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既読スルーより切ないもの【彼氏の顔が覚えられません 第41話】

  • 2015.8.20
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男と女はなにをもって「恋人になった」というのが正解なんだろう。ネットで調べたりした。告白してから、デートして手をつないでから、キスしてから、体を重ねてから…etc.統計データもいろいろ出てきた。

既読スルーより切ないもの【彼氏の顔が覚えられません 第41話】

(c) GTeam- Fotolia.com

よくよく考えたら、どれも正解と言えない。あくまでそれぞれの尺度でしかないんじゃないか。ただイズミと付き合い始めたのは、自分の尺度の中でも微妙な感じに思えたのは確かだ。

「きょうから、俺、タニムラカズヤと、ヤマナシイズミは、恋人同士。で、OK?」

去年の9月下旬ごろ。あんなにテキトーな告白の仕方をしたのは賭けだった。何せ、タナカ先輩による一世一代の公開告白すら簡単に断ったイズミだ。並大抵の告白の仕方じゃ無理だろうとは思っていた。

「でもあなた、“退学までもう秒読みらしいわよ”」

結果、「ギャグ」と受け取られてしまった。賭けに負けたと思ったが、諦めが悪い俺。ならばこちらも、と、ギャグのフリして頬にキスをお見舞いした。それをイズミは、嫌がらなかった。

ただ、受け入れてくれたんじゃなくて、何も動じなかったというだけかもしれない。クリスマスに唇を重ねたときも、顔を真っ赤にしながら、照れているような、怯えているような、そのどっちともとれない微妙な表情をしていた。

それは、嫌がっていると言ってもいいくらいだ。

何も色気のないネットカフェだもんな。ファーストキスはもっとロマンチックな場所がよかったに違いない。実際どうかは訊かなかったが。「嫌だ」と言われるのは怖かった。

俺がどんな顔をしているか、イズミはわからない。顔が覚えられないどころか、表情というものを読みとる能力すら欠如しているのだ。

だったら、俺だってイズミの顔色を気にする必要はない…なんて、イジワルなことを考えてしまう。本当は嫌がっているかもしれないのに、なにも動じないでいるイズミを、俺自身も見て見ぬフリしてしまった。

***

3月にLINEで送ったデートの誘いを既読スルーされるぐらいは、まだよかった。もともとイズミの返事は遅い。いまどきスマホじゃなくて、折り畳み式のガラケーだし。

だが、4月。学校の食堂で再会し、水をぶっかけられたのはさすがに堪えた。もう完全に破局じゃないか。原因を作ったのは、その日、隣の席にいたマナミだ。

「あ、イズミ…!」

なんて、あろうことか俺らの存在を、そばに座っているイズミにわざとらしくアピールして。結果、顔から水を滴らせている俺と、びしゃびしゃになったカレーライスができあがった。

もともとマナミと一緒になんて食事してなかった。学校が再開して、一週間ぐらいはずっと一人で食べていた。

イズミは、食堂で俺とすれ違っても無視した。いや、気づかなかっただけなのだが。無視だったとしても、仕方ない。俺はそうされるだけのことをしでかしてきたのだ。

だが諦めの悪い俺は、イズミが座って飯を食う場所から椅子1個分空けて隣とか、正面から1個だけズレた前の席とか、いつも近くに座り、なんとか話しかけるタイミングを伺っていた。そんな折りの出来事だった。

まぁ、またこんな風にグズってるのが悪かったんだろうな…。マナミのやつ「おっ待たせー」なんて、何の前触れもなくやってきたかと思うと急に抱きついてきて…だれも待ってねぇよ!

「これで完全にひとりぼっちね。いい気味」

にたぁ、と笑うマナミ。なんて嫌な女なんだ…。

目の前にある、まったく食欲のわかない水浸しのカレーライスを、ヤケ食いしながらそう思った。

(つづく)

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(平原 学)

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