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エルヴェ・モローが日本のために企画した公演とは?

  • 2015.8.6
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パリとバレエと、オペラ座と。

公演主催者ではなく、舞台で踊るダンサーがプロデュースをする。こうしたセルフ・プロデュースの先鞭を切ったのは、2005年以来日本で2~3年ごとに開催されている「エトワール・ガラ」だろう。オペラ座のエトワール・ダンサーであるバンジャマン・ペッシュが座長として、素晴らしい手腕を発揮し、その公演は開催が待たれるほど人気である。それまでのガラ公演といったら、舞台装置もなく、録音した音源で、出演するダンサーは主催者から提案のプログラムを踊る......というものだった。そうしたガラの概念をがらっと変えたのが、この「エトワール・ガラ」だ。公演のために作品が創作されたり、舞台上で音楽家がダンサーのために演奏し、例えば「眠れる森の美女」のためには城のセットを作るのも厭わずというように、観客を喜ばせることに力を注いでいるのが明らかなのだ。そして何よりもセルフ・プロデュースなので、アーティストとして表現したいと自ら選んだ演目を踊るダンサーたちの舞台上での喜びも大きい。それゆえ、観客の目にも実に快適な公演となる。


この「エトワール・ガラ」のメンバーのひとりであるエトワールのエルヴェ・モロー。オペラ座では昨年から若手ダンサーのリハーサル・コーチという仕事も担っているが、この度友人のピアニストと一緒に、日本のために「Stars in the Moonlight 月夜に煌めくエトワール ~Music & Ballet Concert~」を企画した。音楽とダンスのコンサートと銘打った新しいタイプの公演で、開催は来年1月に東京、名古屋、大阪にて。プログラムの内容が実に素晴らしいのだ。音楽ファンはバレエに魅了されるだろうし、バレエ・ファンは音楽にもより興味が湧くに違いない。この公演について、その誕生の背景から紹介しよう。


左からジョルジュ・ヴィラドムス、ドロテ・ジルベール、エルヴェ・モロー、マチュー・ガニオ。この4名にヴァイオリニストの三浦文彰が加わる「Stars in the Moonlight 月夜に煌めくエトワール ~Music & Ballet Concert~」。公演開催が今から楽しみ! photo:Ann Ray


■音楽とダンス。2つの芸術を楽しめる舞台。


事の始まりは、1985年生まれの若手ピアニスト、ジョルジュ・ヴィラドムスがメキシコに2012年に設立した財団「Crescendo con la Musica Fondation」である。祖国の貧しい子どもたちにクラシック音楽を学ぶ機会を与えたい、というジョルジュの切なる願いの結実がこの財団。それを支援したいとエルヴェが希望したことから......。以下、エルヴェに語ってもらおう。


「3〜4年前に、スイスのガラに出演したときにジョルジュと知り合い、仲良くなりました。翌年、彼がパリでラジオ番組に出演したときに、芸術を通じて貧困の子どもたちを助ける彼の財団のことを話したんですね。僕も何か人道的な活動をしたいと思っていたのだけど、どうしたらいいかわらずにいた時でもあり、この話を聞いて、『まだ若いのにこうした事に自分の時間をかけられるって、なんてすごいことだろう!』って、すっかり感銘を受けました。この財団は小規模ゆえに、お金の行方も透明だし、結果もわかるということも気に入ったので、ぜひとも彼の財団の発展を支援したい! と。そこから、ジョルジュがピアノを演奏し、僕がバレエを踊る、というプロジェクトが生まれました。彼は僕が踊るときに弾くだけでなく、コンサート・アーチストとして独奏もします。ガラを開催して、メセナやスポンサーから資金を集めるのです」


「僕たちのチャリティー・ガラのタイトルは『Luz de Luna』。シューベルトを魅了し、歌曲作品をつくることになったヨハン・ガブリエル・ザイドルの詩『さすらい人が月に寄せる歌』からインスピレーションを得たものです。ジョルジュの友人のピアニスト、フィリップ・カサールと音楽とダンスのプロジェクトについて話した時に、複数の作品をまとめるには公演にテーマがあるのがいいというアドバイスがあって、これを提案されました。この詩から、月、夜、旅人を巡るさまざまな音楽的作品やアイデアが僕とジョルジュの頭に浮かんで......。昨夏にスイスで一種のプレ公演を行っていますが、昨秋のニューヨークのカーネギー・ホールでの公演が、このプロジェクトのオフィシャルな初演となりました。これには ヴァイオリニストのシャーリー・シエムも参加。今春ジュネーブで行った第2回目では、チェロ奏者のゴーティエ・カプソン、ダンサーのイザベル・シアラヴォラも加えて4名で開催しました。僕たちふたりによる音楽とダンスのプロジェクトということを基本にし、それをさまざまな形で発展させていきたいというのがスタート時からジョルジュと考えていることなんです。このプロジェクトに興味を持ってもらえ、日本でこうして『月夜に煌めくエトワール』を開催できることになったのは、とてもうれしいですね。ダンサー仲間でエトワールのマチュー・ガニオとドロテ・ジルベール、そしてヴァイオリニストの三浦文彰が加わって出演者は5名です。『Luz de Luna』と違ってチャリティー公演ではないですが、プログラムはやはり月、夜、旅人からインスパイアされた11作品で構成しました」


(左)ピアニストのジョルジュ・ヴィラドムス。ピアノを弾き始めたのは15歳と遅いが、26歳でローザンヌのコンセルヴァトワールで教授のポストを得た。在住するスイスだけでなく、ヨーロッパ諸国でピアニストとして活動中。彼がメキシコに創設した財団は「Crescendo con la Musica Fondation」。(右)オペラ座のエトワール、エルヴェ・モロー。豊かな音楽性と均整のとれた美しい肢体を武器に踊る彼は、舞台空間に大きな感動を生み出す。©Takeda Masahiko

(左)オペラ座エトワール、マチュー・ガニオ。エトワールに任命されたのは、11年前の20歳のとき。現在オペラ座で最古参のエトワールである。クラシック作品のプリンス役はもちろん、ネオ・クラシック作品でも洗練された踊りを見せている。©Michel Lidvac (中)オペラ座エトワール、ドロテ・ジルベール。愛らしい表情と美しい容姿が魅力。出産復帰後も、正確なバレエ・テクニックによる超技巧で舞台を沸かせ続けている。レペットのミューズとしても活躍中だ。©James Bort (右)ヴァイオリニストの三浦文彰。2009年、16歳のときに世界最難関といわれるハノーファー国際コンクールで史上最年少優勝を果たす。その後、国際的に活動。使用楽器はNPO法人イエロー・エンジェルより貸与されたJ.B.Guadagnini(1748製)。©Kotaro Yokomizo

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