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「真犯人フラグ」“考察”をめぐる「あな番」からの確かな変化と進化

  • 2021.11.14
西島秀俊さん(2019年5月、時事通信フォト)
西島秀俊さん(2019年5月、時事通信フォト)

今年8月、「『あな番』スタッフが再集結するミステリーを2クールで放送」と発表されたときから、ネット上は賛否両論。「待ってました!」「また、考察合戦が盛り上がりそう」などのポジティブな声と「『あな番』の悪夢を忘れてないぞ」「どうせ『続きはHulu』なんだろ?」などのネガティブな声に二分され、放送直前までそのムードは変わりませんでした。

そして、10月10日のスタートから1カ月超が過ぎ、第4話までが放送された今、「あなたの番です」からの変化に気付かされます。改めて振り返ると「あなたの番です」は序盤から、死体などの凄惨(せいさん)なカットを多用し、視聴者をあおるような脚本・演出を多用していました。

その点、「真犯人フラグ」は勤務先に少年の冷凍遺体が送られてきたり、新居建設現場に娘の靴が埋められていたり、窓ガラスを割ってサッカーボールが蹴り込まれたりなどのショッキングなシーンこそあるものの、さほど扇情的な印象はありません。

その代わりに目につくのは「これ、何かの意味があるのかな」「これはどういうことだろう」と感じさせる思わせぶりなカットの数々。一瞬サッと挿入したり、わざわざ、カメラアングルを変えて撮ったり、俳優の目線や表情に多少の違和感をにおわせたり…。

これらは考察を促し、真犯人捜しを楽しんでもらうための材料をまいているのでしょう。好き嫌いが分かれる演出ではありますが、今回も考察合戦がそれなりに盛り上がっていることから、ここまでは一定の成功と言っていいのではないでしょうか。

「スッキリ」の金曜生放送で考察合戦

さらに特筆すべき変化は、制作サイドが「ドラマや考察を楽しんでもらうためのさまざまな工夫を用意している」こと。

まず、放送前に30名を超えるキャストを発表し、「考察合戦スタート」というムードを演出しました。次に「一番怪しいのは誰!? #みんなの真犯人フラグ」というプレゼント付きの考察ランキングをアップして、視聴者の予想を可視化。

ネット上には、各話を5〜7分程度にまとめたダイジェスト動画、印象的なシーンの切り出し動画、キャストインタビュー動画「バカなフリして聞いてみた」、主要キャストによるガチ考察動画などもアップされ、それをSNS上でシェアして盛り上がれるようになっています。

また、朝の情報番組「スッキリ」とコラボした生考察コーナーも大きな変化の一つ。これまで、金曜の午前9時台に毎週放送され、MCの加藤浩次さんやコメンテーターに加えて、元テレビ東京プロデューサーの佐久間宣行さんや、「1話5回は見る」フリークの安村直樹アナらが考察合戦を繰り広げています。

その「スッキリ」で驚かされたのは、西島秀俊さんが「伏線は全部回収します。僕が責任を持ってプロデューサーと話します」、加藤浩次さんが「サイコパスだけで終わるのだけはやめてほしい」とコメントしたこと。伏線回収とサイコパスの黒幕は「あなたの番です」に寄せられた批判そのものであり、「その反省を生かそう」という姿勢が見えるのです。

そもそも難易度の高い挑戦だった

ここまで書いてきたように「真犯人フラグ」は「あなたの番です」の成果と反省を踏まえた作品であり、「少しでも多く楽しんでもらいたい」という制作サイドのサービス精神を随所に感じさせる作品となっています。

ただ、現在の視聴者は「面白いものなら使って盛り上がるけど、考察合戦に誘導するようなあからさまなものは避けたがる」という傾向があるのも事実。「考察合戦を盛り上げよう」という仕掛けを押しつけるような形にならないよう、気を付けたいところです。

今秋は「真犯人フラグ」だけでなく、「最愛」(TBS系)という長編ミステリーも放送され、こちらの反響は全作の中でもトップクラス。つまり、長編ミステリーというジャンル自体が魅力的なのですが、もともと、リスクの高さから企画を通すことが難しく、「最後まで興味を引きつけながら放送を終えるのは至難の業」と言われてきました。

年に数本しか放送されないジャンルだけに、2クールの超長編である「真犯人フラグ」の挑戦は貴重であり、多少の違和感はスルーしてでも、最後まで見続ける価値のある作品になりそうです。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

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