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頼りになるマンガ Vol.9:お年寄りと仲良くなれるマンガ。

  • 2022.2.9
R先生のおやつ マンガ 単行本

お年寄りと仲良くなれるマンガ。

『喫茶アネモネ』柘植文/著

推薦者:ブルボン小林

変なふるまいを少しだけ「侮ってあげる」優しさ。

お年寄りにも読める漫画ならば、共通の話題になる。その意味でも、今や「高齢者のメディア」である新聞連載で人気の今作はうってつけだ。

漫画内もどこか年寄り成分高め。アネモネのマスターのヨボヨボを愛でる漫画といっていい。本人、年寄り扱いを嫌がってはいるものの終始、挙動不審で、小声で、震えがち。

フィクションで描かれる「老人」というと「敬ったり」「介護したり」あるいは「老害」といった要素ばかりになるが、生きているんだから、そればかりではない「日常」もあるはずだ。彼らの変なふるまいをちゃんとおちょくって、少しだけ「侮ってあげる」優しさがここにはある。

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喫茶アネモネ マンガ 単行本

『喫茶アネモネ』柘植文/著

〈きっさアネモネ/つげ・あや〉
年老いたマスター(年齢不詳)と主人公のバイト女子が切り盛りする商店街の喫茶店で、日々繰り広げられる日常を描く。常連さんたちとのやりとりやマスターこだわりの新メニューがいちいち懐かしい。新聞連載、初の単行本化。既刊1巻/東京新聞。

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ブルボン小林

ブルボン小林

ぶるぼん・こばやし/1972年生まれ。コラムニスト、小学館漫画賞選考委員。『東京新聞』で毎月第3月曜日にマンガ評を連載、TBSラジオ『たまむすび』 に月1出演。著書に『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』など。

『R先生のおやつ』雲田はるこ/著 福田里香/レシピ

推薦者:SYO

白髪紳士が作る美しいおやつにうっとり。

『昭和元禄落語心中』などで知られる雲田先生。彼女の魅力は、老若男女問わず人間を艶っぽく描けるところかと思います。そんな雲田先生が、エレガントな初老のお菓子研究家・R先生と血気盛んで大食漢なその助手・Kくんのコンビを描いたら、魅力的になるのは必定。

しかもテーマはおやつ。タルトにパンケーキ、スモア(マシュマロとチョコレートをクラッカーで挟んだもの)に杏仁豆腐におしるこに……。世界各地の絶品おやつが美しいタッチで描かれます。特にR先生の立ち居振る舞いやワードのセンスがお洒落で、「こんなふうに年を重ねたい!」と思わされます。マンガに加え、R先生が書いた(体の)レシピエッセイまで付いているというサービス設計。推せます。

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R先生のおやつ マンガ 単行本

『R先生のおやつ』雲田はるこ/著 福田里香/レシピ

〈アールせんせいのおやつ/くもた・はるこ〉
「チェリーとメロンのフルーツサンド」や「ばらのカップケーキリース」など美しく、おいしそうなお菓子の数々。見ているだけで心が満たされる。初老のR先生と助手のKくんの掛け合いも楽しい。全1巻/文藝春秋。

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SYO_頼りになるマンガ

SYO

しょう/1987年福井県生まれ。映画・マンガライター。アニメ、ドラマなどエンターテインメント全般のインタビューやライティングを手がける。月平均20冊のマンガを読むことが日課。特に好きなジャンルはもの作りマンガ。

『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理/著

推薦者:トミヤマユキコ

好きなものさえあれば、大丈夫!

好きなものが共通していれば、年の差なんて関係ない。そのことをストレートに描いたマンガです。女子高生のうららと書道教室を営む雪の年齢差は58歳で、2人の好きなものはBL。

お年寄りのことを理解しようと思った時に、歴史を振り返らねばならないかというと必ずしもそんなことはありません。今その人が好きなもの、興味があることで盛り上がって、その話でキャッキャしたっていいわけで。この作品の場合はBLが共通項ですが、どんなものでもいいんですよね。

ちょっとした孤独を抱えた2人が書店で出会い、好きなものを介して友情を育んでいく。年齢も関係なければ上下もない、お互いをリスペクトしつつ、対等な関係を築いているのが美しいなと思います。

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メタモルフォーゼの縁側 マンガ 単行本

『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理/著

〈メタモルフォーゼのえんがわ/つるたに・かおり〉
女子高生と75歳の老婦人、年の差58歳の友達同士。共通の趣味は、BLマンガを読むこと。ちょっと人に言えない趣味だからこそお互いが認め合い、かけがえのない存在になっていく。「このマンガがすごい!」ほか受賞多数。全5巻/KADOKAWA。

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トミヤマユキ_頼りになるマンガ

トミヤマユキコ

1979年生まれ。少女マンガ研究者、ライター。東北芸術工科大学講師。専門分野は日本近現代文学と少女マンガ。著書に『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)などがある。

『天才 柳沢教授の生活』山下和美/著

推薦者:川村豪

魅力的なお年寄りがたくさん登場します!

柳沢教授をはじめ、年をとったらこんなふうになりたい!と思わせてくれる魅力的なお年寄りがたくさん登場します。どんな相手に対しても「わからない」ことは「わからない」と言い、知ろうとするために真っすぐに問いを繰り返す柳沢教授の生き方は、何度読み返しても新しい発見があり、特に14巻に収録の「本のささやき」が好きです。

本にとって幸せなこと、本は生きているというくだりは本屋という仕事をするうえで大事な拠りどころになっています。学ぶことが大好きな柳沢教授の姿を見ていると、日常の至るところに学ぶためのきっかけはあるのだと感じられる名作マンガ。『不思議な少年』や『ランド』の連載を挟み未完結の作品なので、続刊に期待しています。

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天才柳沢教授の生活 マンガ 単行本

『天才 柳沢教授の生活』山下和美/著

〈てんさい やなぎさわきょうじゅのせいかつ/やました・かずみ〉
毎日5時半起床9時就寝、道路交通法を遵守し子供の疑問にも容赦なく理屈で応える、大学教授をめぐる人間模様を描いた長期連載。教授のモデルは作者の実父。第27回講談社漫画賞受賞。フジテレビでドラマ化も。既刊34巻/モーニングKC(講談社)。

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川村 豪

川村 豪

かわむら・つよし/1973年東京都生まれ。秋葉原のアニメ・マンガの聖地〈書泉ブックタワー〉(住所:東京都千代田区神田佐久間町1-11-1/TEL:03-5296-0051)コミック担当バイヤー。97年入社、ラノベ担当を経て現職。

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