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『せんそうがやってきた日』【今日の絵本だより 第282回】

  • 2022.3.26

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。 こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

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『せんそうがやってきた日』 ニコラ・デイビス/作 レベッカ・コッブ/絵 長友恵子/訳 鈴木出版 1650円

『せんそうがやってきた日』は、家族4人がにこやかに食卓を囲む、朝の風景から始まります。

「せんそうがやってきた日 まどべには 花がさき おとうさんは おとうとに 子もり歌をうたっていた

おかあさんは あさごはんをつくり わたしの鼻にキスをして 学校までおくってくれた」

わたしは午前の授業で、火山のことを勉強し、おたまじゃくしの歌をうたい、鳥の絵を描きます。 「そして ランチタイムのすぐあとに せんそうがやってきた」

突然やってきた戦争は、すべてを破壊し、何も彼も奪い、誰も彼も連れ去りました。 わたしはぼろぼろで、血だらけで、ひとりぼっち。 野原を、道を、山を、泥だらけで進み、トラックやバスに乗り、沈みそうなボートに乗り、はるか遠くまで走ります。 たどりついた知らない土地で、戦争が来ていないところへと歩く中で、わたしが見つけたのは学校。 中にいる子たちは、あの日のわたしと同じように、火山の勉強をして、歌をうたい、鳥の絵を描いています。 中に入って、教室のドアを開けたわたしに、先生がかけた言葉は……。

戦争が一瞬でもたらす、言葉にできないほど悲しすぎる現実。 それが愛らしく優しい絵で描かれていることに、一層胸がしめつけられます。 2016年にイギリスで起きた難民拒否のできごとから生まれたこの絵本は、それでも物語の最後に、子どもたちが切りひらく未来への大きな希望を宿しています。 実際に絵本を読んだら、表紙側の前見返しと、裏表紙側の後ろ見返しを見くらべてみてください。 絵本という形だからこそ伝えられるメッセージが、そこにあります。 言葉の違う国に住んでいても、誰にでもわかるメッセージ。

巻末の訳者のあとがきから、一部を引用します。 「安全な日本にいるわたしたちができる支援とはなんでしょうか? この絵本を読んだことが、あなたの支援の第一歩になります。」 ウクライナのニュースを気にしながら、どうしたらよいかわからない大人たちに、そして子どもたちに、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

選書・文 原陽子さん はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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