ドキュメンタリー好き・藤井健太郎（TVディレクター）、忘れられないあのシーン。『監督失格』

娘の遺体を発見し母親が泣き崩れるとき

遺体を発見する、まさにその瞬間を映像に捉えるなんて狙ってできることじゃありません。だからまず真っ先に思い浮かんだのはこのシーンでした。
もちろん、ただ撮れているだけ、というわけじゃなくて、パニック状態の母親と、その母親に構ってよと言わんばかりに無邪気に近寄る犬の様子の対比がとても印象的で。

ここには人の死に接したときに現れる本物の感情があるし、そんなときに犬が心情を察して慰めてくれるようなことは起きないんだなあと。床に置いたカメラが玄関から奥の部屋に続く廊下を見上げる構図も、どこまで意図したものかはわかりませんが非常に効果的でした。

それに映像に携わる人間としては、これほど強烈な一部始終をどういう流れで見せるかがとても難しいところだと思いました。この素材自体、林由美香さんの死後、一時的に世に出さないことが遺族との話し合いで決められたように、誰にとっても気持ちがいいものとは言えません。

このシーンをどう見せるか？というのが本作の主題でもあるけれど、僕はなるべく自らを被写体にしたくないし、その顚末を描くような編集にもしないと思う……。自分ならどうするかを考えさせられた作品でもあります。

Information

『監督失格』

200本以上のアダルトビデオやピンク映画で活躍し、2005年に34歳で亡くなった伝説的女優、林由美香。かつて彼女と不倫関係にあった平野勝之監督が、彼女の10年以上に及ぶ記録と、彼女の死後に新たに撮影した映像で構成した映画。前半では不倫旅行に始まり、別れと再会を経て彼女の死に至る2人の関係性が、後半では亡くなったときの映像といかに向き合うか、監督の感情が剥き出しに描かれる。U-NEXTで配信中。

profile

藤井健太郎（TVディレクター）

ふじい・けんたろう／手がけている番組に、TBSテレビ系列『水曜日のダウンタウン』『クイズ☆正解は一年後』など。

twitter：@kentaro_fujii