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これ、自分かも? 「じじばば」の生態に迫る痛快エッセイ。

  • 2022.3.7
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「TPO無視じじ 歩きスマホばば レジで世間話ばば 昼間に下ネタじじ じじばばのふりみて、我がふり直せ!?」

群ようこさんの『じじばばのるつぼ』(新潮文庫)は、人生の先輩たちに学ぶべく、群さんが観察力と記憶力をいかんなく発揮し、その生態に迫る痛快エッセイ集。

レジで世間話をはじめる迷惑なばば、ラブホにしけこむお盛んなじじ、ばばのキテレツなファッション、じじの洒落にならない危険運転、店員に上から目線のじじ、若者に時代錯誤な小言をたれるばば......。

「あぁ、いるいる」「えっ、こんな人いるの」「これ、自分かも」などと共感し、驚き、ドキッとさせられる。

■登場する「じじばば」
ホームドアばば/服装マナー欠如じじ/ばばと乳首/情けないじじ/レジ前のばば/運転するじじばば/下流じじ/ヒステリックばば予備軍/英語じじ/ばばのファッション/痴じじ、痴ばば/愛でるじじ/意地悪着物ばば/俺様じじ/不潔じじ/方向音痴ばば/喫茶店のじじばば/お供じじ/ずるじじ/ラブホじじ/配達じじ/小言ばば/短冊じじ/厚顔ばば

じじばばグループ内の新参者として

群さんは自身について、「私も前期高齢者になり、じじばばグループ内の新参者である」と書いている。「人生五十年の昔だったら、とっくに死んでいる」年齢になり、人生の先輩たちの生態に関心が向いたそうだ。

歳を取るとあちらこちらに不具合が出てくる。周囲の人々に迷惑をかける可能性も大きくなる。「なるべくそうはならないように気をつけなくては」と常々考えていて......。

「家から出てまず見てしまうのは、私よりも先輩のじじばばの方々の姿である。いったい彼らがどのような行動をしているのか、いいところは見習い、そうでないところは反面教師として、これからの人生の指針としたいのだ」

猥談に花を咲かせる「喫茶店のじじばば」

ここでは反面教師の「じじばば」ではなく、個人的に気になった(気に入った)「じじばば」を紹介したい。

ある日の午後、群さんは喫茶店に入った。店の隅に、後期高齢者と思われる「じじばば」のグループがいた。「地味ばば」「ドレッシーばば」「立方体ばば」「白髪頭じじ」「頭髪薄じじ」の5人は、ご近所の知り合いのようだった。

彼らの姿が見える少し離れた席に座ったが、とにかく声が大きく、会話は筒抜け。「頭髪薄じじ」が「あいつ、本当にいやな奴だよな」と文句を言い、「若い女ができたんだぜ。知ってる?」と呆れたように言うと、「白髪頭じじ」が「なにい?」と大声を出した。

なんでも、「あいつ」は飲み屋で知り合った30歳下の女と付き合っているという。「ひょええ」「えっ、そうなの、へえ、ふうん」と、興味津々の「白髪頭じじ」。「おれは家族にすべて吸い取られる人生だった。若い女とデートなんてしたこともない」と訴えはじめた。

すると「頭髪薄じじ」が真顔で群さんのほうを勢いよく振り返り、「あんた、聞いてるな」という「無言の圧力」をかけてきた。

それからも彼らのとめどない話は続いたが、「頭髪薄じじ」が「立方体ばば」に「あんた、胸の形がなかなかいいやんけ」と言って......。

「日中から何とパワフルなじじばばだろうか。私はとてもじゃないけど彼らに太刀打ちできない。三十分ちょっとの久しぶりの喫茶店滞在だったが、私は精気を吸い取られ、ぼーっとしながら家に帰ったのだった」

お洒落して敬語で会話する「ラブホじじばば」

ある日、群さんは会食があり、はじめて降りた駅から地図を見ながら歩き、人通りの少ない路地に入っていった。すると目の前に、じじばばが並んで歩いていた。2人ともお洒落をしていて、敬語で会話をしていた。

つかず離れずの状態を保ちながら、聞き耳を立てていたところ、彼らが醸し出す雰囲気から、「これは絶対、夫婦ではない」と確信した。

「友だちであれば、どこかあっさりしている。ところがこの二人は、他人行儀な感じはあるが、お互いに好きという感情が根底にあるとわかる、話し方、態度で、ねっとりとしている」

彼らのことが気にはなるが、ぴったりと背中に張り付いて歩くわけにもいかない。立ち止まって電柱を見上げたり塀のポスターを眺めたりしつつ、2人の後をついていった。しばらく歩いていると、ラブホテルが見えてきて......。

「こんなラブホじじばばなら、いやな気持ちにはならないと思ったのと同時に、あーびっくりしたとつぶやきながら、私は待ち合わせの飲食店に走ったのだった」

本書のおでん鍋風の表紙を見て、フフッと笑えるものを想像したが、思いのほかだいぶシビアだった。それにしてもよくここまで人を見て記憶しているな、と感心する。「じじばば」とくくってはいるものの、読者の年齢に関係なく、我がふりを直すきっかけになる1冊。

本作は2019年に新潮社より単行本として刊行され、このたび文庫化された。

■群ようこさんプロフィール

1954年東京都生まれ。六回の転職を経て、本の雑誌社勤務時代にエッセイを書き始め、84年『午前零時の玄米パン』を刊行、独立する。『トラちゃん』『鞄に本だけつめこんで』『膝小僧の神様』『無印おまじない物語』『ネコと海鞘(ほや)』『またたび回覧板』『飢え』『ヤマダ一家の辛抱』『ビーの話』『小美代姐さん花乱万丈』『きもの365日』『平林たい子伝 妖精と妖怪のあいだ』『かもめ食堂』『しいちゃん日記』『ぢぞうはみんな知っている』『おんなのるつぼ』『れんげ荘』『パンとスープとネコ日和』『おとこのるつぼ』『ゆるい生活』『じじばばのるつぼ』『うちのご近所さん』『子のない夫婦とネコ』など著書多数。

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