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いま、アメリカの音楽を語りたい理由。この10年の政治や社会とのつながりを大和田俊之と渡辺志保が語る

  • 2022.3.12
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ガンナ『DS4EVER』、テイラー・スウィフト『1989』

動き続けるアメリカ社会そのリアルを伝える音楽

大和田俊之

アメリカの音楽を聴いていると、政治や社会と一緒くたになっていると実感します。例えば、共和党支持者とカントリー音楽のリスナーが多いテネシー州出身のテイラー・スウィフトは、長らく政治的立場の表明をあえて避けてきた。

けれど、マイノリティの存在を脅かすドナルド・トランプの出現に抗議し、民主党支持を表明したんです。

渡辺志保

ロサンゼルスに目を向けると、様々な価値観や文化を超えた交流が音楽に表れています。例えばオッド・フューチャーというヒップホップ集団は、スケートボードもパンクロックのカルチャーも取り入れる従来にないスタイルで登場し、メインストリームになりました。

メンバーに同性愛者のシドやフランク・オーシャンがいることも、その環境を体現しています。

大和田

ブロンクスからは、中南米がルーツの女性ラッパー、カーディ・Bが彗星のごとく現れました。

渡辺

ニューヨークではもともとラテンアメリカやヒスパニックのコミュニティの存在感も大きい。そんな中、彼女は地元感をあらわにし、自らの底辺の部分もリアルに表現したことで人気が出ました。
ルーツ的には同じような出自のジェニファー・ロペスが、ダンサーや俳優として洗練されて人気が出たのと対照的です。

大和田

彼女は男性ラッパーにフックアップされたわけでなく、独力でのし上がったことも重要ですね。

渡辺

シカゴには、アフリカン・アメリカンのルーツを真摯に音楽に落とし込むシンガーのジャミラ・ウッズや、ラディカルに人種差別の撤廃を訴えるラッパーのノーネームという女性アーティストがいます。
ノーネームは、ブラック・ライブズ・マター運動でも存在感を強めた存在です。

大和田

同じくシカゴのチャンス・ザ・ラッパーは、クオリティの高い作品を無料で配信して、ライブとグッズで最終的な収益を得るという方法で、従来の音楽シーンのあり方を変えてしまいました。

渡辺

音楽の聴き方自体も、オンライン中心に変わりましたね。

大和田

アトランタから生まれたトラップミュージックや、アメリカのヒット曲のサウンドとも近いK-POPの日本での流行を見ていると、音楽配信の普及もあって、今は日本からもアメリカの音楽に興味を持ちやすい時代と感じます。

渡辺

そういったサウンドを楽しむ一方で、アメリカの多様さと社会の動きに興味を持ち、照らし合わせるようにしてアメリカの音楽を聴き始めるのもいいと思います。

NEW YORK CITY

カーディ・B『Invasion of Privacy』
カーディ・B『Invasion of Privacy』/2018年のデビュー作。その年の音楽メディアでも軒並み高評価を受けた。
A$APロッキー『LIVE.LOVE.A$AP』
A$APロッキー『LIVE.LOVE.A$AP』/ファッションでも存在感を見せ、世界中で人気を得る若きラッパーの2011年の作品。
ポップ・スモーク『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』
ポップ・スモーク『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』/近年盛り上がるヒップホップの新ジャンル、ブルックリン・ドリルの若手ラッパーの遺作。

LOS ANGELES

タイラー・ザ・クリエイター『IGOR』
タイラー・ザ・クリエイター『IGOR』/オッド・フューチャーのリーダー的存在。サンプリングネタには山下達郎も。
ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』
ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』/現代のLAを代表するラッパー。「ジャズなどほかのジャンルとの交流を象徴する作品」(大和田)。
ディナー・パーティー『Dinner Party』
ディナー・パーティー『Dinner Party』/ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンら、ジャンルを横断してスターたちが集まった新グループ。「リミックス版も必聴」(渡辺)

CHICAGO

チャンス・ザ・ラッパー『Coloring Book』
チャンス・ザ・ラッパー『Coloring Book』/2010年代のシカゴを代表するラッパー。当初、無料配信でリリースされた作品。
ジャミラ・ウッズ『LEGACY! LEGACY!』
ジャミラ・ウッズ『LEGACY! LEGACY!』/2010年代のシカゴを代表するラッパー。当初、無料配信でリリースされた作品。「歴代の偉大なアフリカン・アメリカンに捧げられた作品」(渡辺)。
カニエ・ウェスト『DONDA』
カニエ・ウェスト『DONDA』/影響力がありながら賛否もつきまとうラッパーの最新作。「ユニークな創造性は随一」(渡辺)

NASHVILLE

テイラー・スウィフト『1989』
テイラー・スウィフト『1989』/ナッシュヴィル録音としては最後の作品となった2014年のアルバム。

ATLANTA

ガンナ『DS4EVER』
ガンナ『DS4EVER』/トラップミュージックを進化させる新鋭ラッパーの最新作。

profile

大和田俊之(アメリカ音楽研究者)

おおわだ・としゆき/1970年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部教授。著書に『アメリカ音楽史』など。Eテレ『星野源のおんがくこうろん』にも出演。

twitter:@adawho

profile

渡辺志保(音楽ライター、ラジオMC)

わたなべ・しほ/1984年広島県生まれ。主にヒップホップについての執筆や歌詞対訳に関わる。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』など。

twitter:@shiho_wk

Information

『アメリカ音楽の新しい地図』大和田俊之著

『アメリカ音楽の新しい地図』

2010年代以降に活躍したアメリカのポップスターとその音楽について、アメリカの社会や経済、メディアの変容と照らし合わせながら分析した一冊。大和田俊之著。筑摩書房/¥1,760。

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