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ほろ苦さと、甘さと、優しさと。女の人生をじっくり見つめる『カプチーノはお熱いうちに』

  • 2015.9.11
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本コラムでちょうど4年前に紹介したイタリアの大ヒット作『あしたのパスタはアルデンテ』の名匠フェルザン・オズぺテク監督最新作。ちなみにヒロインは一番左のカシア・スムトゥニアク。

なんだか一気に秋になってしまったようだ。毎年この時期はまだ暑さの残る中、朝晩の涼しさに秋の訪れを感じつつ、ちょっとセンチメンタルな気分になったりしたものだが、今年は"残暑"がすっぽり抜け落ちてしまったような感覚。

ちょっぴり寂しい気持ちもするが、今回紹介する『カプチーノはお熱いうちに』にはぴったりの時期なのかもしれない。本作は、人生の夏と秋が描かれた感動のヒューマンラブストーリーだ。

夫・アントニオ役のフランチェスコ・アルカは13年後を演じるにあたり、13キロ増量して、腹の突き出た中年男体型に。別人かと疑ってしまったほど!


◆ストーリー

アドリア海を望む、南イタリアの美しい街、レッチェ。カフェで働くエレナは、雨の日のバス停で、ひょんなことから初めて出会ったアントニオと言い合いに。二度と会いたくないと思っていたその男は、偶然にも同僚シルヴィアの恋人だった。性格も生き方もまるで正反対のふたりだったが、だんだんと惹かれ合い結婚。その後、親友のゲイ、ファビオと始めたカフェも成功し、公私共に順風満帆......のはずが、夫婦関係には綻びが生じ始め、さらにエレナに追い打ちをかけるような事実が発覚してしまう。

レッチェの街のカフェや、友人のパーティ宅、アドリア海などイタリアの空気を感じるシーンもいっぱい。


◆描かれるエレナの人生の"夏"と"秋"

劇中は、ふたりが出会い恋に落ちる人生の"夏"と、13年後、夫婦になってからの人生の"秋"が描かれている。

まず"夏"のシーンがたまらない。雨の日のバス停でケンカして、友人のパーティで再会して、お互い衝突するもそれ以上に惹かれ合って、結局はバイク二人乗りで、ある場所へ......。もうラブストーリーの王道という感じなのだが、アントニオがあまりにも彫りが深く、男フェロモンがレッチェの街中に溢れてアドリア海まで流れ込んでいきそうで、ヤケドしそうなラブロマンス感が半端ない。

それから、シーンは一気に"秋"に変わる。ここからはじっくりスクリーンで見てもらいたいので、あまり書かないが、まさに女の"秋"。恋も仕事も手に入れ、子供も生まれて、様々な物事が熟していくこの時期に、エレナは予期せぬ事態と直面しなければならなくなる。

エレナを見守る母親(中央)と叔母のカルメラ(右)。本作に登場する女たちは、誰もがとにかく個性的(笑)。


◆さいごに

映画の場合は、どちらかに比重を置かれて描かれる事の方が多い。出会って恋に落ちるか、その後の夫婦生活を描くか。しかし本作はその両方を同様のボリュームで描くことによって、人生とは何か、女が生きていく上で経験する幸せや喜び、悲しさや葛藤とはどんなことかを、じっくりと私たちの心に語りかける。

また、さすがオズぺテク監督。エレナの母親や家族たち、親友らのエピソードも味わい深く、ユーモアも満載。エンディングも心憎く、素晴らしくキラキラしたシーンなのに、なぜか涙が出てくる......なんというか、まさにカプチーノのような。濃くて、ほろ苦くて、インパクトがあって。

でも、ブラックコーヒーな日々だけじゃね、ということで、ほわほわのミルクとスパイスを入れて美味しいカプチーノを飲む日があってもいい。誰かが入れてくれたらもっと美味しい。誰かに入れてあげられたら、もっと幸せ。

『カプチーノはお熱いうちに』というタイトルは、おしゃれなラブコメディのようだけど、さまざまな人生の豆がブレンドされた、苦味も甘味もあって、優しくて、味わい深い内容なのであった。

『カプチーノはお熱いうちに』
監督・原案・脚本:フェルザン・オズペテク
出演:カシア・スムトゥニアク、フランチェスコ・アルカ、フィリッポ・シッキターノ、カロリーナ・クレシェンティーニ
www.zaziefilms.com/cappuccino/
(c)2013 All rights reserved R&C Produzioni Srl - Faros Film
9/19よりシネスイッチ銀座他にて全国ロードショー!

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