかもしれません。でも誰もが心当たりがあるような自分の心の傷や体で感じる痛みについて描かれています。人間として生まれ生きるとは何かを突きつけられます」

冒頭でも紹介した『82年生まれ、キム・ジヨン』。「この作品が世界中で注目されたのは、きっと世の中の女性が年齢や国籍関係なく“自分のことかもしれない”と共感できる部分があったからだと思います。小説は韓国の国の歴史や制度について、注釈付きで描かれているので“韓国を知る”という意味でもとても役立つ1冊ですね」

(2)女性が生きる大変さを女性アーティストが描くエッセイ『話し足りなかった日』
話し足りなかった日
シンガーソングライター、小説家、コミック作家、映像作家、そしてエッセイスト。多才なアーティスト、イ・ランのエッセイ集。お金、労働、フェミニズム、コロナ禍……。韓国大衆音楽大賞授賞式でトロフィーを売った話から、金銭事情、#MeToo運動など荒波の日々をつづる

生きていくということは、本当にいろんなことがある。そのひとつひとつに一生懸命向き合い綴り続けるエッセイ。「人は誰しも複雑で豊かな感情をもって生きているし、それはとても大事なこと。他人から見たら常識を疑われるような感情でも、それは宝物です。そして、それを存分に書いても許されるのが文学の世界」だと、語る前田さん。

「作中でも、作者のイ・ランさんは“今傷ついている”、“お金がない”とか、自分の状況や感情を包み隠さない。その姿に覚悟を感じます。描かれていることは大変なことが多いのに、読んでいるとなんだか元気が出てきて、思わず笑ってしまうんですよね」

(3)女性同士の繊細な“あるある”を表現!『ショウコの微笑』
ショウコの微笑
高校の文化交流で日本から韓国へやってきたショウコは、「私」の家に1週間滞在した。帰国後に送り続けられた彼女の手紙は、高校卒業間近にぷっつり途絶えてしまう。約十年を経てショウコと再会した「私」は、彼女がつらい日々を過ごしていたと知る……「ショウコの微笑」など、全7編の短編集

『ショウコの微笑』は7つの短編小説からなり、タイトルになっている「ショウコの微笑」がいちばん読みやすくておすすめのお話なのだそう。

「“大人になるってはかなくて切ないな”と何度も読んだ作品です。2人の女の子が成長していくにつれ、だんだんと疎遠になり心も離れていってしまう話。昔仲が良かった友達とけんかしたわけでもないのに、いつのまにか距離ができていくことってよくあるじゃないですか。言葉で言わなくてもあんなに心で繋がっていると思っていたのに……と。大人であれば、その寂しさに共感できるのではないかと思います」

K文学と前田さん
読書をしながら、感動した描写など「心が動いたところ」には付箋を。「付箋を貼ったところだけを読み返すことで、そのときの感動が蘇えるのでおすすめです」

初めてのK文学を楽しむコツ! 本の選び方は?

本の前でたたずむ前田さん
「K文学やK-POPに出合って受けた感銘を韓国の人たちに自分の言葉で伝えられたらなと、今年から韓国語を本格的に勉強中」

これからK文学にふれてみたい。でも本はどうやって選べばいいの?という人も多いはず。そんな人に向けて、初心者でも入りやすい「おすすめの本の選び方」を前田さんに教えていただきました。ポイントは3つ。

(1)K-POPアーティストのレコメンドから入る
「私自身がBTSをきっかけにK文学の世界に入っていますが、自分が読んだ小説や詩集をSNSなどで紹介しているK-POPアーティストはたくさんいます。K-POPが好きな人であれば、そこから入ってもおもしろいかも」

K文学を選ぶ前田さん
「今、日本では韓国の女性作家のエッセイが人気を集めていますね」

(2)ジャケ買いもあり
「K文学の本って、装丁がかわいいものが多いんですよね。私は神保町にあるK文学の専門書店「チェッコリ」に足を運ぶことが多いのですが、おしゃれなデザインの本がずらりと並んでいます。そこから見た目にビビッっときたものを買ってみるのもアリだと思います」

(3)翻訳者の人のおすすめをチェック
「少しマニアックかもしれないですが、K文学の翻訳者の方のレコメンドもおすすめ。SNSでご自身の意見を積極的に発信している翻訳家の方が多いんですよ。ご自身が翻訳されていない本についても熱く感想を語っていたり(笑)。私もよくチェックしています」

【前田さんの読書のお供】

前田さんお気に入りグッズ
「指先は読書中に目に入るところ。気持ちを上げるために整えておきたいのでハンドクリーム(写真左)とネイル(写真右上)は必須。またシオリ(写真左から2番目)はもっているだけで楽しくなる華やかな柄がお気に入り。ブックカバー(写真右側3種)は、友達から本を借りたときに汚さないために。ハーブティー(写真右下)は気分によってチョイスしています」

ハーブティーを飲んで心を落ち着かせてから読書をすることが多いという前田さん。「移動時間や机に向かって集中して読むときもあるけれど、ベッドでごろごろしながら読むことも多いです。寝ているのか本を読んでいるのかが曖昧なくらい、リラックスしている読書時間が幸せです」

K文学というカルチャーを通して対話ができる

K文学を読む前田さん
ご自身がK文学と出合って得た経験を生かして、映画や本、音楽などを通して、国とテーマを変えながら、世界の歴史や社会問題を学ぶ勉強会も定期的に主催している前田さん。「このコミュニティを作れたことは、私の中ではK文学と出合って得たいちばんの財産かもしれません」

K文学の日本でのブーム。「この流れを私自身は長く大切にしたい」と語る前田さん。

「日本と韓国の関係は、これまでのいろいろな歴史を経て今に至ります。社会的な問題も多く抱えているけれど、カルチャーという好きなものを通して、いろんな人たちと対話できるというのはすごく希望があることだと思うんです。だから、こうやって文化や歴史にも興味を持つ人が増えたらいいなと思うし、いろんな人が“自分の好きなこと”を語れる世界であり続けることを願っています」

一度ハマるとどんどんのめり込んでしまう人が多いというK文学。もちろん、どこに魅了されていくかは人それぞれ。ぜひその一歩を踏み出してみてくださいね。

PROFILE
前田エマ

モデル

1992年、神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験をもち、在学中から、モデル業、エッセイ執筆、写真、ペインティング、朗読など、さまざまな分野で活動。現在はラジオパーソナリティのほか、エッセイの連載を多数手がけ、Webマガジン「クオンの本のたね」にて、「韓国文学と、私。」を連載中。

Instagram:https://www.instagram.com/emma_maeda/

CREDIT

ワンピース¥57,200(税込)/FOR flowers of romance
●お問い合わせ:https://for-lafleur.katalok.ooo/ja

取材・文/坂本アヤノ 撮影/藤井由衣(Roaster)

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