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新入社員研修も様変わり!昔ながらの研修に代わる「経験学習」とは?

  • 2022.4.3
「経験学習」が新人研修を変える?
「経験学習」が新人研修を変える?

今年も、新入社員を迎える季節になりました。企業は、採用した新人たちがうまく職場に定着・適応し、やる気を持ち、早く独り立ちしてくれるようにと、毎年のように新人研修に工夫を凝らしています。そんな中で近年、人事担当者がよく口にするようになったのが「経験学習」です。

経験学習とは、「経験」「内省(振り返り)」「概念化(抽象化)」「試行(実践)」という4つの要素をサイクルさせて学習するというモデルで、考え方や順序が、従来の新人研修とは大きく異なります。

昔の新人と今の新人は違う

昔ながらの新人研修は、まず「知識」を教えることから始まります。会社概要や各部署の紹介、ビジネス文書、マナー、学生と社会人の違い、社内的なルール、手続き…業務マニュアルや業務の基礎知識といった内容を、主として座学で教えます。経験学習モデルの言葉を使えば、他人が「概念化」したもの(知識や情報)を、まずは詰め込むわけです。この学習方法の問題点は、新人たちが全くリアリティーを持てないことであり、それ故に理解が難しく、ふに落ちず、学ぶ意欲も上がってきません。

一方の経験学習モデルは、まず「経験」から始まります。事前に伝えておく知識は最低限とし、失敗する可能性は高くてもやらせてみます。次に、やってみた結果やプロセスについて、じっくりと「内省(振り返り)」を行います。日報とか報告書といったものに記載するような淡白な内容ではなく、できれば、深い内省に導く問いを投げ掛けられるコーチ的な人と一緒に、対話を通して振り返ります。ここから得られた示唆や気付きは、自ら「概念化」したものであり、いきなり詰め込まれたリアリティーのない知識とは違いますから、それは血となり肉となる可能性が高く、実践に移してみようという意欲も湧いてきます。

昔ながらの新人研修が悪いというわけではありません。しかしこれは、抽象的な知識や概念を、当面やることとは関係なくても取りあえず全部教えてしまおうということですし、「もう教えたから、後は自分で考えて。もし何かあったら聞いてきて」といった姿勢なので、大ざっぱな感じは否めません。理不尽やスパルタ式に慣れていた昔の新人と、合理的な今の新人とは違いますから、研修効果の観点からも見直す余地があり、経験学習モデルの取り入れは検討に値すると思います。

先輩や上司の介入が余計なものになりかねない

経験学習を取り入れた研修の設計については、「どのような経験をさせるか」「それを誰と一緒に(どういう形で)内省させ、気付きを引き出していくか」「その後、どのタイミングでどんな知識や概念をレクチャーする機会を提供するか」などを計画に組み込んでいくことになりますが、そうした研修計画以上に重要な点が3つあります。

1つ目は、昔ながらの研修と経験学習との思想の差に気付き、頭を切り替えること。前者は、新人を「素人」「できない人」と(無意識に)見なしているのに対し、後者は新人を「自ら気付き、学び、育つ力がある人」であると考えます。だからこそ、教えるのではなく、まず経験させるのであり、十分な振り返りの機会を重視するのです。

作家の坂口安吾は「親があっても子が育つ」「親がなきゃ、子どもは、もっと、立派に育つ」(「不良少年とキリスト」より)と言いましたが、経験学習を取り入れるのであれば、それと同じように、「人はもともと成長していく力を持っており、先輩や上司の介入は、場合によっては余計なものになりかねない」と考えるくらいでよいかもしれません。

2つ目として、結果への評価をすぐに下さない姿勢も大切です。普段の業務では、部下の仕事の結果に対してすぐに良しあしの評価を下し、対策や改善策を一緒に練るというスピーディーなマネジメントが求められるかもしれませんが、新人研修に経験学習モデルを取り入れるのであれば、経験から何を感じ取るか、どう評価するかは本人次第です。深い内省への支援に徹する姿勢が求められます。

そして3つ目は、研修の冒頭において、新人たちから経験学習に対する納得感を十分に得ることです。それがなければ、「何も教えてくれずに、現場に放り込まれた」というふうに思われる可能性があるからで、経験の機会を与えたつもりが、「放置された」という不満や不安につながりかねません。

ただでさえ学生時代、授業などでは受け身でやってきていて、基本的に「会社がいろいろ教えてくれるものだ」と思っている人が多いはずで、そういう人たちには経験学習の考え方をしっかり伝えなければなりません。納得感が高ければ高いほど、研修に真剣に取り組み、内省に値する良質な経験が積めることになります。

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕

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