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『コーダ あいのうた』エミリア・ジョーンズにインタビュー。アドリブができるまでになった手話は「今も勉強を続けています」

  • 2022.1.22
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アカデミー賞の前哨戦の一つともいわれるサンダンス映画祭で、史上最多4冠に輝き、世界を沸かせた『コーダ あいのうた』(1月21日公開)。聴覚に障がいのある家族の中で、唯一の聴者である高校生ルビーが、夢に恋に羽ばたいていく姿を描いた青春ドラマです。ルビーを演じたのは、ハリウッドで今大注目の19歳、エミリア・ジョーンズ。フレッシュな魅力溢れる彼女に、作品のことから憧れの女優のことまで、話を聞きました。

──この映画はアメリカの、マサチューセッツ州グロスター周辺で撮影されたと伺っています。海も森もある美しい町でしたね。ロンドンの中心部で生まれ育った、都会っ子のエミリアさんにとって、自然溢れる環境での撮影はいかがでしたか?

とても美しい場所でした。当初、私たちキャストは現地に、お互い以外に知り合いがいなかったので、オフの日や週末に一緒に過ごせたのもよかったです。週末に(劇中にも登場する、湖のある)採石場跡に遊びに行って、岩場から飛び込んで泳いだりして。ある意味、この映画のキャラクターとして生活することができました。住民の人たちも感じがよくて。この撮影がなければ、グロスターに行くことはなかったと思うので、ラッキーでしたね。

ルビー(左。エミリア・ジョーンズ)と家族。

ルビーは毎朝、漁師の父と兄とともに沖に出る。

父フランク(トロイ・コッツァー)。トロイは本作で、ゴールデングローブ賞映画部門の助演男優賞にノミネート。

母ジャッキー(マーリー・マトリン)。

兄レオ(ダニエル・デュラント)。

──エミリアさん演じるルビーは、聴覚に障害のある両親と兄とともに暮らすCODA(※Children of Deaf Adultsの略。ろう者の親を持つ聴者)。父フランク(トロイ・コッツァー)と兄レオ(ダニエル・デュラント)は漁師で、ルビーは二人の漁を手助けするために毎朝、一緒に沖に出ます。船上の撮影は、過酷ではなかったですか?

いえ、楽しかったです(笑)。撮影直前の2週間は毎日漁に出ていたので、船上の感覚をつかめたし、漁師さんたちと知り合えて。トロイとダニエルともすぐ打ち解けました。3人とも漁船に乗るのも初めてだったのに、漁のポイントまで毎日、片道1時間かけて一緒に通っていたんですから。漁のシーンの撮影では、監督のシアン(・ヘダー)は念のため、スタントの人も用意してくれて。でも私たちは甲板に立ち、きびきびと漁の作業をしてのけたので、シアンはそれをドキュメンタリーのように撮ることができました。体中すっかり魚の匂いになって、ゆらゆら揺られながら撮影を行うのは、不思議な経験でしたね。

──講師のアンセルモ・デソウザからはあらかじめ、ASL(※アメリカ手話)のみならず、幅広い知識を教わったそうですね。

彼はただ私にASLでセリフを覚えさせるだけじゃなく、言語そのものについて、そしてろう者のカルチャーについて教えてくれました。最初のレッスンのとき、私がASLを覚える気満々で行ったら、「ASLを教えるのは、僕たちのカルチャーを知ってもらってからでないとね」と言われたのを覚えています。本や動画も含め、たくさんのことを教えてくれたおかげで、グロスターに行ったときには、自分が(役の上で)足を踏み入れることになるコミュニティについてしっかりと理解できていたんです。

──それはルビー役にどう活きましたか?

撮影中、トロイがアドリブを見せたときに、私もアドリブで返せるようになっていました。もし私がASLそのものを学べていなかったら、(一家を演じる役者はエミリアさんのほか、全員ろう者というキャストの中で)一人、取り残されてしまったでしょう。アンセルモのおかげで、トロイ、(母役の)マーリー(・マトリン)、ダニエルとより親密になれたし、演技の上でもお互いに影響し合い、驚かせ合うことができたと思います。

──CODAについてもリサーチをしたそうですね?

イギリスでもアメリカでも、多くのCODAの人たちと話しました。みんな「自分はろう者の世界の一部であり、聴者の世界の一部でもある」と言っていましたが、どちらの世界にも属していないと感じているようでもありました。若い頃から聴覚に障がいのある家族を守り、それを自分の仕事として責任を持っていて。彼らの経験は、どこか共通していると同時にそれぞれユニークで、話を聞くうち、徐々にどんな感覚かを知ることができたんです。

湖で遊ぶ、ルビーとマイルズ(左。フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)。

合唱曲を個人練習する二人。

合唱部のコンサートの様子。

合唱部顧問のV先生(エウジェニオ・ダーベス)。

ルビーは徐々に歌の才能を開花させていく。

──ルビーは意中のマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)を追って、合唱部に入部し、才能を開花させていきます。エミリアさんにとって、本格的に歌を披露するのは初めてだったとのこと。

オーディション当時の私は17歳と若く、イギリス人だし、歌のレッスンも受けたことがなかった。シアンはそんな私を、リスクを冒してキャスティングしてくれたんです。というのも、当初は歌手を中心にオーディションをしていたそうですが、ルビーは自分の歌が上手かどうかわからない中で、声を成長させていく役。だから「たとえ未経験でも、歌うことが好きで、学ぶ意欲がある人を起用したい」と、女優もオーディションすることにしたそうです。それはまさに私でした。シャワー中に歌うのが大好きでしたから(笑)。

──歌を通じて、引っ込み思案のルビーが殻を破っていく姿が印象的でした。

歌うことでルビーの感情を表現し、曲そのものと繋がっていくのは最高でした。シアンと私は、ルビーにどんな曲を歌わせるのがいいか、どんな歌詞が彼女の気持ちに合うかについて深く話し合ったんです。ぴったりの曲を見つけられたと思います。それに、私自身も撮影中、ルビーと同じような経験をしました。合唱のシーンで歌う、『I’ve Got The Music In Me』という曲のトップノートになかなか声が届かなくて。でも、とにかくやってみようと思ったんです。どうしてもダメなら無理して歌わなくてもいいし、と。すると、シアンが「アクション!」と言ってカメラが回ったら、その音に届いた。自分の声を見つけられて、とても興奮しました。

──母ジャッキーがルビーに、彼女を産んだときのことを話すシーンは感動的です。ジャッキーを演じたマーリー・マトリンは『愛は静けさの中に』(86)の主演で、史上最年少でアカデミー賞主演女優賞を獲得するなど高く評価されました。偉大な先輩の彼女との共演はいかがでしたか?

マーリーは驚異的な女優です。今言ってくれた母娘の会話のシーンで、私はただ座って彼女を見ていたのですが、こんなに美しく感動的なASLがあるなんてと驚いたことを覚えています。ASLのちょっとしたニュアンスを覚えるために、現場で彼女をいつも観察するようにしていました。それに、彼女は普段も素晴らしい人で、外見と同じように内面も美しいんです。一緒に仕事をし、友情を育めたことはラッキーでした。私のことをいつも気にかけてくれて、今もずっとメールし合っています。本当のお母さんみたいな存在なんです。

──先日、『ハリウッド・リポーター』誌の「Roundtable」というyoutube座談会企画で、クリステン・スチュワートやジェシカ・チャステインら、ハリウッドで活躍する錚々たる先輩たちの中にエミリアさんも参加していました。どんな経験でしたか?

まるで夢を見ているようでした。座談会の間中、他の人の話にうなずきながらも、「一体どうして私は、小さい頃から観てきた憧れの女優たちと同じテーブルにいるんだろう?」と不思議で。しかも私が『コーダ あいのうた』のことを話したら、ジェシカが「この映画、大好き」と言ってくれて。シュールな体験でしたが、あの場で今回の映画について話すことができてうれしかったです。

──何か印象に残った会話はありますか?

彼女たち全員、大変な思いをしてきたからこそ、言葉に重みがあるんだと思います。私は長い間、演技の仕事をしてきましたが、ハリウッドでは新参者です。先輩たちの経験談を聞けて学びがありましたし、作品に入る前の準備プロセスなども興味深かったです。

──まだ19歳のエミリアさん。素敵な先輩はたくさんいると思うのですが、中でも憧れの役者さんはいますか?

ヴィオラ・デイヴィスを本当に、本当に尊敬しています。最近もドラマシリーズ『殺人を無罪にする方法』を観たんですが、素晴らしい女優ですよね。彼女は役によって毎回、ガラッと変わります。それでいて演技がリアルで、なんの偽りもないと感じさせられる。あと、彼女のInstagramをフォローしているんですが、親切でポジティブな雰囲気の人で。テキストや動画が笑えるんです。いずれ会ってみたいし、一緒に仕事ができたら夢のようです。

──会うのが楽しみですね。

本当に会いたいです! でもただのファンだから、会ったら冷静でいられないかもしれません(笑)。

──尊敬しているマーリー・マトリンやヴィオラ・デイヴィスについて話すとき、演技だけでなく、人柄についても触れていましたね。エミリアさんにとっては人柄も、演技者として重要なことですか?

私にとっては誰かを尊敬する上で、人柄はとても重要です。ただ好きになるだけなら、その人に演技の才能があるだけで充分。でも尊敬するなら、役者としてだけでなく、ロールモデルとしても尊敬したいと思うんです。具体的には人柄や、仕事の仕方ですね。もしその人が私生活ではあまり楽しい人じゃなかったら、憧れることはできないかなと思います。

ASLで「I really love you」と家族に伝えるルビー。

心温まるエンディングに注目を。

──最後に。エミリアさんは今もASLの勉強を続けているそうですが、好きな言葉はありますか?

まだまだ勉強中ですが、一番のお気に入りはこれです(と言いながら、親指と人差し指と小指を立てた、手のサインをかたどったピアスを見せる)。「I love you」という意味があります。さらにこうすると(「I love you」のサインから、中指を人差し指にかける)、「I really love you」になる。今回の映画にも登場した言葉です。

──ピアス、かわいいですね。

マーリーの友人のブランド〈RoseBYANDER〉のピアスです。私のジュエリーはほとんどASL関係かも(笑)。

『コーダ あいのうた』

豊かな自然に恵まれた、小さな海沿いの町で暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は、父フランク(トロイ・コッツァー)、母ジャッキー(マーリー・マトリン)と兄ダニエル(レオ・ロッシ)の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、ボストンの名門バークリー音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族を選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし……。フランス映画『エール!』(14)をリメイクしたヒューマンドラマ。

脚本・脚本: シアン・ヘダー
出演: エミリア・ジョーンズ(『ロック&キー』)、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(『シング・ストリート』)、マーリー・マトリン(『愛は静けさの中に』)、トロイ・コッツァー、ダニエル・デュラント
配給: ギャガ
2021年/アメリカ/112分/5.1chデジタル/カラー/PG12/原題:CODA

1月21日(金)、全国公開
(※バリアフリー字幕版も上映)
© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

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