最終回と二つの見守る星:【彼氏の顔が覚えられません 第45話】

ライヴ会場から出た直後は止んでいたけど、外ではまだ少し雨が降っているようだ。

最終回と二つの見守る星:【彼氏の顔が覚えられません 第45話】

画像:(c)jun.SU. - Fotolia.com

23時半。駅構内の柱にずっと寄り添っている。こんなところにいても仕方ないのはわかってる。ただ、人の流れの中でオロオロしてたら吐きそうになって。ちょっと休憩。

でも、このまま帰れなかったら野宿になるかもしれない。大都会でハタチの女が一人で。いまごろコモリとかが、かばんを忘れた私のことを探してくれてるだろうか。

どちらにしても、交番に駆け込むべきだろう。でも、交番すらわからない。まだ会社帰りの人が多い。もう少し人の数が減ったら探しにいけるかもしれない。つまり、終電が無くなってからということになるんだけど。

そのとき、数人の男たちがこちらに近づいてきた。金髪頭、ヤンキースのキャップ、スキンヘッド。ジーンズのポケットに手をつっこみ、明らかにガラが悪そうな感じで。

「ねぇ彼女、誰かと待ち合わせ? それともナンパ待ち?」

一人が声をかけてきた。怯えながらも返事をする。

「ち、ちがいます。帰るつもりが、カバンを忘れてきちゃって…ライヴ会場に。でも、戻る道わかんないし」

「へぇ、そりゃ大変だ。会場の名前わかる? 探してやるよ」

地獄に仏か、と思った。けれど数十秒後に裏切られた。

「でも、まずは俺たちと一緒に飲もうよ。それから探すでも遅くないだろ」

「え、でも終電が…」

「いいじゃん、たまには終電も逃しちゃおう。せっかくのアンラッキーを俺たちとラッキーに変えよう。カバン忘れたのだって、きっと俺らと仲良くしてろって言う神の意志なんだよ」

意味不明なことを言われ、腕を捕まれる。痛い、と思うくらい強く。逃げられないように。「ちょっ…離してくださっ…」叫ぼうかとするけど、震えて声が出ない。誰か、助け…。

「お、おい…俺の、彼女に…なにしてんだ、よ…」

聞き覚えのある、潰れたテナーボイス。

「カ、カズヤ?」

「えっ…おぉ、なんだよ、彼氏持ちかよ…行こうぜ」

私から手を離し、あっさり離れていくチンピラたち。声をかけてくれた男性を見る。長い髪、ギターケース、ステージで着てたのと同じ服装…。

そして、急にへなへなっと地面に崩れ落ちる様子。

「ふあ、ビビった…」

このヘタレっぽくて残念な感じ…やっぱり、カズヤだ。

「探したぞ…カバン置き忘れてるって聞いて、慌てて…」

と、差し出す。ごてごてムダな荷物の入ったカバン。重かっただろうに。

「私のこと、よく見つけられたね」

「…そりゃ、俺、目がいいから。1キロくらい離れてたって見つけられるさ…ハハッ」

ヘタレながらも、必死に取り繕ってバカみたいなこと言ってる。しょうがない人。だけど、ちゃんと私のこと助けてくれた。

手を差し出す。カズヤはそれをまじまじと見つめ、握り返して立ち上がる。暖かい手。急に、視界がゆがむ。ヤバイ。そう思って、カズヤを抱きしめる。

「わっ、ちょ…」

戸惑いながらも、でも彼はちゃんと私の背中に手を回してくれる。暖かい。いい匂いがする。ずいぶん嗅いでなかった、だいすきな香り。

「やっぱり、嫌いになれない」

悔しいけど、そう言う。言っていいんだと思う。だって事実だから。なんてワガママな発言なんだろう。数時間前、ムリって言ったくせに。テキトー。私ってばすごいテキトー。カズヤに文句言う資格ない。

「俺も…イズミのこと好きだよ。イズミが俺の顔覚えてくれなくったっていい。マジで、気にしてないから! イズミが俺のこと見失っても、俺は絶対見失わない。一生、絶対見失わない!」

「カズヤ」

ぷっ。

「おっ…ちょ、今、何で吹き出した!?」

「だって、セリフ、クサすぎ。"絶対"とか使いすぎ。嘘ばっかり」

「う、嘘じゃねぇよ! 俺が"絶対"って言ったら、それはゼッッッタイで…」

「もう、わかったよ」

涙をふいて。もう一回カズヤと向き合って。

チュッ。

唇と唇を重ねる。

東京の夜がふけていく。周りの人々は、私たちのことなんて見てないだろう。見てくれてなくていい。「バカップル」とか思うなら、すぐに目を逸らしてほしい。

ただ、恥ずかしながら、私とカズヤは出会ってしまった。ここ東京で。これから二人、カズヤが言うように一生いっしょかなんてわからない。まだまだ、幼いカップルだけど、必死に生きている。ダメ女なりに。バカ男なりに。

「カズヤ、ところで終電は?」

「あ…」

0時近く。もう今から鎌倉なんて帰れない。

「しょうがないな、じゃあ――」

私の家に。そう言い掛けて、詰まる。部屋、散らかし放題だ。

「ネカフェ、行こうか」

「お、おぅ…」

やっぱり、ロマンチックじゃない。でも、それが私たちらしいんだろう。

外の雨はいつの間にか止んでいた。一部雨雲が退いた隙間から、星が見えている。強く、明るい二つの星が、まるで私たちを見守るように光っていた。

(おわり)

【恋愛小説『彼氏の顔が覚えられません』】

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(平原 学)

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