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一人の女性が拓いた、アートとデザインのやわらかな運動 「オルタナティブ! 小池一子展」@アーツ千代田 3331

  • 2022.3.3
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展覧会フライヤー

現在、アーツ千代田 3331で開催中の「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」は、日本で初めての“オルタナティブ・スペース”を創設した小池一子の軌跡を紹介する展覧会だ。

「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 Photo:Keizo KIOKU

小池は、1960年代以降の日本のクリエイティブ領域の黎明期を、コピーライター、編集者、クリエイティブ・ディレクターとして牽引し、80年代よりアートの現場でもその活動を展開してきた。そして、新進作家を支える場として小池が開設した“オルタナティブ・スペース”「佐賀町エキジビット・スペース」(1983-2000)の姿勢は、同時代の社会に向けて実践的かつ純粋な思考への希望を示唆するものだった。


「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 Photo:Keizo KIOKU

本展は、一言では言い表せないほど多様な小池の活動を「中間子」「佐賀町」と名付け、大きく2部構成で紹介している。

前半の「中間子」エリアでは、編集、執筆、翻訳、コピーライト、キュレーションのキャリアを紹介している。「中間子」とは、日本初のノーベル賞受賞の主題に着想し、何かと何かを結びつけて新しい価値を生むという小池の仕事の象徴として選ばれた言葉だ。

「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 筆者撮影

大学卒業後、小池は雑誌編集に始まり、コピーライティングや広告制作に携わる。展示台には、『週刊平凡』の連載「ウィークリー・ファッション」の記事や、立ち上げに参画した日本初のファッション専門誌『森英恵流行通信』など、ファッション分野の資料も。この頃、三宅一生とも出会い、その後二人は様々に協働していくこととなる。

また、アートディレクター・田中一光と仕事を始めるのもこの頃。このほか、石岡瑛子や山口はるみが関わった初期PARCOのポスターなど、同時代の多彩なクリエイターと生み出した作品や広告は、どれもエネルギーに満ちている。


「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 筆者撮影

70年代以降、小池が新たに関わるようになったのが展覧会づくりだ。キュレーションを始めるきっかけとなった「現代衣服の源流展」では、ダイアナ・ヴリーランドと出会い多くの刺激を受け、著書の翻訳まで手掛けた。また、西武美術館では「フリーダ・カーロ展」など、当時の日本の美術界ではアウトサイダー的視点とされていた展覧会を数多く企画している。

このコーナーにある様々な資料や作品を見ていくと、それらが作者やデザイナー個人だけのものではなく、プロセスに小池が関わり、共作とも言える形で作られていったことがよくわかる。時代感覚を共有するチームによるクリエイションだったからこそ、それは多くの若者を魅了し、当時のカルチャーをけん引することになったのだ。

「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 Photo:Keizo KIOKU

続く展示室では、1980年にはじまった「無印良品」の仕事を紹介。コピーライティングを担当したポスターやCMからは、その後の無印の方向性を決定づける強いコンセプトを感じる。

「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 筆者撮影

第2部は、「佐賀町」のエリア。1983年に日本初のオルタナティブ・スペースとして東京・永代橋の近くに誕生した「佐賀町エキジビット・スペース」は、国内外を問わず今活躍する現代美術家の孵化器(ふかき)と言われ、2000年の閉廊までに106の展覧会やパフォーマンスなどの表現活動を実現した。大竹伸朗や杉本博司、内藤礼、森村泰昌など、今の日本を代表するアーティストたちも、まだ駆け出しだった頃に佐賀町で展示を行っている。


「オルタナティブ!小池一子展」展示風景 Photo:Keizo KIOKU

次第に「佐賀町」は海外からも注目されるようになり、アンゼルム・キーファーなど当時すでに巨匠となっていた作家からも展示のリクエストが来るほどだった。このエリアでは、同スペースで展覧会を行った作家による、当時の貴重な作品を見ることができる。


佐藤時啓 × 野村喜和夫《光―呼吸/反復彷徨》1993 年 ©Tokihiro Sato ©Kiwao Nomura 右の作品:駒形克哉≪無題≫1985年 ©Katsuya komagata 部分的に筆者が撮影

あまりに幅広いこれらの仕事は、同一人物が関わったものか疑うほど多岐にわたる。ただそこには、雑誌や展覧会といったメディア、あるいは佐賀町という空間など、芸術家やクリエイターらが思う存分表現できる場をつくり続けてきた一貫性が見て取れる。

そもそもアートやクリエイションは、それを魅力的に発表する場がなければ人に伝わらない。そういった場を次々に開拓し、運営することは容易なことではない。裏方に徹し、これまで前面には出てこなかった小池の活動。それは、アーティストやデザイナーによる表現と同じくらいにラディカルだということを、この展覧会は教えてくれる。

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