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トンデモマナー?「数珠は自分で買ってはいけない」のは本当か 貸し借りもNG?

  • 2022.1.4
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数珠は自分で買ってはいけない?
数珠は自分で買ってはいけない?

皆さんは「数珠は自分では買ってはいけない」という話を聞いたことがあるでしょうか。筆者は「数珠は葬儀に持っていくものだから、自分で買うと、葬式を待っていることになる」「数珠は死者を呼び込むと信じられており、事前に用意すると、身内に死者が出たときに後悔することになる」「数珠は本来、誰かから引き継ぐものであり、自分で用意するものではない」といった話を見聞きしたことがあります。

結論から言いますと、数珠は自分で購入して構いません。「数珠は自分で買ってはいけない」などという話は、数珠のことを分かっていない人が考えた“トンデモマナー”です。社会人になれば、葬儀に出席する機会も増えてくるので、数珠は自分で購入して構いませんし、しっかりと自分用のものを用意して持っていてください。

今回は、葬祭業に携わる筆者が数珠にまつわるさまざまな疑問について、解説したいと思います。

数珠には2種類ある

そもそも、数珠とは「仏を念ずるときに用いる珠(たま)」との意味から、「念珠」(ねんじゅ)とも呼ばれるもので、真言や念仏を唱えるときに数を数える道具といわれています。同様の形はキリスト教などにおける「ロザリオ」にもみられるもので、宗教用具として、祈りや修行行為を数えるためにあるものといえます。

起源は諸説あるようですが、古代インドのバラモン教で既に原形がみられています。それが、お釈迦(しゃか)様の時代にも使われ、仏教とともに中国を経て、日本にも伝わったといわれます。つまり、数珠は祈りの道具であり、仏教徒のシンボルであり、功徳のあるお守りでもあるとされているのです。

数珠には「本式数珠(念珠)」と「略式数珠(念珠)」があります。本式数珠は「念仏を唱えた数を数える」ために作られた正式な数珠です。玉数は人間の煩悩の数といわれる108個となっていますが、デザインや宗派による例外などにより、108個でない物もあるようです。「長さがあり、玉がたくさんあるものが本式数珠」というのが最も伝わりやすいでしょう。正しい正しくないの話をしだすと切りがなくなるので、本稿ではあくまで、一般の人に分かりやすく伝えるのを主眼としたいと思います。

そして、皆さんが最もよく見掛け、持っていることが多いのが略式数珠です。玉の数が22~16玉くらいで、片手を輪で覆うようなサイズ感の数珠です。108個の玉の本式数珠を基準に「2分の1の54個」や「3分の1の36個」などと書いてあるものもありますが、実際はデザイン上の問題なので、玉の数はさまざまです。

宗派にこだわりがあれば、宗派ごとの本式数珠を持つのもよいでしょう。特にこだわりがないのであれば、略式数珠の方が扱いやすく、購入に適しているといえます。また、数珠には男性用と女性用、そして、男女兼用のものがあります。これは、手のサイズによって似合う数珠のサイズが違うというデザイン上の違いであり、特に宗教的な意味があるわけではありません。

玉の1個あたりのサイズが大きいものが男性用、小さいものが女性用、男女どちらでも使えるサイズが男女兼用とされていることが多いようです。

「貸し借りはNG」は本当なのか

さて、数珠の扱い方について、気になる人もいると思います。例えば、数珠は貸し借りをし合ったり、人にあげたりしてもよいのでしょうか。

「数珠は1人につき1つずつ、専用の物を持つのが正しいマナーです。本人の魂や分身を表すものなので、数珠の貸し借りをするのはマナー違反です。もし、自分の数珠を持っておらず、人から借りた数珠を使うのなら、数珠を持たずに葬儀に参列した方がよいでしょう」といったマナーもネット上で見掛けましたが、数珠が本人の分身であり、魂を表すものであるなら、プラスチック製の1500円の数珠を持っている人は随分と安い、樹脂製の魂や身分になるのだなあと思います。

葬儀などでお参りするとき、中学生などの若い人に焼香のときだけ、親が数珠を貸しているのはよく見る光景です。そんなことをするぐらいなら、数珠を持たない方がいいなんていうのは随分と大げさな言い方だといわざるを得ません。実際、筆者の子どもの頃から、数珠の貸し借りはよく見ています。

ただ、大人同士で貸し借りしているのは、数珠の用意がないのが周りに見えてしまいますから、一般的な仏式の葬儀の場合、きちんと高い物でなくても構わないので、自分用の数珠を1つ持つのが望ましいでしょう。貸し借りをしてはいけないわけではありませんが、自分用の物を用意するのは「きちんと用意して、葬儀や法事に参りました」という弔意の表れですから、やはり、大人は自分用の数珠を持っておきましょう。子どもの場合は仕方ないという範囲です。

また、「数珠を人にあげてもいいのかどうか」に関しては、先述のように「数珠は魂であり、分身である」と思う人はやめた方がよいと思うでしょうが、「数珠は立派な仏具である」と思う人は特に何の問題もありません。寺に何代も継承されている仏具があるように、代々、大切に扱ったり、引き継いだりするのはむしろよいことといえるでしょう。筆者も亡き父から引き継いだ数珠を持っています。

「他人の念の入った物を引き継ぐのはよくない」などと言う人がいますが、仏を祈り、仏を唱えた、仏のための念が込められたものが悪くなるわけがないというのが筆者の見解です。古い数珠の中には、今では手に入らないサンゴ材などの物もあるので、古くても、よいものは大切にしましょう。

故人への弔意を寄せることは「できる範囲で、できるだけ」が原則です。整った形をしているのが望ましいからといって、整った形をしていないのがダメだというわけではありません。弔うことは減点方式で考えるのではなく、「これができていたらよりよい」の加点方式で考えると理解しやすくなると思います。「貸し借りしてはダメ」ではなく、「自分用をちゃんと持っていればよりよい」、そして、「人にあげてはいけない」ではなく、「大切なものを長く大切にできることはよりよい」のです。

古い数珠を引き継いだら、気を付けたいこと

数珠の玉は長持ちするものですが、中に通している糸は消耗品と考えた方がいいです。実際、葬儀のときに糸が切れて、バラバラと玉が飛び散ってしまうのはまれにあることです。「数珠の糸が切れると、何か悪いことが起こる前兆でしょうか」と不安になった人に聞かれることがありますが、いわゆる、普通の「経年劣化」です。

古い数珠を引き継いだときは糸が古くなっている可能性があるので、仏具屋さんなどに相談して、糸を新しくしてもらうのはいかがでしょうか。自分で直した物、一度メンテナンスした物は「自身の持ち物」として安心して持つことができるように思います。

一方、数千円の数珠の場合、メンテナンス費用の方が高くなってしまうこともあるでしょうから、買い替えで新しい数珠を持ってもいいかもしれません。一度、仏具屋さんや数珠屋さんに持っていき、相談してみるのも、数珠選びや数珠の引き継ぎの一つの楽しみです。

数珠は値段問わず、「母の形見」「祖父の遺品」などで思い入れがある場合も多いはずです。自分の思い、値段、好み…といったさまざまなことを考慮して決めるとよいでしょう。そういう部分で仏具屋さんに数珠を見てもらうのも、とても興味深いものです。

また、「『もう、この数珠は使わないので廃棄しよう』としたときに“魂抜き”をしなくていいの?」と気にする人がいます。原則的な話をすると「魂入れをしたものは魂抜きをする」という構造なので、仏具である数珠は魂抜きの必要がありません。自分で捨てるのが心苦しいなら、仏具屋さんで処分してもらってもいいですし、お寺さんに相談してみてもいいと思います。

数珠は自分の物を持っていると、お参りに自信を与えてくれます。そこそこの物でいいですから、一つ、自分のお参りを支えてくれる物として持っていると安心できると思います。よいお参りができますよう願っております。

佐藤葬祭社長 佐藤信顕

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