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考える・想像する・言語化する・やってみる。いけばなは思考のカタルシス

  • 2021.12.27

花は好きで、ときどき買って家に飾ることもある。でも、「いけばな」というと正直ちょっとお堅いイメージが……そんなHarumari TOKYO編集部・徳永が、いけばなワークショップを体験してきました。

今回訪ねたのは、鎌倉にある花道家・渡来徹さんのアトリエ「Tumbler&FLOWERS」。渡来さんは、飲食業、ファッション誌の編集を経て花道家としてキャリアをスタートした異色の経歴の持ち主です。

私にとっていけばなはまったくの初体験。時おり花屋さんで花を買うこともあるのですが、自宅に花瓶もなく、ビールグラスに飾って満足しているタイプです。そんな私にも上手くいけることができるのでしょうか?
すこし緊張しながらワークショップがスタート。早速渡来さんが、「花は好きですか?」と私に問いかけます。普段どんな花をどこで買うか、どう飾るか、頻度は、正直に申告します。言葉にしてみると、自分と「花」の距離が客観的に測れるようです。

植物の機能美と、「カワイイ」のポイントを探る。

いけばなの主体は、植物。その美しさ、魅力を人間がどう受け取り、表現するのかが大切なんだそう。
「植物を見て“美しいな”と感じるということは、自分のなかに“美しさ”の基準があるということ」と渡来さん。

「ざっくりと『この花がかわいいな』と思ったとしても、その想いに至った背景が必ずあるはずなんです。その背景を分析、蓄積することで、“良い”と思うポイントの解像度が高まり、自分をもっと知ることにも繋がります」(渡来さん)

今回体験するいけばなは花型とよばれる決まり事によらない、フリースタイルなもの。「型」にこだわらず、自身が感じる“花の魅力”と向き合う時間です。
とはいえ植物にはそれぞれ、もともと備わっている「機能美」があると渡来さんはいいます。

植物は基本的に移動ができず、種が落ちたところで生きていくしかありません。しかしどんな環境であっても、重力に抗い、光に向かって成長していきます。あらゆる土地に環境に適応してさまざまな姿になった、そんな植物の機能美をまずは信じるのが大切だそう。

「それを理解していれば必要以上に鋏を入れる必要もないし、その植物の魅力も見つけやすい、そして引き出すことに繋がるはずです」

家の中のどこに飾るか。想像力と観察力がすべて

たとえば、光の方向に伸びていく枝には張りがあり、見る人も無意識に成長方向へ目線を向かわせます。飾る場所によって光の差し込む向きも変わってくるため、どんな場所に飾るのか、どの位置から見るのか、想像を膨らませながらいけるのも大切です。

今回は枝と花を一種類ずつと、いけるためのうつわを選ばせていただきました。
枝は、鹿の角のような造形が気に入って白樺を、花は赤色にピンときてラナンキュラスをチョイス。うつわはせっかくなのでいつものビールグラスから一番遠いものを……と思い、鮮やかなブルーのお皿を選んでみました。そもそもお皿に花をいけるという発想がなかった! これまでにない感覚で花と向き合えそうな予感です。

「では、今話したようなポイントを念頭に、早速20分ほどでやってみてください。そのうちの7割くらいは、花を観察して魅力を引き出すことを考える時間に割いてくださいね」
植物の魅力そのものを引き出すことと、自分が直感でかわいいと思った背景を大事に、いざチャレンジ。まずはじっと見つめます。

白樺の枝を手に、「ここのクイッとした部分がいいと思うので、この辺りで切ろうかな……」と鋏を入れようとすると、渡来さんから「なぜそこで切ろうと思ったんですか?」と質問が飛びます。
なぜ……? そういえば深く考えていなかった。かっこいいと思ったポイントを活かしたかったのですが、私が切ろうとした箇所で切ってしまうと、きれいに剣山に刺すことができないことを指摘されます。確かに!

いけばなは、切ったら後戻りができません。鋏を入れたらどうなるのか? どの部分を活かし、どの部分を引き算すれば自分の感じた魅力をかたちにできるのか? 想像力をフルに働かせて花を観察します。
いけばなといえば、いけながら思い切り鋏を入れているイメージ。でも実際は、もっとその前の行程の「想像しながら観察する」が一番大事なんですね。

さて、振り出しに戻って枝をくるくると観察しますが、今度はどこで切るべきかなかなか判断ができなくなってしまいました。
そこで渡来さんが「徳永さんが気に入った、その部分の魅力ってなんなんでしょう?」と優しく問いかけてくれます。

なんとなく「いいな」と感じたことを言葉にしながら植物を観察すると、目指したいゴールがだんだんと具体化していきます。でも、家の中でこれを飾るならこれでは大きすぎるな……。とまたやり直し。そう、どこに飾るかもきちんと想像してあげなければ意味がありません。と、渡来さんが何気なくかけてくれる質問や雑談の中でハッと気づくことがたくさん。
なるほど、脳内を言語化することは、答えを導き出すことにつながっていくんだなと実感します。

そうしてできあがった作品がこちらです。テーマは「森のお正月」です(後付け)。

考えすぎても仕方ないと、最初に良いと感じた「クイッとした部分」を思い切ってカット。当初思い描いていたイメージとはまったく違う完成形になりましたが、これはこれで自分のなかの「かわいい!」が表現できている、と自画自賛です。

「では、僕だったらどうするかな、っていうのを見てもらってもいいですか?」と渡来さんが優しく言いながら、少し手を加えてくれたのがこちら。

先生の手直し時は、テーブルの逆サイドから行ったので、光が入る方向が左右逆になっています。Harumari Inc.

グッと空間が活きた静謐な姿になって驚きです。なんと、私の作品は枝の向きが上下逆だったようで、光に向かって伸びる枝の方向が少々ちぐはぐになっていたのです。
渡来さんの手によって、植物の「機能美」に寄り添い、光の向きを意識した流れを作ったことで、何もなかった空間に意味が生まれ、植物もよりいきいきとした姿になりました。
こうして見ると、私の作品はずいぶん奔放ないけ方だったのねと実感(笑)。

また、枝を切るにしても上のほうを残すか、下のほうを残すかの二者択一で私は考えてしまいしたが、渡来さんの目から見れば、枝先を細かく分けたり、一番太い部分が活きるよう真ん中部分を切り出したり、さまざまな選択があったそう。

否定はしない。“好き”は人それぞれ。でも対話は引き出しを増やす

渡来さんが植物と向き合うときの視座の高さに驚きます。それは正統派いけばなの「型」を知っていることや植物の知識、四季折々の日本の季節への思いなどがバックグラウンドにある。対話したり、話をすることで「確かに」と言ってしまうことがたくさん。でも、それはきっと次回の私の“選択肢”のひとつになっていくのでしょう。今までなんとなく飾ってきた花の見方が変わってきそうです。

「植物を見て“美しいな”と感じるということは、自分のなかに“美しさ”の基準があるということ」。一方でその“基準”がなんなのか、はっきりとわかっていない人は多いと思います。

ただただお堅いイメージがあったいけばなですが、実際にやってみると、「自分がどんなものに美しさを感じるのか」その判断基準が可視化されていく、なんともいえないカタルシスがありました。植物を通して自分の「好き」を見つけだす時間ともいえるでしょう。
また、やみくもに否定しない渡来さんとの対話を重ねると、自分の「好き」に自信が持てたり、逆に渡来さんの「好き」を知ることができたり、有意義なものでした。

また、今回は現場にいたカメラマンや編集担当などと語りながらでしたが、これが隣に他の参加者がいれば、その人の作品も見て対話して吸収できそう。
ワークショップという場は、言語化するということによって自分の“好き”を何倍にも増幅できるのではないでしょうか。
日常生活でもいろいろな判断に迷ったとき、“好きの基準”がしっかりしていれば、選択に自信を持つことができそうです。そのトレーニングにも、いけばなはおすすめです。

ビールグラスにはどう飾れば花がもっと美しくなるだろう? そんなことを考えながら、帰路につくのでした。

Tumbler & FLOWERS
http://tumblerandflowers.com
https://www.instagram.com/tumblerandflowers/Harumari Inc.

撮影:yoshimi
取材・文:徳永留依子(Harumari TOKYO編集部)

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