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頼りになるマンガ Vol.3:「女らしく」とか「男らしく」とか、 うるさい!

  • 2022.1.2
ハコヅメ マンガ 単行本

「女らしく」とか「男らしく」とか、
うるさい!

『キミのセナカ』野原くろ/著

推薦者:トミヤマユキコ

こんなにも控えめでサイコーな胸キュンが。

いわゆるボーイ・ミーツ・ボーイの話です。主人公の高校生タケルは周囲の男子たちに合わせてアイドル写真集を回し読みしたり、好きな女子の話に参加したりしていますが、実のところ違和感を覚えています。

そこに現れたのが、転校生の公太郎。彼は柔道部所属のスポーツマンで性格も明るい。そのうえ人をジャンル分けしない、フラットな見方ができる好青年なんです。だからこそ、タケルが告白をした時も、好奇の目で見たり遠ざけたりしないで、これまで通りの付き合いができるんですよね。

「男らしさ」に縛られることなく、時間をかけて相手を愛する。そのプロセスがとても丁寧に描かれています。若いのになんて人間がデキてるんだと感動しながら読みました!

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キミのセナカ マンガ 単行本

『キミのセナカ』野原くろ/著

〈キミのセナカ/のはら・くろ〉
恋愛、結婚、性……主人公の高校生タケルは、周囲の男子とは違うことを誰にも話せないでいた。公太郎が転校生としてやってくるまでは……。すべてが優しい空気に包まれた珠玉のストーリー。日韓コラボで単行本化。全1巻/サウザンブックス社。

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トミヤマユキ_頼りになるマンガ

トミヤマユキコ

1979年生まれ。少女マンガ研究者、ライター。東北芸術工科大学講師。専門分野は日本近現代文学と少女マンガ。著書に『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)などがある。

『逢沢りく』ほしよりこ/著

推薦者:SYO

決めつけられた自分像を破る少女の成長。

玉城ティナさんにインタビューした際、お気に入りに挙げていた一冊。読んで自分もドハマりしました。親や周囲の求める“いい子”を演じていた少女が、親戚に預けられたことで心境に変化が生じ始める物語。

ほし先生といえば『きょうの猫村さん』のほっこりな印象が強かったのですが、本作はヒューマニティを込めつつも、鋭利で攻撃的なテイスト。新たな環境での生活や人々との触れ合いの中で、押し付けられた鋳型から自意識がはみ出していく心情描写の見事なこと。

見るべきはその人自身であって性別ではないはずなのに、親ですら遠いという哀しみ。一方で「女らしさ」に従う方が楽に感じる自分もいて……。主人公が持つジレンマと切なる承認欲求がぐさりと刺さります。

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逢沢りく マンガ 単行本

『逢沢りく』ほしよりこ/著

〈あいさわりく/ほしよりこ〉
どこか冷めている美少女・逢沢りく。世間的には完璧な家庭で育った彼女が関西の親戚の家に預けられる。最初は敬遠していた親戚との触れ合いの中で、心を通わせていくハートフルな物語。第19回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。上下巻/文藝春秋。

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SYO_頼りになるマンガ

SYO

しょう/1987年福井県生まれ。映画・マンガライター。アニメ、ドラマなどエンターテインメント全般のインタビューやライティングを手がける。月平均20冊のマンガを読むことが日課。特に好きなジャンルはもの作りマンガ。

『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』泰 三子/著

推薦者:ブルボン小林

「現場は今こう」という圧倒的な臨場感。

そんなに今、うるさいだろうか?まあとにかく、今作で描かれる警察のリアルな現場には、どんなスタンスの人も目が離せなくなる。

今作の女性達が所属する組織「警察」は完全な男社会。パトカーの座席に滲む生理の血を黒いタオルで隠し、同僚にゴリラ呼ばわりされながら、それでも共闘しなければ、庶民を悪者から守れない。男性側も、男性だけでこの世の犯罪のすべては防げないことを分かっている。

二者は遠慮のない怒声や皮肉、からかいを浴びせあいながらとにかく、ひたすらに平和を守る。彼女らのやり取りは常に笑いに満ち、サバけた様子だ。是非以前に「現場は今こう」という圧倒的な臨場感がドスンと手渡される。

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ハコヅメ マンガ 単行本

『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』泰三子/著

〈ハコヅメ〜こうばんじょしのぎゃくしゅう〜/やす・みこ〉
交番勤務の新卒女性警察官を主人公としたコメディ。元警察官の作者ならではの描写が説得力抜群。第66回小学館漫画賞一般向け部門受賞。シリアス編『ハコヅメ別章 アンボックス』も。既刊16巻/モーニングKC(講談社)。

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ブルボン小林

ブルボン小林

ぶるぼん・こばやし/1972年生まれ。コラムニスト、小学館漫画賞選考委員。『東京新聞』で毎月第3月曜日にマンガ評を連載、TBSラジオ『たまむすび』 に月1出演。著書に『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』など。

『F.COMPO』北条司/著

推薦者:岩下朋世

アップデートし続ける社会を感じられる。

両親を亡くして身寄りのなくなった主人公は絶縁状態にあった母の弟夫婦に引き取られる。しかしそこは父親が生物学的には女、母親が生物学的には男、そして一見すると美少女な一子は性別不詳、そんな複雑な家庭だった……という込み入った設定で、既存の「男らしさ」や「女らしさ」に縛られない家族像を提示するホームコメディだ。

とはいえ、前世紀末に描かれた作品なので、現在の感覚からするとステレオタイプ的なジェンダー描写に感じられたり、LGBTへの偏見と見えたりするような表現もあるかもしれない。しかしこのマンガがそのように古いものに見えるとしたら、それは世の中の理解がそれだけ進んだ証拠でもある。時代の変化を実感できる点でも興味深い作品。

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ファミリー・コンポ マンガ 単行本

『F.COMPO』北条司/著

〈ファミリー・コンポ/ほうじょう・つかさ〉
『CITY HUNTER』の北条司が手がけたコメディ作品。性別に違和感を持つ夫婦、性別不詳の子供など、LGBTQの人物が登場し、主人公と心を通わせていく。タイトルはファミリーコンプレックスの略語。全14巻/ゼノンコミックスDX(コアミックス)。

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岩下朋世

岩下朋世

いわした・ほうせい/1978年鹿児島県生まれ。相模女子大学学芸学部メディア情報学科教授。専門はマンガ研究、メディア論。最新著書に『キャラがリアルになるとき 2次元、2.5次元、そのさきのキャラクター論』(青土社)。

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