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「優柔不断な上司にウンザリ」という女性にサルトルが示した斜め上の回答とは?<半径3メートルの倫理>

  • 2022.3.2

「他人の行動にイラついてしまう」
「ご近所づきあいが疲れる」
「一線を超えるの一線って...?」

仕事や家族、ご近所づきあい......私たちは日々、さまざまなことで悩んでいる。ちょっとした出来事にイライラ、モヤモヤ。スッキリしたくて誰かに相談すると、共感は得られても答えが見つからなかったり、下手をすると共感すら得られず、むしろモヤモヤが増してしまうことも。

そんな身のまわり=半径3メートルの中にあふれる些細なモヤモヤに、ちょっと違った角度から答えてくれるのが、オギリマサホさんの『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)だ。

高校で倫理を教えながらイラストレーターとしても活躍しているオギリマサホさん。本書では、誰もが抱きうる20の疑問・お悩みに、古今東西の哲学者の見識や言葉を引用しながら回答している。

BOOKウォッチでは、4つのお悩みを抜粋してご紹介! ウイットに富んだ回答もさることながら、イラストもシュールで味がある。あなたのモヤモヤも晴れるかも......?

第1回は、「いつもコロコロと言うことが変わる上司に振り回されて困っている」という女性からのお悩み。優柔不断な上司にどう対応すればよいのか、3人の賢者の言葉から考える。

君は自由だ。選びたまえ。つまり創りたまえ

相談者は32歳、中堅出版社に勤める入社5か月目の女性。編集長の言うことが毎回コロコロと変わることにいらだちを覚えているという。編集会議で「30~40代健康志向の女性向けのヨガ本」と「お金のないサラリーマン向けのせんべろ居酒屋ガイド」の2つの企画が出た時、「ヨガで行こう」と決めたにも関わらず、3日後に詳細を詰めた企画書を提出すると「やっぱりヨガじゃないかな~」とのたまう編集長。殺意を抱きつつもせんべろ案に修正して持っていくと、またしても「やっぱりせんべろって古いかな......」。

「こんな上司がいたら、仕事になりません。私の精神も持ちません。こういう人にどう対応したらうまくやれるでしょうか。先生!教えてください!」

(以下、本文より)

それは確かに困った上司ですね。しかしこのような人は結構身近にいそうです。かくいう私も優柔不断です。朝にはどの服を着ていくかで悩み、昼にレストランに入ればどのメニューにするか悩み......このような優柔不断さについては、かの赤瀬川原平も「日本人のほとんどが、じつは優柔不断術の使い手」と評している通り、多くの日本人が有している性質かも知れません。「選択」についての研究で知られるシーナ・アイエンガーは、日本などの集団主義社会では個人よりも集団における義務が重視され、何かの意思決定をする場合にも、集団の和を優先すると指摘しています。そのような社会で育った上司が、重要な決定事項を「決められない」のも無理のないことでしょう。

そもそも「選択肢」があるから上司も悩むのです。選択肢が多ければ多いほど、人間は決定ができなくなるというのが先程のアイエンガーの行った「ジャム実験」によっても明らかにされています。この実験ではスーパーマーケットで24種類のジャムと6種類のジャムの試食販売を行ったところ、実際にジャムを購入した人数は後者の方が前者より6倍以上も多かったという結果となりました。人間は多くの選択肢の中から決定できる自由を求める一方で、もしその決定が誤りであったらという不安に常に苛まれ、できることなら少ない選択肢で確実な道を選びたいと考える矛盾した存在でもあると言えるでしょう。あなたの上司も「確実に売れる企画を誰かに決定して欲しい」のです。

とは言え、自らの意思やあり方は本当は他者に決めてもらうべきものではないはずです。フランスの哲学者サルトルは、「母を一人残して戦場に行くべきか、或いは母のもとに留まるべきか」と悩む教え子に対して一言「君は自由だ。選びたまえ。創りたまえ。」と答えました。人間は本来自由であり、自らが選びとった道により自らをつくり上げるものであるとサルトルは考えます。そこには選ばないという道はなく、「選ばないという状態を選んでいる」のです。このようにサルトルの考え方に基づけば、あなたの上司は、「優柔不断な態度」を選ぶことにより「部下の信頼を失う上司」という自らのあり方を「創って」しまっているのではないでしょうか。

「上司の優柔不断についてはよくわかった、だけど今聞きたいのはその上司への対応なのよ」とあなたは言うかもしれません。......ここまで読んできてお分かりでしょうか。選ばなければならないのは実はあなた自身なのです。上司を唸らせるような企画書を提示する? 或いは諦めて我慢し続ける? それもとスッパリ転職する? ......君は自由だ。選びたまえ。

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次回(3月8日配信予定)は、「一線を超える」の「一線とは?」について考える。

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