いまだからこそ観ておきたい話題作。『ふたつの名前を持つ少年』『あの日のように抱きしめて』

8月15日は終戦記念日だ。ふと、「いまのこの平和な時代は、日本が焼け野原になった70年前の"この日"から築かれてきたのだな」と考えると、言いようのない不思議な感覚に襲われる。

大切な節目を迎えるのは日本だけではない。第二次世界大戦に関わったすべての国がそうであり、またアウシュビッツ解放からも70年。今年はさまざまなメディアが戦争について取り上げているが、中には私のように、あまりに自分の環境とかけ離れていて、心をどこに置いて向き合えば良いのかわからない人もいるかもしれない。そんな方には、これからご紹介する2作品の鑑賞をおすすめしたい。


『ふたつの名前を持つ少年』

原作は、自身もユダヤ人強制収容所や隠れ家生活の体験者である児童文学作家ウーリー・オルレブによる『走れ、走って逃げろ』。1996年に「小さなノーベル賞」とも称される児童文学賞・国際アンデルセン賞を受賞。

◆ストーリー

第2次世界大戦下、ポーランドのユダヤ人強制住居区から脱走した8歳の少年スルリック。彼は何とか森へと逃げるが、あまりの飢えと寒さで行き倒れとなってしまう。しかし、幸運にも心優しい婦人に助けられ、しばらく一緒に暮らすことに。その日々の中で、少年は婦人からひとりでも生き延びられるよう"ユダヤ人"ではなく"ポーランド人孤児ユレク"としての架空の身の上話を叩き込まれる。そんな折、追っ手が迫っているのに気づいた婦人は、スルリックを逃すも、彼にはまだ計り知れない困難が待ち構えていた......。

主人公のスルリックは、なんと双子の兄弟(アンジェイ&カミル・トカチ)がシーン毎に演じ分けている。優しくて勇気があって、愛嬌たっぷりのスルリックを、きっと誰もが大好きになってしまうはず。監督のペペ・ダンカートはドイツ人で、『Schwarzfahrer』(黒人の乗客)でアカデミー賞短編実写賞を受賞。

◆たったひとりで、3年間を生きぬいた8歳の少年の実話

ナチス・ドイツの時代をテーマに子供が登場する映画といえば『サウンド・オブ・ミュージック』を始め、意外と多いのだが、それらの中でも今回の主人公スルリックは特に過酷な状況に追い込まれ続ける。

たったひとりで森に潜み、孤独と死への恐怖と飢えに苦しみながら、農村を渡り歩き3年もの月日を生き抜く......8歳の男の子に課せられるにはあまりにも重すぎる運命。これが実話だというから驚きだ。

彼が困難に立ち向かう度に、私は感情移入しすぎて(スルリックがこれまた可愛いんだもの)心が張り裂けそうになるのだが、「何とか生き抜いてやる」という彼の勇気や、少年を助ける心優しき農村の人たちの姿を目の当たりにして、熱いものがこみ上げてしまった。もし、自分の現状をなかなか打破できないことを悩んでいるならば、この少年の壮絶な3年間の闘いは、心を奮起させる力を与えてくれるだろう。

『ふたつの名前を持つ少年』
監督:ペペ・ダンカート
出演:アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ、ジャネット・ハイン、ライナー・
ボック イタイ・ティラン
(C)2013 Bittersuess Pictures
2015年8月15日ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
www.futatsunonamae.com


続いては、同じ時代をテーマにしながら、主人公も内容もずっと"大人"な仕上がりの、こちらの作品を。

『あの日のように抱きしめて』

『東ベルリンから来た女』で2012年のベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いたクリスティアン・ペッツォルト監督が、ふたたびニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルトとタッグを組んだ話題作。

◆ストーリー

1945年6月、ベルリン。元歌手のネリーは顔に大怪我を負いながらも強制収容所から奇跡的に生還し、顔の再建手術を受ける。彼女の願いは"ピアニストだった夫ジョニーを見つけ出し、幸せだった戦前の日々を取り戻すこと"。顔の傷が癒える頃、ついにネリーはジョニーと再会するが、容貌の変わったネリーに夫は気づかない。そして、収容所で亡くなった妻になりすまし、遺産を山分けすることを持ちかける。夫は本当に自分を愛していたのか、それとも裏切ったのか? その想いに突き動かされ、提案を受け入れ、自分自身の偽物になるネリーだが......。

本作で流れるジャズのスタンダード・ナンバー、クルト・ヴァイル(ワイル)作曲の「スピーク・ロウ」は、影の主人公。作品中の音楽については公式サイトでの解説を読むとより本作を楽しむことができる。


◆巧みな脚本、演技力、こだわりのシーンの数々

最初から最後まで全く目が離せなかった。収容所での忌まわしい出来事によって顔が変形してしまった主人公ネリーが、再会した夫の真実の心を探ろうと近づいていく過程に終始ドキドキさせられる。しかし、本作の魅力はそんなサスペンスフルな展開だけではない。収容所で顔もアイデンティティも崩壊してしまった彼女が、夫と出会い奇妙な連帯関係へと進んでいく中、自分自身を、女を、そして愛を見出し、見た目の印象まで変わっていく。その変貌していく彼女の姿に、同じ女性としてさまざまな想いを抱く方もいるだろう。

また気になるのは、やはり夫の愛の真実。もちろん結末はスクリーンで見届けて頂きたいのだが、ラストシーンは言葉にできない......強烈に印象的なシーンで幕を閉じる。人間の本質、そして戦争に翻弄されたひと組の夫婦の現実を容赦なく描いた脚本、フイルムで撮影し明暗にこだわったカメラワーク、実力派キャストによる素晴らしい演技、どれをとっても圧巻、であった。

『あの日のように抱きしめて』
2015年8月15日(土)よりBunkamura ル・シネマほかにて全国順次ロードショー
監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
共同脚本:ハルン・ファロッキ
原作:ユベール・モンティエ著『帰らざる肉体』
キャスト:ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ニーナ・クンツェンドルフ
www.anohi-movie.com
© SCHRAMM FILM / BR / WDR / ARTE 2014

Bunkamura ル・シネマでは公開初日来場の先着100名様に、創業300年の歴史と伝統を誇るドイツコーヒー、ティーブランドのダルマイヤーより「ダルマイヤー・ティー(ペパーミント)」小袋がプレゼントされる。


◆さいごに

今回は、ナチス・ドイツ時代をテーマにした作品を紹介した。いずれも映画芸術として大いに楽しめる秀作だ。その一方で、70年前の現実を目の当たりにすると色々な思いが交錯する。戦争が始まってしまえば、犠牲になるのはスルリックのような少年なんだよなぁ......とも思ったり、戦争が終わった後もネリーのように決して消えない傷跡が深く残り続ける人がどれだけいることか。終戦記念日を前に、これらの作品を観ることは、いまの平和な日本に生きていることと改めて向き合ってみる良い機会になるのかもしれない。

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