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『なんみんってよばないで。』【今日の絵本だより 第283回】

  • 2022.3.30

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。 こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

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『なんみんってよばないで。』 ケイト・ミルナー/作 こでらあつこ/訳 合同出版 1760円

ウクライナから避難する市民の姿が、連日ニュースで取り上げられています。 画面に映し出される現地の様子に、大人もとまどうばかりですが、今だからこそ親子で読んでほしい絵本があります。 『なんみんってよばないで。』です。

「このまちを でていかなくては ならないの」 と、お母さんが男の子に言います。 「これからの ことを はなしてあげようね」 お母さんは、ひとつひとつ丁寧に伝えます。 「もっていくものを きめてね、だけど じぶんで もてるだけよ」 ページの下には、読者の子どもたちへの問いかけがあります。 「きみなら なにを もっていく?」

ぎくっとしませんか。 住み慣れた家から、突然出なければいけない。 持ちものは最小限。 何を持っていくかと聞かれて、うまく答えられるでしょうか。

家は壊れ水道の水も出なくなった町に、別れを惜しむ間もなく、お母さんと男の子は出発し、ずっとずっと歩き続けます。 「きみは どれくらい あるけると おもう?」 知らない人たちと地べたで眠り、聞こえてくるのはわからない言葉。 「よその くにの ことばって きみは しゃべれる?」

理由もわからないまま、ある日突然難民になって、自分の身の上に起きること。 胸がふさがるような質問が続きますが、お母さんと男の子はようやく新しい土地に荷物を下ろして、ベッドで眠れるようになります。 「わからなかった ことばも そのうちに わかるように なるよ」 果てしない不安の中で、かすかに輝く、明日への希望。 そして、物語の最後はこう結ばれます。 「なんみんの こ って よばれてもね これだけは わすれないで あなたの なまえは なんみん じゃないのよ」

ニュースの画面に映し出される、着の身着のままで逃げる人たちは、つい最近まで私たちと同じ、普通の暮らしを送る人でした。 『なんみんってよばないで。』というタイトルに込められた思いを、ぜひこの絵本を開いて、受け止めてください。

選書・文 原陽子さん はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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