1. トップ
  2. お仕事
  3. 「あの人は大手から来たからね」と転職先でひんしゅくを買う"大手出身者"の典型的な口癖

「あの人は大手から来たからね」と転職先でひんしゅくを買う"大手出身者"の典型的な口癖

  • 2021.11.18
  • 422 views

「もっといろいろな仕事に挑戦したい」「新しい環境で自分の可能性を広げたい」。そんな思いから転職を考えている人もいるのではないでしょうか。35歳以上の転職事情に詳しい黒田真行さんは「そうした考えをもってベンチャー企業への転職を検討する人がいますが、転職先で“予想外の現実”に直面することも多い」といいます──。

頭の痛い問題に突き当たった女性
※写真はイメージです

◆今回のお悩み
新卒で大手企業に入社し、今年で17年目になります。残業も少なく、さまざまな制度が整っていて働きやすいのですが、長い間同じ部署にいて仕事に慣れ切ってしまい、最近は成長を感じられる機会がありません。この先も同じ仕事を繰り返すだけなのかと、キャリアに停滞感を覚えています。
そこで、新しい挑戦をしたい、自分の可能性を広げたいと思い、ベンチャー企業への転職を考え始めました。ベンチャー企業でならいろいろな挑戦ができるのではと思っていますが、自分が通用するのか、社風になじめるのかなど不安もあります。アドバイスがありましたらお願いします。(39歳・大手メーカー勤務)

大手とベンチャーの働き方の違い

一般的に、大企業とベンチャー企業では社風や考え方、スピード感が大きく違います。こうした違いはもちろん大企業の間でもありますから、まずは今の会社と転職先では、社風も働く環境も違って当然と考えておいてほしいと思います。

違う環境を求めて転職した人でも、「前の会社ではこうだったのに」と不満を漏らす人は意外と多いものです。例えば、長いこと大企業に勤めていてある程度の年収をもらっていると、「この年齢ならこの額が普通」と思い込んでしまいがちです。

しかし、転職して年収が下がることは珍しくありません。前職で管理職になっていても、転職先では一般社員からのスタートという場合もあるでしょう。

働き方についても同じです。近年、大企業では働き方改革が進み、長時間労働や業務の属人化などさまざまな問題が解消されつつあります。でもベンチャー企業は少数精鋭型のところが多く、そうした会社では一人ひとりが幅広い仕事をこなしていく必要があります。

一口にベンチャー企業と言ってもさまざまですから、残業ゼロだったり完全分業制だったりする会社もあるでしょうが、傾向としては、大企業に比べて一人ひとりの守備範囲が広くなりがち。それを「新しい挑戦が多くて楽しい」と捉えるか、「やることが多すぎてつらい」と捉えるかはその人次第です。

ベンチャー企業が「求めない」人材

これはあるベンチャー企業の人から聞いた話ですが、大企業から転職してきた人が、翌日のプレゼン資料が完成していないのにもかかわらず「定時だから」と帰ってしまったそう。

大企業と違い、ベンチャーでは一つひとつのプレゼンが会社の業績に直結します。いわば生き残りを懸けた大勝負なのに、その人は大企業にいた経験から「定時に帰るのは自分の権利」と考えて、それを会社の成長より優先させたわけです。帰ってしまったら他の誰かが穴埋めせざるを得ないのに、です。

守備範囲を広げたくて転職してきたはずの人が、実際にそうした仕事を振られて「それは無理です」「私の仕事じゃありません」と言って断ったといった話も耳にします。そうした人は社員の間で、あきらめの気持ちを込めて「あの人は大手から来たからね」と言われているそうです。

悪い例ばかりを挙げてきましたが、「新しい挑戦をしたい」「自分の可能性を広げたい」と思うことはとてもいいことだと思います。ただ、転職は、その言葉が意味する現実をしっかり理解した上で臨むべきです。

挑戦したり可能性を広げたりするためには、それこそ残業しなくてはならないときもあります。「挑戦はしたいけど定時に帰りたい」「可能性は広げたいけど仕事は決められた守備範囲内でやりたい」──。そうした思いが少しでもあるのなら、転職するよりも、今の会社で成長できる道を模索したほうがいいのではないでしょうか。

ベンチャー企業は、新規事業に取り組む人たちの集団です。そのため、採用するなら自社の事業に思い入れの強い人をと考えているでしょう。選考で応募者を見るときは、そうした意欲や能力、チャレンジ精神などを重視するはずです。

ですから、その逆のタイプ、つまり新しい環境を不安がるような人や、入社前から社風や働き方を心配しすぎるような人は敬遠されるのではないかと思います。

プレゼンテーションを行うビジネスパーソン
※写真はイメージです
「ベンチャー」「大手」で選んでいいのか

転職活動では、自分と志望先企業の相性を見極めることも大事です。仕事を探す際にまず重視してほしいのは、自分の能力を生かせそうかどうか、相手に貢献できそうかどうか、そして相手から必要とされそうかどうか、の3つ。

まずは、この3つを見て応募先の候補を抽出してみてください。その上で、社風や働き方などを比較検討していくのがいいと思います。

現在の転職市場は、ITエンジニアなどの一部の職種や高い専門性を持っているスペシャリストを除けば、ほとんどの職種が買い手市場になっています。特に35歳以上の人はなかなか採用されにくく、転職先が決まるまでに時間がかかる状況が続いています。

こうした状況の中で、最初から転職先を「ベンチャー」「大企業」などの属性で絞ったり、社風や働き方で絞ったりすると、ただでさえ少ない選択肢をますます減らすことになってしまいます。

「大企業出身」は武器にならない

ずっと大企業に勤めていて、35歳以上になってから初めて転職活動をする。こうした人の中には、転職活動の初期には「大企業での経験があるのだからいくつか応募すればすぐ受かるだろう」と楽観的に考えている人も少なくありません。

早いうちに内定をもらえたのに、「もう少し好条件のところがいい」と見送り、その後何十社も落ち続けた人もいます。転職活動は長引けば長引くほど不安が募りますし、その間に年齢が上がれば採用される確率はさらに少なくなっていきますから、今の市場では楽観は禁物と言えるでしょう。

しかし選択肢は少なくても、せっかく転職するのなら生き生きと働ける場へ行きたいもの。自分が転職先でそう感じるために「これだけは譲れない」と思うものは何か、ぜひ一度問い直してみてください。

たとえ苦労は伴っても新しい挑戦や成長の実感なのか、企業規模や社風なのか、それとも年収や休暇などの条件面なのか。そうした優先事項をあらかじめ自分の中で決めておき、合致する企業に選ばれるチャンスがあればためらわずにつかむ。それが転職の成功につながるのではと思います。

構成=辻村 洋子

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役
1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。

元記事で読む
の記事をもっとみる