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一見″いい人″、だから危険! あなたの近くにもいる「マニピュレーター」の正体。

  • 2022.1.27
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あなたの周りにこんな人はいないだろうか。

よく小さな嘘をつく、誰かを憎まれ役にする、不和の種をまく、罪悪感を抱かせようとする、「あなたのためだから」が口癖......。

精神科医・片田珠美(かただ たまみ)さんの『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)は、「一見いい人、だから危険」な「マニピュレーター」の見抜き方から身の守り方まで、豊富な実例をまじえて紹介する1冊。

「マニピュレーター」とは、他人を支配し操ろうとする人のこと。厄介なことに、彼らはうわべは"いい人"で、他人の不安や弱みを操ることに長けている。だまされていたと気づいたときには、すべてを失っていたということも少なくない。職場、家族、友人......世間はマニピュレーターで溢れている。

マニピュレーターの正体

アメリカの臨床心理学者ジョージ・サイモンによると、マニピュレーターの定義は「人を追い詰め、その心を操り支配しようとする者」で、ほとんどが「潜在的攻撃性の持ち主」だという。

「『潜在的攻撃性』は非常に厄介だ」と片田さんは書いている。なぜなら、攻撃の意図も気配も押し殺し、あの手この手で仕掛けてくるため、気づくのが難しいから、と。

おまけにマニピュレーターは、うわべは穏やかで人当たりも柔らかい。なのに、他人の不安や弱点につけ込んで徐々にコントロールしていく達人、つまり「ヒツジの皮をまとうオオカミ」が多いのだとか。

そのため、自分がターゲットにされていても気づけなかったり、問題があるのは自分のほうだと思い込まされたりすることも......。

「まず何よりも目の前のあの人がマニピュレーターだと気づくことが必要だ。(中略)マニピュレーターの正体に読者の方が一刻も早く気づいて、自分の身を守れるようになることを願いつつ、本書を執筆した」

人を見たらマニピュレーターと思え

本書は、「第1章 あなたの周りのマニピュレーター」「第2章 マニピュレーターの手口」「第3章 なぜこんなことをするのか」「第4章 マニピュレーターのターゲットにされやすい人」「第5章 マニピュレーターを醸成する社会」「第6章 処方箋」の構成。

マニピュレーターのターゲットにされてしまい、片田さんのもとを訪れた相談者のケースをはじめ、内容が具体的で濃い。そしてなんといっても、文章の切れ味が鋭い。痛快で、すらすら読める。

■本書の「マニピュレーター」の定義
1 何か得することがあるという思惑から、
2 他人を一段劣った立場にとどめておくよう策を弄し、
3 意のままにコントロールしようとする人

■マニピュレーターの主な特徴
1 不和の種をまく
2 トラブルの解決役を装うなど一見"いい人"のふりをする
3 ターゲットが生活に支障をきたす

1つ目の具体例として、福岡県で発生した5歳児餓死事件を挙げている。5歳男児を餓死させた疑いがあるとして、昨年3月に30代の母親だけでなく、40代の"ママ友"も保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。

母親は"ママ友"の嘘を真に受けて信頼し、指示通りに行動。多額の金銭まで渡していたという。この"ママ友"は他人を操って支配する「マニピュレーター」の可能性が高い、と片田さんは見ている。

「(他の)ママ友らが悪口を言っている」と嘘を吹き込んで母親を不安にさせ、周囲から孤立させると同時に、「私は味方だ」と言って信用させ、依存するように仕向けた。

これは特異なケースだが、同様の傾向を持つプチ・マニピュレーターはどこにでも潜んでいるという。たとえば、やり手のセールスマン、「お前のため」と言いながら自分が望む進路を子に強いる親......。

「誰でもマニピュレーターになりうるわけで、それを露骨にやってすぐに気づかれるか、巧妙にやって気づかれないようにするかの違いがあるだけだ。(中略)『人を見たらマニピュレーターと思え』くらいの気持ちで常に警戒しておくべきである」

アイヒマンにならないために

マニピュレーターのイメージがつかめてきたところで、具体的な手口とターゲットにされやすい人を紹介している。

■マニピュレーターの手口
孤立させる、当てこすり、誹謗中傷、自己保身のための噓八百、邪魔者を蹴落とすための怪文書、被害者面、罪悪感をかき立てる、エサで釣る、微妙な脅し

■ターゲットにされやすい人
他人の話を真に受ける、経験不足、何となくおかしいという直感に蓋、他人を喜ばせたいという願望が強い、自信がない、強い劣等感、他力本願、「幻想的願望充足」、見せかけの幸福を手放したくない、波風を立てたくない、孤立している、弱っている

そして最後に、史上最大のマニピュレーターとして、天才的なメディア操作と魔力的な演説でドイツ国民を反ユダヤ主義へと駆り立てたヒトラーを挙げている。

その最も従順な部下だったのが、アイヒマン。第二次世界大戦中、彼の指揮下で殺されたユダヤ人は数百万人にのぼるという。ところがのちに、アイヒマンは「ごく平凡なドイツ人」だったことが明らかに。

では、なぜ凡庸な人物が、あれほどの悪を実行するうえで重要な役割を果たしたのか。その最大の要因は「思考停止」だという。

「アイヒマンの末路は悲惨である。マニピュレーターから責任を押しつけられ、すべてを失う羽目になりかねない。そうならないためには、観察眼と分析力、そして直感力を磨き、できるだけ早くマニピュレーターに気づいて離れることが必要だ」

「あの人はマニピュレーターだったのか」と、読みながら何人かの顔が浮かぶだろう。マニピュレーターの被害に遭わないためにも、自分がマニピュレーターにならないためにも、ぜひ読んでおくことをおすすめしたい。

■片田珠美さんプロフィール

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。パリ第8大学にフランス政府給費留学生として留学。臨床経験にもとづいて精神分析的視点から犯罪心理や心の病を研究。『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)など著書多数。

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