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ドキュメンタリー好き・西森路代(ライター)、忘れられないあのシーン。『東京クルド』

  • 2022.3.10
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『東京クルド』イメージイラスト

日本で暮らすクルド人青年が生きづらさを吐露するとき

優れたドキュメンタリーとは、個人の生き方を追いながら、その背後にある社会の今をしっかり映しているものだと思います。この作品が焦点を当てるのは、祖国を逃れてきたクルド人青年2人の暮らしと彼らの友情です。

出入国在留管理局の監視の下、難民認定を受ける望みが薄い状況の中、19歳のラマザンは通訳になるための勉強に励み、18歳のオザンは解体現場で働き人生を諦めかけています。

『東京クルド』
©2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

対照的な2人はある日、近所の川辺で互いの状況を語り合うのですが、できる限り前向きに頑張ってみようよと熱く励ますラマザンの言葉に、塞ぎ込んでいたオザンは救われたように涙ぐみ「チューしたい」とはにかむ。
そこにカメラが入っているという事実はありますが、2人が困難な中で育む確かな友情に胸を打たれました。

でも、やるせない現実を如実に表すのはその後の展開です。この川辺のひとときを経てオザンは新しい挑戦を試みますが、「非正規滞在者」であるということがその道を阻み、最後まで現状を打破することはありません。
オザンが夜の街を車で走るシーンで映像は幕を閉じますが、疾走することしかできない彼の姿から、日本国内の難民問題の根深さを再認識するのでした。

『東京クルド』イメージイラスト

Information

『東京クルド』

日本で暮らすトルコ国籍のクルド人青年2人を5年以上にわたり取材。難民申請を続け、仮放免許可書を持つが、彼らの立場は非正規滞在者。いつ収容されるかわからない不安を感じながらも、2人は将来を思い描く。しかし、現実は住民票もなく、法的には自由に移動することも働くことも許されていない。映像には、難民認定率が1%にも満たない日本の入管対応の現状も収められている。監督:日向史有。全国順次公開中。

profile

西森路代(フリーライター)

にしもり・みちよ/韓国や台湾など、アジアのエンタメを中心に執筆。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)などがある。

twitter:@mijiyooon

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