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「三千円の使い方で人生が決まるよ」 節約のために一番大切なこと。

  • 2021.11.1

原田ひ香さんの著書『三千円の使いかた』(中公文庫)はパッと見「節約」のハウツー本を思わせるタイトルだが、「知識が深まり、絶対『元』もとれちゃう『節約』家族小説!」である。

「人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った」――。「あなたは最近何にお金を使った?」と問いかけるような1文で、本書ははじまる。

結婚、子育て、病気、離婚、老後。これらの人生の節目やピンチを乗り越えるには、どう貯めて、どう使う? 具体的な数字や節約術が出てきて勉強になる。

■目次
第1話 三千円の使いかた
第2話 七十三歳のハローワーク
第3話 目指せ! 貯金一千万!
第4話 費用対効果
第5話 熟年離婚の経済学
第6話 節約家の人々

ある家族の厳しい経済状況がリアルに描かれ、読者は登場人物と一緒になってお金について考えることになる。

小さな選択が人生を変える

主な登場人物である御厨(みくりや)家の女性たちを紹介しよう。

就職して理想のひとり暮らしをはじめた美帆(24歳)、貯金30万円。結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆(29歳)、貯金6百万円。習い事に熱心で向上心の高い母・智子(55歳)、貯金百万円弱。1千万円を貯めた祖母・琴子(73歳)。

彼氏の奨学金、夫の薄給、女友だちのマウンティング、更年期、がん、夫への不満、老後の不安......。3世代4人それぞれに問題を抱え、人生の節目に立たされ、ピンチを迎える。どんな場面でもネックになってくるのが、やはりお金の問題である。

中学生だった美帆に、琴子は冒頭の「三千円の使い方」の話をした。

美帆 「人生が決まるってどういう意味?」

琴子 「三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局、人生を形作っていく、ということ」

その年、琴子からもらったお年玉は3千円。美帆は友だちと何回かマックに行き、本を買った。一方、高校生だった真帆は、お小遣いを足してデパートで財布を買った。

美帆はマックと本。真帆は財布。「二人の性格がよく出ているじゃないか」「今にわかるよ」と祖母は言った。

「美帆の人生は始まったばかりで、自分の小さな選択がどう人生を変えるのかなんて、まったく見えていなかった」

祖母の教え

大学を卒業した美帆は、IT関連会社に就職して1年ほどで、祐天寺に部屋を借りた。実家は北区上十条。いつか東京の南側に住んでみたかったのだ。家賃は9万8千円するが、今の人生にかなり満足していた。

中目黒を散歩していたら、保護犬を育てるボランティアのブースでチワワを見かけた。あまりのかわいさに引き取りたいと思った。

ただし、それには条件があった。飼育できるような「家」、健康な「身体」、もちろん「お金」。保護犬を飼おうが飼うまいが、必要なものだった。今の自分にできることは何か。1千万円台の中古1軒家を目標に、美帆は節約モードに突入した。

一方、真帆は結婚6年目。夫は年収3百万円。3歳の娘がいる。美帆は義兄より給料が高く、配偶者も子どももいない。ところが貯蓄額を見ると、真帆が美帆を大きく上回っていた。

「食費や電気代を見直したってたかが知れてるのよ。固定費をまず削って、節約するのが一番簡単」と言い、家賃やスマホ代の見直し、投資信託のはじめ方など、真帆は美帆にレクチャーしていく。

3千円を使い、美帆は節約セミナーに参加した。講師の話をまとめると、毎月8万円、ボーナス時に2万円ずつ貯めると、1年で百万円。まずは、この「8×12」を脳裏に刻みつけることだという。

「あなたたち、今日はとってもいい三千円の使い方をしたわ。さあ、それでは、どうしたら月八万貯められるのか、一つずつ検証していきましょう。まずは固定費の見直しです」

そもそもお金の価値観は人それぞれ。人生のどのステージに立っているかで、直面するお金の問題も違う......のだが、本書は1話ごとに語り手(20代から70代まで)が代わる。読めばきっと今の自分と共通の悩みが見つかり、何らかの知恵が得られるだろう。

最後に1つ、琴子の教えを。

「お金や節約は、人が幸せになるためのもの。それが目的になったらいけない」

本書は、2018年に中央公論新社より単行本として刊行されたものを文庫化したもの。

■原田ひ香さんプロフィール

1970年神奈川県生まれ。2006年「リトルプリンセス二号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。他の著書に「三人屋」シリーズ(実業之日本社)、「ランチ酒」シリーズ(祥伝社)など多数。

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