1. トップ
  2. 恋愛
  3. 50代以上の女性たちが教えてくれる、「若く見えるね」より「あなたに似合うね」の価値

50代以上の女性たちが教えてくれる、「若く見えるね」より「あなたに似合うね」の価値

  • 2021.12.22
  • 767 views

【お話をうかがったのは……】

宇壽山 貴久子(うすやま・きくこ)さん
写真家。宮城県出身。早稲田大学卒業後に渡米し、Fashion Institute of Technologyで写真を学ぶ。2002年「犬道場」で写真新世紀奨励賞。雑誌や広告などで活動しながら様々な作品を制作発表している。主な作品に「SAME TIME NEXT YEAR」(2019)など。

「今、一番お気に入りのワンピースを着てきてください」

宇壽山さんの取材は、お決まりの一言からスタートする。被写体となるのは、住む国も職業も違う女性たち。もちろん歩んできた人生もバラバラだ。彼女たちの共通点は「50歳以上であること」「自分が一番好きなワンピースを着ていること」、このふたつだけ。思い思いのワンピースに身を包んだ彼女たちは一人ひとりが驚くほどに違っていて、とても個性的に映る。

「ワンピースはもちろん、小物も全て撮影した女性たちの私物。ヘアメイクもいなくて、全部自分でやってくださいという取材スタイルなんです。本の表紙を飾るエレン・バーケンブリットさんは着ているシルクのワンピースが実は紫と紺のリバーシブルで、レースタイツを合わせた着こなしがすごく格好いいですよね。画家なので、本来こだわりが強い方だと思うんですけど、旦那さんからのサプライズプレゼントだったというワンピースを“自分に似合う一着”に選ぶのも素敵だなと思って」

宇壽山さんの話を聞いていて、50歳以上の女性が選ぶ“自分に似合う一着”の基準とはなんだろう? とふと思う。紫のシルクのワンピースをサラリと着こなすエレンさんもそうだし、この本ではボディラインにフィットした一着を選ぶ女性たちもたくさんいるからだ。

「黒いシフォンのエンパイアドレス」ペナイン・ハートさん(51歳)ショップオーナー/ワシントンDC出身/ニューヨーク在住/未婚一枚で外に飛び出すことができるから、夏はワンピースだけで過ごすと言っても過言ではない。アンティークとアートに囲まれて、感性を大切にして生きていくこと。それが私の選んだライフスタイル。

「もちろん、年齢と共に変化してきた体型を認識したうえで、みなさん選んでいると思います。でも “隠す”ことが一番じゃなくて、色、柄、形、着心地が自分に合っているかどうか。そういうことを重視する方が多くて。黒のエンパイアドレスを着た51歳のペナイン・ハートさんもそう。少しふくよかな体型の方ですが、ドレスが丸みを帯びたボディラインによく似合っていた。日本でこういった着こなしをできる方は、まだ少ないかもしれません」

そもそも「ワンピースのおんな」を撮り始めたきっかけは、ワンピースを着ている女性を見るのが好きだったから。と同時に、年齢を重ねた女性は、社会からその存在や価値を軽視されがちなのでは、というわだかまりを抱えていたから、と宇壽山さんは教えてくれる。街中を歩く素敵な歳上の女性を見るにつれ、彼女たちを撮ることで何か答えが見つかるのでは、と『暮しの手帖』で連載をスタート。約10年が経過した。

「チェックのコクーンワンピース」岡本敬子さん(52歳)服飾ディレクター/東京出身/既婚赤いものが着たいと思っていたときに出会った。つややかで堂々とした肌の女性を海外で見て、夏には肌を焼くようになった。春先から綿密に段階を追って、真夏には完璧になるように仕上げる。それに合わせて、服も、アクセサリーもかえることを楽しんでいる。

「連載の途中でアメリカから日本に拠点を移したのですが、時代の変化よりも、日本とアメリカの女性の違いをこの連載で知ることになったと言いますか。アメリカ、主にニューヨーク周辺の女性たちは、自分が魅力的に見えるポーズをよく理解していて、カメラを向けると躊躇せずポージングしてくれる。片や日本の女性たちは、普段自分の魅力を意識することが少ないせいか、ポーズの指示をさせていただくことが多かったです。もちろん“無意識の美”も素敵ですけど、自己演出というか、自分を“見せる”ことをもっと楽しんでもいいはずで。気づけていないがために自分だけの魅力が埋もれてしまうのは、勿体ないことだなと感じました」

「若く見えるね」よりも「あなたに似合ってる」がふさわしい

日本ではなぜ、女性たちが自分の魅力に気づきづらいのか? そのひとつの要素として「褒められる機会が少ない」ことを宇壽山さんは挙げた。アメリカでのこんなエピソードを教えてくれる。

「取材の時に“そのワンピースを選んだ理由はなんですか?”と尋ねると、“flattering”と答える方がとても多くて。つまり、“これを着ていると人から褒められるの!”ということなんですね。それって、すごく重要なことなのに、日本では面と向かって“素敵ね!”と褒めたり、褒められる機会って少ないですよね。50歳以上の女性は特にそうだと思います。印象に残ったのは、86歳の黒津由子さんのお話でした。おしゃれが好きだった黒津さんを、旦那さんはいつでも褒めてくれたそうです。なんて素敵な旦那さんなんだろうと。パートナーはもちろん、みんなもっともっと褒めあえたらいいですよね」

「編み込み模様のサマーニットドレス」黒津由子さん(86歳)主婦/兵庫出身千葉在住/既婚/子ども1人顔まわりが明るく華やかな雰囲気になるのが気に入っている。おしゃれをして人前に出ることが好きだった私を、夫はいつも応援してくれた。「ハウスキーパーと結婚したつもりはない。君にとっても似合っているよ」と。

たしかに、宇壽山さんが撮影した女性たちを見ていると、「若見え」とか「美魔女」とか、“若さ”が頂点の美意識から、ふわっと解放された気持ちになる。もう取り戻せないものに必死にすがらなくていいんじゃないか? ごくごく自然にそう思えてくるから不思議だ。

「少なくとも私は、“若く見えるね”っていう褒め方を、欧米人からほとんど聞いたことがないです。褒め方はすごくシンプルで“looks good on you!”。あなたにすごく似合ってる!が多いかも。何のひねりもないけど、ひねらなくていいんですよね。70歳の武久眞理さんはすごく大変な経験をしてこられた方で、年齢を重ねてから初めて明るい色の服を着たそうです。でも、とてもよくお似合いで。褒め言葉は“若く見えますね”じゃなくて、まさに“looks good on you!”がふさわしいなって」

「赤いチェックのコットンワンピース」武久眞理さん(70歳)介護サービス会社勤務/神奈川出身東京在住/独身/息子1人欧米では高齢になるほど鮮やかな色を身に纏うと聞いて、初めて手にした赤色。引っ込み思案で人嫌いな性格とは、離婚を機に決別しようと決めた。以来、人との交流が楽しくて、過去の苦労が帳消しになるほど、今は人生が輝いている。

「あなたにすごく似合ってる!」と褒められるのは、いくつになっても嬉しいもの。一人ひとり違った魅力を褒め合う好循環、そのきっかけづくりができたらと、宇壽山さんは写真集に願いを込める。急に褒められると、照れ隠しで「でもこれ安かったの〜」と返してしまう人も、それでいいのだそう。

「アメリカって、交差点で信号待ちしていると“あなたの服素敵ね! どこで買ったの?”って知らない人に話しかけられたり、話しかけたりするんですけど、“これH&Mなのよ!”とか“古着屋で見つけたの!”って、みんなすごく自慢げに言うんですよ(笑)。これは謙遜もあるかもしれないけれど、あなたが素敵って言ってくれた服はここで売ってるわよ、と教えたい、というのが大きい。褒められたことを否定するわけじゃないから、全然いいと思うんですよね。“安かったの〜”と言いつつ謙遜してしまう人は、その後に“でも素敵でしょ?”を付け加えてみるといいかもしれません」

“おしゃれ迷子”も時間と共に、自分らしく変わっていける

とはいえ、巷には自分に何が似合うかわからず、パーソナルカラー診断や骨格診断などの分析に頼る人も少なくない。迷走しすぎて、自分に似合う運命のワンピースと出会うまでの道のりが、永遠のように感じられる時すらある。宇壽山さんが撮影した女性たちのように「私に似合う一着」を見つけるには、どうしたらいいのだろう。

「黒いニットのベビードールワンピース」コジママサコさん(64歳)主婦/新潟出身東京在住/既婚/子ども3人/孫2人主張のある服は、着ると気弱な自分ではなくなる。髪を染めることをやめてから、裸の自分で自由に生きられるようになった。苦労をかけた母が、晩年「お前と歩くとおもしろいんや」と言ってくれた言葉が宝物。

「撮影した一着のワンピースに至るまでに、みなさん当然試行錯誤してきていると思うんです。若い頃はルールに縛られたり、他人の目を優先したり。でも、自分に似合うものがわかるまで、むしろ時間がかかってもいいんじゃないかなって。昔からずっと好きなものもあれば、年代によって好みが変わることもある。両方持ち合わせながら柔軟に、“自分に合わせて変わっていくこと”が大切なんだなって、彼女たちを見ていると感じるんです。64歳のコジママサコさんはバチバチにおしゃれな方ですけど、お会いするとすごくシャイで。“主張のある服は、着ると気弱な自分ではなくなる”とあるように、きっと少しずつご自分のスタイルを見つけていったんじゃないかと思うんです」

だから、自分の好みやマイブームが変わったなら、「それもう好きじゃないの」「飽きたんだよね」と言って、“今の自分”が好きな服やメイク、髪色を自由にまとえばいい。宇壽山さんはそう言って、女性たちの変化を全肯定してくれる。

「パンダのワッペン付きストライプのワンピース」寺本美樹さん(51歳)会社役員/東京出身/結婚歴1回/息子が1人ワンピースは絵になる服だと思う。品の良いものに面白みを加えて、バランスを崩す着方が好き。息子が2年前、14歳でアメリカに留学した。親として簡単なことではなかったけれど、彼が自分の意志で世界と繋がろうとするなら、私は必ず背中を押そうと思った。

最後に、女性が年齢を問わず自分の魅力を見つけるための方法として、こんな提案をしてくれた。

「私は“自撮り”ってすごくいいと思うんです。おしゃれしたり、今日はキマった!という日はSNSで自撮りをアップしてみる。知らない人に“いいね”されると、きっと励ましになると思います。プライバシーが気になる人は鍵付きでも構わないし、インスタのストーリーだけという手も。人間は容姿も雰囲気もどんどん変わっていくから、記録としても意義がある。自撮りは決して恥ずかしいことじゃありません。 “もうこの歳だから”なんて考える必要はないですし、誰かに文句を言われても“知らんわ!”ってスルーしちゃうのがおすすめです」

<書籍紹介>
『ワンピースのおんな』

写真家の宇壽山貴久子さんが、10年以上にわたって撮り続けた女性たち。被写体は全員50歳以上。61人の女性たちがお気に入りのワンピースをまとい、生きていくうえで大切にしていることを語ります。自分らしさ、美しさ、そして女性として生きる一人ひとりの「個」を焼きつけた一枚の写真から、歳を重ねることの素晴らしさが伝わってくる、そんな一冊です。『暮しの手帖』人気連載を書籍化。

取材・文/金澤英恵 写真についたキャプション/すまあみ

元記事で読む
の記事をもっとみる