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男性用指輪に見つけた、「身に着けるアート」の喜び メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション@21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3

  • 2022.2.19
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現在「21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3」で行われている、「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」は、タイトル通り、男性用の指輪にフォーカスしたエキシビションで注目を集めている。展示されているのは、メンズリングのコレクターとして名をはせたイヴ・ガストゥのコレクションの中から、選りすぐりの約400点。インテリアにもこだわった会場で、いわゆる着飾るための美しい宝飾品とは一線を画す、メンズリングの世界を垣間見ることができる。

イヴ・ガストゥは、1980年代、パリのギャラリーでいち早くスタジオ・アルキミアや倉俣史朗の展示を行うなど、先駆的なアンティークディーラーとして活躍していたが、そのコレクターとしての一面は、長らく発表されてこなかった。ガストゥは幼少期に通った教会で目にした、司教がつける大きな指輪に魅了されたという。そして、大人になってから約30年以上にわたり旅を続けながら、メンズリング(男性用指輪)のコレクションを情熱的に作り上げた。その功績は、2018年、ハイジュエリーメゾン ヴァン クリーフ&アーペルが支援する「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」で初めて展示されたことで知られるようになる。


「歴史」のコーナー。カメオや肖像画が描かれたもの、紋章がモチーフのものなどが並ぶ。

パリに続き東京でレコールにより開催される本展では、コレクションの中で象徴的な作品の数々が、5つのテーマのもと、展示されている。17世紀ヴェネツィア共和国の元首がはめていたリングから1970年代のアメリカのバイカーリング、古代エジプトに着想を受けたリングから19世紀の”メメント・モリ”スカルリング、18世紀のエナメルリングから現代アーティストが手がけたリングまで、その背景も由縁も形も様々なものが並ぶ。


「ヴァニタス〔空虚〕」のコーナー。

まず驚くのは、「大きい!」ということ。こんなに指が太い人はいるの?と思うほどにリングの部分も、またそこに施された装飾や石も大きい。おびただしい数のスカルが並ぶ、ヴァニタス〔空虚〕のコーナーも見ものだ。ヴァニタスとは、「メメント・モリ(死を忘れることなかれ)」という言葉に由来する、常に死を感じながら今を生きる感覚のこと。それを象徴するモチーフとして、骸骨が多くの美術や芸術に登場した。同時に、ガストゥは、70年代のバイカーカルチャーや、パンクやロックのミュージシャンが身に着けたスカルモチーフの装飾品も気に入っていたそう。やりすぎとも思える大きさやデザインは、ファインジュエリーというより、むしろファッションやその時代時代のカルチャー表現として、リングを楽しもうとする気分が伝わってくる。


「キリスト教神秘主義」のコーナー。実際に宗教者がはめていた指輪の数々は豪華絢爛。

ファッション性という意味での「大きさ」だけではない。司教などカソリックの宗教者が身に着ける指輪もまたかなり大きい。これは、正装として手袋をした上からはめるという理由もあるだけでなく、指輪が長らく男性の権力や立場を示すものとして使われてきたことを思わせる。

「ヴェネツィア元首の指輪」19世紀。トップの部分が箱になっている。用途ははっきりとわからないものの、トップが平らでモチーフが刻まれていることから、手紙に封をするための封蝋が入っていたのでは?という説も。


「聖職者の指輪」1920 – 30年頃 アメジストはカソリックと結びつきの深い石だという。

最後の赤い部屋は、旅のコレクションを集めたコーナー。ガストゥは、ハイジュエリーだけでなく、アンティークやおもちゃのリングまで、自分の審美眼のみで選んでいた。ここでは、アメリカのスーパーボウルのモチーフや、アフリカのとある民族の首長の指輪、オルゴールが仕掛けてあるものまで、見ているだけで楽しい。


「オルゴールの指輪」19世紀頃。トップの部分にオルゴールが仕込んである。

旅で集めたものや一風変わったものを集めた「幅広いコレクション」のコーナー。

初めてメンズリングがこれだけ集合する姿を目にして、ジュエリーへの先入観が更新される気がした。美しい宝飾品、あるいは高価な貴金属として価値があるもの、そして女性を輝かせるもの、そんなイメージを持っている人は多いはず。ただ、会場には若い男性も多かった。きっと彼らは、自己表現のツールやファッションの一部として、ジュエリーを楽しむことをすでに知っているのだろう。なにより、リングは、ネックレスやピアスと違って、ジュエリーの中でも一番自分で眺められることが大きい。トークイベントでガストゥ氏の息子さんが語っていた通り、「身に着けるアート」であるリングの魅力が、このコレクションには満ちていた。その喜びは、ジェンダーにかかわらず味わえるものだろう。

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