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規格外の花「チャンスフラワー」を1本100円で販売。全国に広がる「花つみ」【マイエシカルでいこう。9】

  • 2021.12.12
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第9回 フラワーロスを減らし、「花のある生活」を広めたい ~フラワーショップ「hanane」代表 石動力さん

ツリーの高さは12メートル。展示は12月25日まで 写真提供:hanane

球体をかたどった電飾とライトがちりばめられた、クリスマスツリーのイルミネーション。高さ10メートル以上ある吹き抜けの天井に向かってそびえるように立ち、やわらかな光を放っていました。

横浜市の「クイーンズスクエア横浜」2階のクイーンモール。『Tender Loving Sustainable Christmas』と題したツリーは、のイルミネーションは、『人に・地球にやさしいクリスマス』というテーマのもとに製作されました。球体は、SDGsを達成した「未来の地球」をイメージしているそうです。

このイルミネーションをいっそう華やかに引き立てているのは、ツリーの土台を彩る花々。東京・港区のフラワーショップ「hanane」が手がけた「チャンスフラワー」の装飾です。アジサイ、ケイトウ、センニチコウ、スターチス、カスミソウ、ヒムロスギ、ユーカリなど、12000本もの花とグリーンが使われています。

ドライ加工した10種類の花とグリーンをあしらったツリーの土台 写真提供:hanane
ワンコインでも楽しめる「花つみ」

hananeは、長さや太さ、形状などが規格外のため市場出荷できない花を「チャンスフラワー」と名付け、「花つみ」というイベント名で東京・虎ノ門の店舗で週2回販売しています。店頭には「1本100円」と書かれたブラックボード。24個並んだ白いバケツいっぱいにあふれる花の香りと色彩に引き寄せられ、ふと足を止める人がいます。

ユリ、バラ、ガーベラ、リンドウ、ストック、ヒマワリ、アルストロメリア……。色とりどりに咲く花はもちろん、ユーカリやアズキヤナギ、シダなどの枝物もあり、ワンコインでもちょっとしたアレンジメントやいけばな作品を作れそう。茎がうねるように曲がっているもの、長さが短いもの、花弁の枚数が多すぎるもの、変色など、規格を外れる理由はさまざまですが、花の部分は色つやが良く、花弁もきれいに整っているものがほとんど。家庭で楽しんだり、気の置けない友人に贈ったりするのには十分な品質です。茎の自然の曲がりを利用した生け方を楽しんでみてもいいでしょう。

店頭に並ぶチャンスフラワー。この日は15県の産地から届いた 撮影:成見智子
茎が曲がったバラ 写真提供:hanane
左が規格外品のダリア。茎の曲がりが優しい風合いを出している 写真提供:hanane
自分のために花を買う、ヨーロッパの女性たち

hananeの代表取締役でフラワーアーティストの石動力(いしどう・ちから)さんが規格外の花を取り扱うようになったのは4年ほど前のこと。ヨーロピアンスタイルのアレンジメントを学ぶため、20代半ばでドイツに滞在した時の経験が、ここにつながっているといいます。

「ドイツでは、ふつうの主婦がマーケットで夕飯の買い物のついでに花を買って帰る。それが当たり前の光景でした。でも日本では花をギフトとして買うことが圧倒的に多く、自分のために買う人はほとんどいないですよね。売れ残りを想定してコストを上乗せする店もあり、値段が高いというのも一因だと思います。多くの人が、もっと気軽に花を手に取れるような仕組みをつくれないかと、ずっと思っていました」

ブーケを作る石動さん 撮影:成見智子

帰国後、石動さんはいったん別の仕事に就きましたが、2017年、知人の紹介で神奈川県内の花農家を訪ね、そこで規格外品の存在を知りました。廃棄される花を買い取り、石動さんが始めたのは、「花会」。飲食をしながら、楽しく自由に作品を作る会です。参加者は、それまで花に触れたことがない人がほとんどでしたが、口コミで徐々にリピーターは増えていったそうです。

「お酒が飲めるから、という動機で始めた人もいますよ(笑)。でもいざやってみて、部屋に花を飾ると幸せな気持ちになる。そして花が枯れてなくなってしまうと、また花会に来てくれるんです。花のある生活っていいな、と気づいてくれたんでしょうね」

ワイン片手に楽しむ、夜の花会 提供:hanane
店内で開催するいけばな教室用の見本作品 撮影:成見智子
花つみも、花会も、いけばなも。

2019年6月にオープンした店舗では、規格品の生花の販売の他、毎週月曜日と木曜日に「花つみ」を実施。花会やいけばな教室も開催しています。

開店時に石動さんが思い描いたテーマは、花のある生活を当たり前に感じてくれる人を増やすこと、そして、ふだん花を買わない人が買いたくなるようなしくみを広げること。最近ではチャンスフラワーをきっかけに来店するようになった人が、プレゼント用の花束やアレンジメントの注文をしたり、花会に参加したり、男性客が家族や恋人に贈る花を選びに来たりといったことが増えたそうです。

廃棄食品を表す「フードロス」とともに、最近は「フラワーロス」も少しずつ巷の話題に上るようになりました。公式なデータはないものの、輸送中に傷んでしまったり、生花店などで売れ残ったりするものを含めると、国内で廃棄される花は出荷量全体の3割ほどを占めるといわれています。

英語の“chance”には、「可能性」や「偶然の好機」といった意味もあります。チャンスフラワーの名付け親は、hananeの創業メンバーの一人。「ポジティブなイメージで、自信を持って売りたい。手に取った人に笑顔のきっかけを届けたい」という意思を込めたネーミング案を、石動さんは即採用しました。

チャンスフラワーのバラを入れて石動さんが作ってくれた花束。“女友達に贈るブーケ”がテーマ 撮影:成見智子
石動さん作、小花をたくさんあしらったグリーンのブーケ 提供:hanane
どんな人も、どんな花も、輝ける場所がある

行き場を失っていた花たちに光を当てる花つみは、業界の垣根を越えて広がり、現在は美容室、アパレルショップ、飲食店、クリーニング店など、全国約70か所で実施されるようになりました。リピーターから、「家に花があることで笑顔が増えた」「家にチャンスフラワーがないとさみしい」と言われることも増えたそうです。

チャンスフラワーの集荷量は、オープンした当初は1か月700本程度でしたが、市場の協力も得られるようになり、20年末には約25000本に増え、最近では50000本を超えるようになりました。

人間には一人一人個性があり、咲ける場所がそれぞれあるように、花にもそれぞれ輝く場所があっていい。そんな思いがこめられたチャンスフラワーが今年、SDGsの象徴としてクリスマスイルミネーションに華を添えました。今日も多くの人がツリーの前で足を止め、その輝きを楽しんでいます。

虎ノ門の店舗での花つみ。ビジネス街を足早に歩く人が思わず足を止めることも多い 提供:hanane

次回は、花をテーマにした学校での出張授業や、環境に負荷をかけない商品の開発など、生花店営業の枠を超えたhananeの取り組みについてご紹介します。

「花つみ」や「花会」のスケジュールを知るには
ウェブサイトでは月別のイベントカレンダーを掲載。インスタグラムではイベントの模様や、店舗や商品などを紹介しています。
ウェブサイト:https://hanane.co.jp
インスタグラム:
https://www.instagram.com/hananesns/
オンラインショップ:
https://hanane.theshop.jp/

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