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「中国が急上昇し、日本が最下位に」年末に公表された"残念な世界ランキング"の中身

  • 2022.1.4
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1980年代以降、世界中で格差は広がり続けており、コロナ禍でこの傾向は加速した。一方、コロナ禍で人助けをする人の数も増えたという。ジャーナリストの大門小百合さんが、2021年末に公表された、国際的な「格差」と「人助け」に関する報告書を読み解く――。

不平等の概念
※写真はイメージです
トップ1%が世界の富の38%を所有

2021年末、世界不平等レポート2022(World Inequality Report 2022)が発表された。このレポートは、『21世紀の資本』で有名なフランスの経済学者、トマ・ピケティが設立した世界不平等研究所(World Inequality Lab)が2018年に続き4年ぶりにまとめたものだ。

レポートによると、コロナ禍で世界中の多くの人が仕事を失った一方で、「2020年は、ビリオネア(億万長者)が保有する世界の富の割合が、かつてないほど大きな年となった」という。

世界のトップ1%の富裕層が、世界の富の37.8%を所有し、上位10%は、世界の富の76%を保有していることも明らかになった。彼らの資産は、新型コロナの感染拡大以前の2019年に比べ、それぞれ0.7ポイントと0.4ポイント増えている。一方、下位50%の人々の資産占有率は2%で横ばいだった。

日本で普通に生活をしていると、いわゆるビリオネアと呼ばれる人たちに出会うことはほとんどない。しかし、世界では、そんな人たちが増えているというのだ。

今の格差は1900年代並み

歴史を見てみると、20世紀初頭は、アメリカ国内では富裕層のトップ1%が全てのアメリカの富の43%を持ち、西ヨーロッパでは55%の富を所有していたというように格差が顕著な社会だった。しかし、戦争、経済危機、植民地の独立などを経て、また相続税や累進課税の導入などの政策的な影響もあり、この不平等は、1980年代までの間に劇的に減少したと前述の世界不平等レポートはいう。

その結果、1970年には、ヨーロッパやアメリカのトップ1%の富は全体の25%以下になった。ところが、1980年代以降、イギリスのマーガレット・サッチャー首相、アメリカのロナルド・レーガン大統領などの登場で、規制緩和、民営化が進み、緩やかな累進課税の仕組みが導入されたことにより、再度、富の格差が広がり始めたのだ。

ここ数年はその格差がさらに拡大し、20世紀初頭の状態に戻りつつあり、特にアメリカでは2020年、トップ1%が全体の富の35%を持つまでになっているという。アメリカのテック企業の創業者や日本のZOZO創業者の前澤友作氏のことなどを考えると、確かに世の中で富の格差は広がっていると感じる人も多いのではないだろうか。

ブルームバーグによると、超富裕層がコロナ危機の間に増やした富は3兆6000億ユーロ(約460兆円)。世界銀行はこの期間に世界で1億人程度が極度の貧困に陥ったと推計している。

儲かっている人たちには、もっと社会に貢献してほしいと考える人がでてきても不思議ではない。

提案をもらえるなら「今すぐテスラ株を売って寄付する」

では、今、世界で一番お金を持っている人は誰だろうか?

すぐに頭に浮かぶのは、米タイムの2021年のパーソン・オブ・ザ・イヤーにも選ばれたテスラ創業者のイーロン・マスクだ。EV(電気自動車)で世界を牽引し、宇宙企業スペースXを創業し地球外への人類移住を目指す計画を披露するなど、昨年、何かと話題を提供してくれた人でもある。

ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、マスク氏の純資産は2021年12月中旬時点で2548億ドル(約29兆円)と、今年に入り950億ドル(約10兆8000億円)増加している。ちなみに純資産のランキングは、2位がアマゾンの創設者であるジェフ・ベゾス、3位がLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループ会長のベルナール・アルノー、4位がマイクロソフト創業者のビル・ゲイツと続く。

2021年10月、国連の世界食糧機構(World Food Program)の責任者であるデビット・ビーズリー氏が、何百万人もの人々を飢餓から救うため、マスクやベゾスのような億万長者に対して60億ドルを寄付するよう呼びかけるツイートをし、ちょっとした話題になった。

「世界一の富豪としてジェフ・ベゾス氏を超えたイーロン・マスクさん、おめでとう! お祝いに、一生に一度のチャンスを差し上げましょう。4200万人の飢餓に苦しむ人々を、たった66億ドルで救えるんですよ。チャンスの締め切りはもうすぐです。人々の命と同じように」

そのツイートを受け、マスク氏はWFPに対し、60億ドルで世界の飢餓を解決する方法を説明するよう求めた。彼は、国連が飢餓救済のためにお金をどのように使うのかを正確に示すことができるのであれば、「今すぐテスラ株を売って寄付する」とツイッター上で返信したのだ。

すると、今度はWFPが、「A one-time appeal to billionaires(億万長者への一度限りの訴え)」という提案を発表。ビーズリー氏が、「この飢餓危機は緊急で前例のないものだが、回避可能だ。イーロン・マスクさん、あなたは明確な計画を求めた。ここにある! 命を救うことを真剣に考えているあなたや他の誰とでも話す用意がある。2022年の飢饉を回避するためにお願いしたいのは、66億ドルだ」というツイートをした。この提案には、世界で最も裕福な人々から寄付された数十億ドルについて、食料とその輸送に35億ドル、現金と食料バウチャーに20億ドルを費やすと書かれている。

結局その後、マスク氏がWFPに寄付したかどうかは発表されていないが、「これほど世界中で飢餓に苦しむ人がいるのだから、億万長者にはもっと寄付してほしい」とWFPが言う気持ちはわかる。

ただ、マスクのような人は、世界中の人から寄付や投資をしてほしいとせがまれているだろうし、2012年には、すでにギビング・プレッジ(Giving Pledge)という「生前もしくは死後に自身の資産の半分以上を慈善活動に寄付する」ことを宣言している。2001年にはマスク財団も設立し、AI開発などにも寄付している。

彼のような経営者は、自分が次世代のビジネスに多額のお金を投資すること自体が、人類への多大なる貢献になると思っているのではないだろうか。

2020年、世界の「人助け」は過去最高に

世界の寄付や慈善活動に関する面白い調査もある。イギリスの慈善団体「チャリティーズ・エイド・ファンデーション(CAF)」が毎年発表するWorld Giving Index(世界人助け指数)という報告書だ。

これは、アメリカの市場調査会社ギャラップが行った114カ国12万1000人超の人々の電話インタビューのデータをベースにした報告書だ。インタビューの質問は、世界金融危機後の2009年から「この1カ月の間に、見知らぬ人、あるいは、助けを必要としている見知らぬ人を助けたか」「この1カ月の間に寄付をしたか」「この1カ月の間にボランティアをしたか」という3つから成り立っている。

2021年に発表されたレポートには、「2020年、世界では、過去最高の数の人が見知らぬ人を助けた」とあり、その数は世界の成人の55%(約30億人以上)にのぼるという。また、2020年は、過去5年間に寄付をした人の合計よりも、多くの人が寄付をし、ボランティア活動の水準も比較的高かったそうだ。コロナ禍という未曽有の世界的危機が、人々を助け合いの方向に導いたのかもしれない。

国別ランキングでは、前回トップだったアメリカに替わり、1位にランキングしたのがインドネシア。決して裕福というわけでもないこの国では、喜捨を重視するイスラム教の教えもあり、2020年には10人中8人超が寄付を行い、ボランティア活動をした人々は世界平均の3倍を超えたそうである。その助け合いの精神には感服する。

中国は急浮上、日本は最下位

ちなみに前回2019年に発表された過去10年間の総合ランキングで、最下位だった中国は、今回95位に浮上。「ボランティアをしたか」という項目では、2009〜2019年の10年にわたり最下位だったが、今回の調査では73位に上昇した。

順位が上がった理由としては、2016年に導入された「チャリティー法(中国慈善法)」によって、人々が寄付をしやすくなったことが寄与したという。経済的に裕福な人が増えているのも影響しているかもしれない。

それでは、総合順位最下位の114位はどこか?

答えは日本である。前回の107位からさらに下がってしまった。

「日本は歴史的に、先進国としてはめずらしいほど市民団体が少ない。チャリティーの規則は複雑で、国の対策に対する期待が高く、組織化された非営利団体の登場は比較的新しい現象だ」とレポートは分析する。

調査項目の1つ「見知らぬ人を助けたか」という点においても、日本は114位と最下位だった。あまりにも残念だ。

人々が人助けを積極的に行う国は、宗教的や文化的な影響だけでなく、法整備も大きく影響している。中国が一例だ。日本の場合は、このレポートでも指摘されたように、「人々の生活を助けるのは国の仕事」だと、「お上」に頼りすぎる傾向はなかっただろうか。国がやるべきこともたくさんあるが、国の制度からこぼれ落ちて苦しむ人は多い。個人レベルでできるサポートはたくさんある。この国際ランキングをみて、皆さんはどのように感じただろうか。

渋谷スクランブル交差点をハチ公口からみた風景
※写真はイメージです
これからも、金持ちはより金持ちに

ところで、前述の不平等レポートには、お金持ちになればなるほど、富の拡大のスピードは速まるということが、過去40年の実績で明らかになったとも書かれている。特に金融の規制緩和とさまざまな金融資産の運用によって、収益率に対する規模の優位性は顕著になりつつある。

「この効果について最も説得力のある証拠は、1980年代以降、大学(米国のアイビーリーグ大学など)の基金の収益率が、最も小さい基金では年率4~5%、最も大きい基金では年率7~9%(インフレと運用コストを控除後)と変化していることから得られている」。そして、この状況は、運用資産を持つ個人にも当てはまるのではないかという。

仮に1995年からと同じぺースで富の不平等が進んだ場合、2070年には世界の上位0.1%の人々が世界の富の4分の1以上を持つようになり、今世紀末には、世界の中間層40%よりも多くの資産を所有することになるとレポートは予測する。

「経済政策の大きな変化やショック(環境破壊、戦争、経済危機)がなければ、世界の億万長者たちの未来は明るい」

ただ、レポートはこうも指摘する。過去のデータが示すのは「不平等は政治的な選択であり、必然ではない」と。

富を蓄えることも、その富を分配することも人間のなせる業である。未来の世界を明るいものにするために、寄付について、そして富の分配について私たちができることを考えてみるべきではないだろうか。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。

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