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財産トラブル! 兄に渡っていた「認知症の父の遺産」は取り戻せるか

  • 2015.8.19

【女性からのご相談】

先月、父が亡くなったのですが、長く父と同居していた兄が数年前、父から2,000万円ほどあった預金通帳を託されていたようなのです。父は認知症を患っていたので、どういう意図で託したのかは わからないのですが、兄は全額を引き出したうえ、自分と妻の口座に入れていたことが判明しました。

兄は、「父がそうしろと言ったからだ」と主張するのですが、父は亡くなってしまったので事実確認が取れません。この場合2,000万円は、兄夫婦のものなってしまうのでしょうか? 妹である私も相続人ですし、私の分を兄に請求できたりしないのでしょうか?

●A. たとえ兄夫婦に遺産が“贈与”されていても、分配を請求することはできます。

ご相談ありがとうございます。アディーレ法律事務所弁護士の篠田恵里香です。

認知症の方の口座から勝手に預金を引き出すというトラブルは多いですね。本人の意思に基づく贈与であれば問題ありませんが、そうでない場合、勝手に預金を引き出すことは違法行為です。

今回も、お父様の意思に基づいてはいないようなので、勝手に預金を引き出す行為は違法ですし、引き出したお金も兄夫婦のものとはなりません。お父様の口座(相続財産)に戻すよう請求することができます。

●故人に“金銭管理に関する判断能力”が備わっていなかった場合

兄夫婦に預金通帳を託したとき、それがお父様の意思に基づいていたか否かは、“診断書”等によりある程度証明可能です。その時点で“金銭管理に関する判断能力”がお父様に備わっていなかったのであれば、兄夫婦の口座に入ったお金は相続財産に戻されるべきことになります。

特段の合意がない限り、相続は法定相続分に従いますので、相続人が子どもだけ(あなたと兄だけ)であれば、遺産はこの2,000万円も含め、その他の遺産をあなたと兄とで2分の1ずつ分け合うことになります。

●故人に“金銭管理に関する判断能力”が備わっていた場合

今回のケースで、仮にお父様に“判断能力があった”としましょう。その場合、兄夫婦に対し、「お前たちの好きに使って」という趣旨で通帳を託したのであれば法律上は“贈与”になる可能性があります。

一方、「私のお金として管理してくれ」という趣旨で託したのであれば、その委託の趣旨に従って金銭を管理すべきで、勝手に自分たちのために着服し、使い果たすことは許されません。

●財産分配の主張に有効な制度2つ

●特別受益

仮にお父様が兄夫婦に正当に2,000万円贈与したと判断された場合も、何ら主張ができないわけではありません。相続の場面では、兄が受け取った部分を“特別受益”つまり“特定の相続人が、遺産の所有者である故人から特別の利益を受けた”として、その利益分を遺産分割の際に、差し引いて計算することができます。相続の際の公平性を保つためのしくみです。

●遺留分

遺言や贈与で他の人に遺産が渡ってしまった場合や特定の相続人に多くの遺産が渡ってしまった場合、本来法律で定められた故人の配偶者や子どもたちには、最低限相続できる財産を確保できる“遺留分”(民法第1028条)という制度があります。

今回の場合も、遺留分を主張することによって、贈与財産の一部を受け取ることができる可能性があります。また、兄の妻が贈与を受けた部分は、相続人ではない第三者が贈与を受けたことになりますが、死亡する1年前までの贈与が、遺留分を侵害することを知っていたのであれば、これも遺留分を主張することができます。

遺留分の主張は、相続開始を知り、かつ遺留分を侵害する贈与等があったことを知ったときから1年という期間制限があります。意外に1年は短い期間なので、悩んだときはまずは弁護士に相談してくださいね。

●ライター/篠田恵里香(アディーレ法律事務所パートナー弁護士)

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