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祖父ゆかりの場所を、新しい活動拠点に。北海道で40年かけて育んだ環境を受け継ぐ

  • 2022.2.12
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 リビング

祖父が愛し見出した白樺の森で四季と共に生きる

アートディレクターで写真家としても活躍する前田景さんの祖父・前田真三は、日本の風景写真の第一人者。ここ美瑛の田園風景の美しさを一躍有名にした人として知られる。

アートディレクター、写真家・前田真三の写真ギャラリー〈拓真館〉
景さんがリニューアルを考えている前田真三の写真ギャラリー〈拓真館〉。90年代には道外からも多くの訪問者を集めた一大観光地だった。鉄筋コンクリート造の2階建て。今も4月中旬から1月中旬まで開館している。

1970年代に撮影旅行で訪れて以来、美瑛町に足繁く通い、87年には廃校になった小学校を改造したフォトギャラリー〈拓真館〉を開設。敷地は1万㎡余りで、2500本の白樺を植樹した〈白樺の回廊〉など、周辺の環境整備も行った。

祖父ゆかりのその場所に東京から移住したのは1年ほど前のこと。妻で料理家のたかはしよしこさんと共にここを「新たな活動拠点」にしようと決めた。

レストランになる予定の元教員住宅
レストランになる予定の元教員住宅は〈白樺の回廊〉を見渡せる場所にある。「建物の中だけではなく、屋外でも食事を楽しめるような計画を考えています」
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦
〈白樺の回廊〉を歩く2人。小学校の校庭だった場所に白樺を植え、回遊できる楕円の回廊を祖父たちがつくった。人の意志で手入れされてこそ保たれる風景もある。

景さんは言う。「ちょうど娘の小学校入学のタイミングで、子供が育つ環境として美瑛がいいと思ったのが理由の一つですが、遡れば、ここで結婚式を挙げた12年前から、この場所を何とかしなければ、と思っていたんです。

建物は古くなってきているし、敷地の管理も誰かが主体的にやらないと続かない。家は、祖父のアトリエを改修。拓真館はまだ手つかずですが、今は祖父の代から残っている平屋の元教員住宅を、よしこの2つ目のレストランへと改装中です」

アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 リビング
前田景さんの祖父、前田真三が使っていた木造2階建てのアトリエを全面改修した住まい。リビングに敷き詰めたラグは、妻のたかはしよしこさんのコレクション。砂時計みたいな形のスツールはアルマ・アレン。

よしこさんは、東京の西小山でフードアトリエ〈S/S/A/W〉を営んできた。明るくフレンドリーな人柄もあって、彼女を慕う「おいしいもの好き」の仲間は多い。

「東京での生活は楽しかったから、移住したら寂しくなると思ってたけど、限られた時間の中で会って食べて忙しく別れるしかなかった友人とも、ここではゆっくり、時間を忘れて話ができる。移住してからの方が、仲間との気持ちの距離は近くなった気がします」

アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 ワーキングコーナー
1階のキッチン横に棚とデスクを造り付けたワーキングコーナー。景さんのアートディレクターとしての仕事はここで。リビングとの仕切りのないオープンな空間。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 ダイニング
ダイニングの照明はアンティークパーツをリメイクした〈リバーサイドファーム〉の作。東京の家でも使っていた。絵を描くのが好きな娘の季乃さんは2021年8歳になる。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 窓辺のオブジェ
リビングの窓辺には、白樺の樹皮や石などの自然物がオブジェのように飾られている。地元の猟師から鹿肉をもらうこともあり、ジビエ料理もぐっと身近になった。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 2階寝室
リビングの上の吹き抜けに面した2階の寝室。照明はよしこさんが好きなイタリアデザインの名作《フォークランド》。デザインはブルーノ・ムナーリ。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 階段室
三角屋根の傾斜をシンメトリーにとった2階の階段室。窓の外、落葉樹の向こうに白樺の森が広がる。細いラッパのような照明も〈リバーサイドファーム〉のもの。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 外観
家の築年数は約40年。外観はほとんど手を加えていない。美瑛は道内でも寒さの厳しい土地で、厳寒期には冬枯れの木々が雪の結晶に覆われてできる「霧氷」も見られる。

今は道央の食材に触れ、四季折々、食を通じてこの場所を知っていくのが楽しい、とよしこさん。

景さんは移住後の1年を通し、住んでいても見ることができるのは奇跡としか思えない美瑛の「一瞬の風景の美しさ」に、改めて胸を打たれたという。

ここで始まる新しい〈S/S/A/W〉のディレクションにも、その思いを込める。

アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 キッチン
間仕切りをオープンラックに替え、使い込んだ器や調理道具に囲まれるキッチン。内装設計は、セレクトショップ〈Less〉の浜辺令さん。よしこさんは、人気の万能調味料「エジプト塩」の作り手でもある。
アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 リビング
ダイニングからリビングを見る。天井のドライリーフは「ヴィヒタ」と呼ばれる白樺の枝の束。フィンランドサウナに欠かせないものだが香りが良く「家の周りは白樺だらけだからいくらでも作れる」とよしこさん。

profile

アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 家族

前田景/たかはしよしこ(アートディレクター、写真家/料理家)

まえだ・けい/東京都生まれ。広告代理店を経て2015年より祖父が設立した丹渓に入社。書籍やウェブなどのアートディレクションを手がけながら、17年から写真家としても活躍。
たかはし・よしこ/徳島県生まれ。季節を追いかけながら料理を制作。「エジプト塩」をはじめさまざまな調味料の開発・製造も手がける。2021年夏〈S/S/A/W〉を美瑛にオープン予定。

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