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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.51 歌い手のすゝめ

  • 2022.4.1
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。27歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.50 自分のイメージ

vol.51歌い手のすゝめ

先日、東京国際フォーラムで開催された[billboard classics 玉置浩二35th ANNIVERSARY LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2022“Arcadia -理想郷-”]に行ってきた。開演を待ちながら客席でページを捲ったツアー冊子には「安全地帯デビュー40周年、ソロデビューから35周年という節目の年を迎える2022年に玉置浩二が新たなオーケストラとのツアーに挑む」の文字。2月15日にデビュー10周年をやっと迎えた私。40年歌を歌うことを静かに想像してみて思わず沈黙していると客電が落ちステージに光が放たれた。

Conductorの大友直人さんがまるで魔法の杖のようにタクトを軽やかに振ると、会場が音の煌めきでいっぱいになり、オーケストラの音色が心を溶かしはじめたところでご本人が登場。マイクを片手に息を吸い込む音。いよいよはじまる…!と極限まで高められた高揚感。ふっと意識のアンテナを内から外に切り替えると、はじまって欲しいけど、はじまったら終わってしまう…という、なんでもない風を装いながらその悲しみと決して目が合わないように気を付けている人たちのざわめきが飛び込んで来て。このライブをそれだけ楽しみにして今日まで生きてきた人がいることに胸が熱くなった。そして次の瞬間。玉置さんが声を発し歌の一節を歌っただけなのに、風景が見えた。「玉置さんの口から文字型の石版が出てる…」訳の分からない感想だけど、そう呟かずにはいられなかった。目に見えるはずのない歌詞が視覚化されているかのようなマジック。言霊の力。そして歌に対する凄まじい集中力。歌への燃料を一体どこで調達しているのだろうと聞きたくて堪らなくなった。

まるで国立美術館に展示されている彫刻や仏像を見ているような。玉置浩二さんという身体は現世を生きていて、でも魂はその間に何度も輪廻転生しているんだろうな、と歌を聞きながら思った。そして、音楽のギフトを授かって生を受け、それに驕らず日々研鑽を積み、「今ここ」を生きていらしたのだろうなぁと思った。

おこがましいのは重々承知している。だけど私もその次元に行きたい。その境地で歌をいつか歌えている自分でありたい。私はいつも何処かで傷付く準備をしているようなところがあって。それをたった今からやめようと思った。きっと玉置さんは、愛し愛される時は失う怖ささえも惹き合う磁力に変えて、孤独に彷徨う夜は宙を見つめ、絶望も希望も魂に刻みつけてきたんだ。だから歌う言葉に力が宿るんだ。公演が終わった帰り道、私の人生には何が待っているんだろう?と思った。きっとこんな場所や気持ちが用意されていたなんて!って絶頂の幸福も、地を這うような奈落の底の苦しみもいつの日か味わうのかもしれない。だけど、私はその日々を全部言霊にして、歌にして、生きたいと思った。

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