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「真犯人フラグ」「愛しい嘘」…今期も相次ぐ考察ドラマ、流行させた“犯人”は誰?

  • 2022.2.19
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西島秀俊さん(2019年5月、時事通信フォト)、波瑠さん(2017年2月、同)
西島秀俊さん(2019年5月、時事通信フォト)、波瑠さん(2017年2月、同)

最近のドラマシーンにおいて、トレンドの一つになっているのが“考察”です。日曜夜の「真犯人フラグ」(日本テレビ系)や金曜夜の「愛しい嘘~優しい闇~」(テレビ朝日系)のように、謎めいた事件の黒幕などを視聴者が考察することで盛り上がる、という現象が起きています。

「真犯人フラグ」では、公式サイトが「怪しいと思う人」の投票を募って、その順位を毎週発表。「愛しい嘘」についても、ウェブサイトで同趣向のアンケートが行われています。SNSでは、視聴者がさまざまな推理をしていて、この記事を読んでいる中にも夢中になっている人がいることでしょう。

SNSの発達が与えた影響

そんな「考察ドラマ」の魅力とは何なのか。「真犯人フラグ」に出演中の芳根京子さんが興味深い指摘をしています。

それは「演者、視聴者を含めたみんなで共通の“敵”と戦っている感じ」がする、というもの。「一緒に追い詰められて、一緒に頭を抱えて、みんなでいろいろなことを共有できている感じ」がするというのです。

彼女はそういうものを「映画館で作品を見ているとき」の「観客の一体感」に例え、それが「ドラマでも感じられるというのが、私は楽しい」と語っています。

確かに、映画館の雰囲気は独特です。家でドラマを見ているときは、注意力が散漫になったり、他のチャンネルが気になったりもしますが、映画館では一つの作品にみんなで集中して楽しむ状況が成立します。

考察ドラマの場合、リアル空間ではありませんが、ネット空間において「一体感」を味わえるわけです。

そういう意味で、考察ドラマの流行はSNSの発達によるところが大きいといえます。そのきっかけを作った「あなたの番です」(日本テレビ系)が2019年、「テセウスの船」(TBS系)や「危険なビーナス」(同)が2020年、「最愛」(同)が2021年であることを思うと、その流行はここ数年のことです。

それとともに、近年の謎解きブームとのシンクロぶりも見逃せません。2016年に始まった「今夜はナゾトレ」(フジテレビ系)のような番組がヒットして、リアル脱出ゲームのようなイベントも盛んになりました。

人間にはもともと、クイズを見ると解きたくなる習性のようなものがあります。それは、正解することが大きな快感をもたらすからです。謎解きブームは、そこをさらに掘り起こしたわけですが、考察ドラマもまた、その「習性」に着目しつつ「ネット」や「SNS」というツールを活用することで、成功したといえます。

作り手側からすれば、リアルタイム視聴での、ながら見やザッピングを減らすことができます。また、録画や配信によって何度も繰り返し見る人が増えます。さらに、視聴者の興味を引っ張り続けることで「あな番」や「真犯人フラグ」のような、半年という長尺の作品も作りやすくなるわけです。

ちなみに、この2作品は原作のないオリジナルの物語。そこにも、利点があります。原作モノの場合、犯人が誰かといったことがあらかじめ「ネタバレ」していたり、それを変えると、原作のファンから文句が出たりするからです。オリジナル系の考察ドラマは、原作モノに依存しがちな近年のドラマシーンに新風を吹き込んだともいえます。

考察ドラマの難しさ

ただ、考察ドラマには弱点もあります。謎解き的要素で視聴者を引っ張っていこうとするあまり、それが主になってしまい、本当に描きたい、大きなテーマが見えにくくなったりすることです。

例えば「テセウスの船」の場合、謎解き的要素で引っ張りつつ、冤罪(えんざい)を巡る親子愛などで視聴者の心を揺さぶりました。

しかし、ネット上ではこんな不満の声も。それは「面白くなるかな、面白くなるかな、で、見続けてきたけれど、結局、最後まで面白くならなかった」というものです。これを見つけたとき、興味をつなげることと、満足をもたらすことの両立は難しいのだと痛感しました。

が、すぐにこんなことも思ったのです。考察ドラマにおいては、興味をつなげることに徹した方がよいのではと。視聴者は、3カ月もしくは半年にわたって謎解きを楽しめるのだから、最後に満足できるかどうかは、あくまでオマケのようなものかもしれません。

なぜ、そう思うかというと、その方がなんでもあり的な持ち味を発揮できるからです。考察ドラマは、謎解きというエンタメ性が前提になっているため、リアリティーよりもフィクションの方に振り切りやすいという強みがあります。不倫や殺人もタブーにならず、どんどん盛り込めるわけです。

そんな方向性は、1990年代に一世を風靡(ふうび)した「ジェットコースタードラマ」にも通じます。なんでもあり的な荒唐無稽の展開には批判もありましたが、「もう誰も愛さない」(フジテレビ系)などのヒット作が生まれました。

それから約30年がたち、ドラマシーンでは「相棒」「科捜研の女」(ともにテレビ朝日系)のような、1話完結形式の推理モノが長期にわたって安定した人気を誇っています。そんな状況だからこそ、考察ドラマが新鮮に映るという見方もできそうです。

秋元康の存在

というのも、考察ドラマの代表的な仕掛け人に秋元康さんがいます。人一倍、流行とは何かを突き詰め、放送作家、作詞家、プロデューサー、ドラマの原案者などとして、40年以上、ヒット作を生み続けている人です。

王道も隙間狙いも得意としていますが、考察ドラマについては後者でしょう。1話完結形式の推理モノが長期安定を誇る時代だからこそ、その逆を突いてみたのだと思われます。

また、筆者が1985年にインタビューした際、当時27歳の彼は「マニアックな人が喜びそうなモノを作っていきたい」と語っていました。「一部のマニアックな人」に「突っ込まれそうなヤツ」をやりたいのだと。彼が企画・原案を手掛ける「あな番」や「真犯人フラグ」はまさしく、ドラマファンにそういう楽しみ方を提供しています。

そういう意味で、考察ドラマを流行させた“主犯”は、秋元さんなのかもしれません。ただ、それを面白がって考察する人たちがいなければ、流行にはつながりません。ドラマに対して、貪欲に楽しさを求める視聴者と、ドラマの作り手たちとの幸せな共犯関係、それこそがこの流行を成立させているわけです。

なお、視聴者心理とはとにかく貪欲なもの。謎解き的快感を味わうとともに、最後にズシリと心に残る感動があれば、いうことはありません。そんな考察ドラマの大傑作も見てみたいものです。

作家・芸能評論家 宝泉薫

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