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決済アプリで給与支払い検討中…便利そうだけど、危険性はないの?

  • 2022.2.7
決済アプリで給与、大丈夫?
決済アプリで給与、大丈夫?

決済アプリでの給与支払いを可能とする方針を政府が検討しています。一見便利そうにも感じられますが、問題はないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

アナログとうまく使い分けを

Q.決済アプリでの給与支払いについて、現在検討されている仕組みについて概要を教えてください。

長尾さん「デジタル時代の新たな給与支払い方法として、厚生労働省の審議会において、資金移動業者の口座への給与支払いが検討されています。資金移動業者とは、銀行以外で為替取引(現金を用いないお金の受け渡し)を営む業者のことで、『PayPay』や『d払い』、『楽天ペイ』などの電子決済アプリも該当します。つまり、労働者が希望すれば、給与が銀行口座ではなく、〇〇ペイの口座に直接入金されるということです。

労働基準法では給与の支払いは『通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない』と定められていますが、例外として、銀行口座や証券総合口座への振り込みが認められており、電子決済口座もその対象に追加することが検討されているのです。

日本は諸外国に比べてデジタル化が遅れていると言われてきましたが、2021年9月にデジタル庁を発足したように、政府はデジタル化を本気で進めようとしています。また、キャッシュレス決済比率も2025年の大阪万博までに40%まで引き上げる目標を掲げており、給与のデジタル払いの検討も、その施策の一つといえます」

Q.決済アプリでの給与支払いのメリットは。

長尾さん「最近は、日々の買い物に決済アプリを利用している人も多く、公共料金なども決済アプリで支払えるようになってきましたが、多くの決済アプリはチャージ方式で、利用者は銀行口座から一定額をチャージして利用しています。給与が直接決済アプリの口座に入金されれば、利用者にとってはチャージする手間が省けるというメリットがあります。

また、日本で働く外国人労働者は、言語の問題や居住期間の要件などにより、すぐに銀行口座を開設することが難しい場合があります。決済アプリなどを用いたデジタル払いが可能になれば、銀行口座がなくても給与振り込みができるので、外国人労働者の働きやすさや暮らしやすさの向上にも、つながると考えられています。そもそもデジタル払いが検討されるようになったきっかけも、外国人労働者が銀行口座を開設できないケースが多発したことからでした。

さらに決済アプリの送金コストは一般的に銀行振り込みよりも安いので、例えば給与を月払いではなく、週払いや日払いにするなど、より柔軟な支払いに対応できる可能性もあります」

Q.逆にデメリットは。

長尾さん「決済アプリの普及は進んでいますが、家賃や水道光熱費、クレジットカードの支払いなど、多くの決済が銀行の口座振替になっている人は多いと思います。従って、決済アプリへの給与支払いが、一概に便利とは言えないかもしれませんし、給与の一部だけを決済アプリ口座に支払うとなると、企業側の事務負担やコストが増すことになりそうです。

また、決済アプリの使用においては、不正利用などに対するセキュリティー対策や、業者が破綻した場合の資金保護も課題となります。2020年にNTTドコモのドコモ口座を利用した不正引き出し事件があったことは、記憶に新しいと思います。利用者保護の制度については慎重に議論されているようです」

Q.万が一、決済アプリの業者が経営破綻した場合、給与はどうなるのでしょうか。

長尾さん「銀行であれば預金保険制度があるので、元本1000万円とその利息までは保護されますが、決済アプリ等の資金移動業者は預金保険制度の対象外です。ただし、資金移動業者は、利用者から預かった資金と同額以上の資金を供託等によって保全する義務があるので、資金の保護が全くないわけではありません。

しかしながら、単に資金保護の仕組みがあればよいということではなく、万が一業者が破綻してしまった場合に、資金が速やかに利用者に返還されることも重要なポイントです。大切な生活資金が数カ月も返ってこなかったら、生活が立ち行かなくなってしまいます。

そのため、保証会社による保証体制を整えることなども、給与支払いを認める要件として業者に課し、万が一のときに、少なくとも一定額は数日内に返還される仕組みにすることが検討されています」

Q.もし解禁された場合、どのように使うのがよいのでしょうか。

長尾さん「公正取引委員会の『QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書』(2020年4月)によると、『コード決済事業者のアカウントに対して賃金の支払いが行えるようになった場合、自身が利用するコード決済のアカウントに賃金の一部を振り込むことを検討するか』という問いに対して、回答者の39.9%が『検討する』と回答しており、労働者側にも一定のニーズはありそうです。

決済アプリでは、買い物をすることによってポイントがたまったり、お店からのクーポンが発行されたりして、現金よりもお得に買い物ができることがあります。また、アプリ上に支払いの履歴が残るので、家計管理が簡単にできるという利点もあります。デジタルならではのメリットを生かすことで、暮らしがより便利になるのではないでしょうか。

一方で決済アプリは『給与支払日に1円単位で口座から引き出せる』ことを要件とすることが制度案の骨子に含まれているので、現金で引き出して使うことも、今まで通り可能です。デジタル化はまだ途上で、地域や業界によっても進み具合に差があるので、必要に応じてデジタルとアナログ(現金)を使い分けることが必要だと思います」

オトナンサー編集部

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