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iriさんニューアルバム『neon』インタビュー「暗闇から立ち上がっていくストーリーがベース。誰かの支えになれば」

  • 2022.2.24
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低音でクールな歌声に、ソウルフルなグルーヴ。唯一無二のスタイルで突き進む、シンガーソングライターのiriさん。2月23日、iriさんの5thアルバム『neon』がリリースされました。コロナ禍の間に、絶望と希望のはざまで作り上げたという今回のアルバムについて、そして自身の音楽的ルーツについて、じっくりと話を聞きました。

──ニューアルバム『neon』は、iriさんの心の動きを丁寧に描いていると感じました。心が小さく縮こまり、悩みを抱える日々だったけれど、やがて、小さな希望の光が差し込み、それがネオンのようにチカッチカッと輝いている、そんな情景を思い浮かべて。新たなる「はじまり」への物語というか。

今回のアルバムを作り始めたのは、2020年の夏前ぐらいだったんです。その後発表した3曲、「渦」「はじまりの日」「言えない」を軸に組み立てていって。前半の4曲(「はずでした」「渦」「泡」「摩天楼」)は、やっぱりコロナ禍の心情を歌っているんです。特に、2曲目「渦」は、コロナでツアーが飛んでしまった、仕事が全然なくなってしまった、まさにそのときに書いていた曲なんです。

──「渦」は、「伏せろ 伏せろ 伏せろ 長い空洞」とか「よたった一人の」という言葉が非常に印象的です。1曲目「はずでした」もそう。「が音はない もう戻らない もう戻れない もう守れない」と。

そうですね。そのときの心情をリアルに、完全に自分の闇の部分を書いていますから。

──コロナで気持ちが。

沈みました。日常生活であらゆることに対して敏感になってしまって。もともと敏感に感じ取る方ではあるので、いろんなニュースが耳に入るたびに、気持ちの浮き沈みが激しくなり、考えも深くなりすぎてしまったんです。みなさんそうだと思いますが、ステイホームで自分と向き合う時間が多くなったからだと思います。

──たとえばどんなことを考えましたか?

自分の歌を、もっともっと幅広くいろんな人に聴いてもらうには、どう表現すればいいのか、どう変わっていけばいいのか、どうすれば自分の想いが伝わるんだろうか、そういうことを毎日考えていたように思います。タイミング的には(2021年10月で)デビューから5年経ったという、一つの節目もあったので、この5年間やってきたことやその結果を振り返りつつ、良かった面とともに、ネガティヴな面も非常にリアルに感じてしまったというか。

──今回のアルバムでも、その辺りの揺れが表現されています。3曲目「泡」で「雲を頼りに 這い上がれソファー」と、微妙に気持ちが上向いたと思えば、4曲目「摩天楼」で「慌てない 触ってない いや終わってない」と。

思いっきり揺れ動いて(笑)。でも後半、5曲目「目覚め」からちょっとまた違う、新しいスタートという感覚で、切り替わっていくんです。

──「さあ何から始めよう」という言葉からスタートして、「君を照らしてる 僕もここにいる」。雲間が晴れました(笑)。10曲目「言えない」の「移り変わる 世界の中で 僕らは何を 残せるかな」という言葉に希望を感じます。

今回は、アルバムを通して、そういった心の変遷というか、暗闇から立ち上がっていくストーリーをベースにしようと思っていたので、ちょうどいい感じにまとめることができたかな、とは思っています。

──会心の一作ですね。

ただ、アルバムを作って、「うわ、めっちゃいいのできたわ!」と思っても、その数時間後に再び聴いたら、「あれ?」って(笑)。なんかヘンな感覚になっちゃうんです。「真面目すぎたかなぁ」とか「ストイックに詰めすぎたかなぁ」とか「もっと抜いてもよかったかなぁ」とか「でも時間を費やし考え抜いた結果なんだし」とか、ぐるぐるぐるぐる(笑)。年々そういう傾向が強くなってる気がするんです。

──それは、プロとして5年経ち、ハードルが上がったということでしょうか?

かもしれません。力の入れ具合と抜き具合のバランスがわからなくなってきちゃっているというか。もっとラクに、楽しめばいいのかなとも思うんですが。

──「生みの苦しみ」ですよね。ただ、迷いのないクリエイターなんていないと思いますし、聴き手にしてみれば、迷いが一切ない破綻のない作品は、逆に言えば面白みを感じない。もがきながら生み出されたものにやっぱり「魂」は宿るし、「色気」を感じると思うんです。

確かに。それがいまの自分なんだろうなって。いま自分はこういうモードなんだと認めてる感じです。それも後々聴き返したときに、「ああ、私はこれで間違いなかった」と思えるはずなので。

──音楽はいつ頃から聴くようになりましたか?

意識的に聴くようになったのは小学生ぐらい。J-POPでした。ドラマの主題歌だとか、テレビから流れてくる曲を聴いたり。その後、MTVやスペースシャワーTVといった音楽チャンネルを観るようになって、洋楽に触れていきました。中でも、ソウルフルな曲を歌う人が好きで。アリシア・キーズとかジェニファー・ハドソンとか。ゴスペルミュージックの歌い方が好きだったんです。日本人だったらAIさん。パワフルな歌声を聴くと、すごく勇気づけられる感じがあって。強くなれる感じがするんです。それで、自分もこんなふうにカッコよく歌えるアーティストになりたいなって。

──子どもの頃から歌手になりたいと?

歌手というより、表現する人になりたいとは思っていて。具体的に音楽の道を目指すようになったのは、高校生の頃でした。実力をつけたいと思い、ボーカルスクールに通うようになって。

──曲作りもその頃から?

大学生になってからですね。18の頃から。音楽好きの母が学生の頃に買ったギターが、ずっと家に置いてあって。そのギターをもらって、なんとなく曲を作るようになったんです。それから、ジャズバーでバイトを始めて、弾き語りをするようになって。

──ちなみに、どんな子どもでした? クラスの中心にいるような存在でしたか?

全然。中心にいる人に憧れてたんです。もともと人前に立つのが苦手だし、人としゃべること自体が苦手。いまはこうやってしゃべってますが(笑)。人前で話そうとすると、正解を言わなくちゃいけない、間違ったことを言えない、そういう心配がすごくあって。ただ、それをメロディに乗せたり、ビートに乗せたり、歌にしちゃえば誰も文句を言ってこないし、言いたいことが言えちゃう。歌って、いろんな人がいろんな捉え方をしてくれるから、すごく自由なんです、自分の中では。気持ちも発散できますし。それをリスナーの方が聴いてくれたときに、音楽として楽しんでもらいつつ、自分の歌声やリリックが、誰かの支えになればと。たとえば、私がAIさんの曲を聴いて「強くなれる」と思ったように、誰かを勇気づけられればいいなって。

──AIさんの影響は大きいですか?

やっぱり声ですよね。男性ボーカルもすごく好きなんですが、昔から惹かれるのは、女性だけど、力強くて、太い歌声なんです。

──iriさんの声もめちゃめちゃカッコいいです。AIさんもそうですが、ことさら性別を感じない、中性的な声が魅力だなって。

ありがとうございます。

──ところで、神奈川県逗子市出身でいらっしゃいますが、iriというアーティストのアイデンティティに逗子は影響していますか?

そこはめちゃくちゃあります。やっぱり、時間の流れ方が東京とは全然違うんです。しかも私は、海のすぐそばで育ったので、まったりした空気の中で音楽を楽しんできて。生楽器を演奏しながら遊ぶ感じで、DJとかクラブというより、ギターを弾きながらポロポロ歌う。もともと、逗子・鎌倉にはそういうミュージシャンが多いんです。デスクトップミュージックより生楽器という人たちが。

──育った場所でグルーヴは違いますか?

だと思います。ご一緒するのも、逗子・鎌倉出身のミュージシャンの方が多くて。やっぱり、音楽のルーツが近いんです。「夏といえばこの曲だよね」という定番が、東京の人とはちょっと違うんです。ヒップホップもそう。東京の人が聴くヒップホップと、海辺の人が聴くヒップホップは全然違う。あと、同じ神奈川県内といっても横浜か、川崎か、湘南界隈かでもまた違う。そういうのは面白いなと思いますね。

──さて。これからのiriさんはどうなっていくでしょう? ヴィジョンはありますか?

今年28歳になるんですが、いま抱えている音楽を巡る悩みを、つまりさっきも言った、ぐるぐる悩んでしまうもどかしい部分を乗り越えていけたらなって。私はこうと考えたら真っすぐに突進してしまう性格なので、もっと別の角度から自分を俯瞰したり、違う見方をしたりできるようになれればと。あと、やっぱり、ギターを弾き語りしながら曲作りをするのがもともとの自分のスタイルですし、オリジナルが発揮できるのはそこなのかなって。これからはもっともっとギターと向き合いたい。ギターでいろんな曲を作りたいなって。

──逗子のテンポで?

しっかり、でも、ゆったりと追求していきたいですね。

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